05-day

※原作5巻の話
※夢主:春虎たちと同級生の陰陽塾男子生徒。変態。
※BLD注意


「……やっべ、俺春虎に撫で回されたい」


すぐ前の席で、心ここにあらずな状態の春虎が、コンの尻尾を撫でまくっているのをぼうっと眺めながら、名前♂はぽつりと呟いた。
右隣の冬児は、またかというように軽くため息をつき、


「名前♂、お前、この間も春虎とベーコンレタスな噂流されたいだとか、ラブホに行ってヤりたいだとか、一緒にデートしたいだとか言ってなかったか?」


と尋ねる。
そんな呆れ顔の冬児に、名前♂は「それもそうだけど今回は撫で回されたいんだ!!」と宣言する。
そのうえ、


「いやむしろ撫で回すのもいいかも……」と言い出す始末。
名前♂を挟んで左に一つ隣に座っていた夏目を見やると、前の席で繰り広げられている状況についに堪忍袋の緒が切れて、勢いよく立ち上がり怒りの声を上げていた。


「……お前もよくもまあ、こんなバカを好きになったもんだな」


今度は「……てか夏目やコンや京子や鈴鹿じゃなくて、男の俺を選べば万事解決じゃね?」と話の脈絡の見えないことを漏らすなまえ♀に、冬児は心底ある意味で感心した。

見てのとおり、名字名前♂は俗に言うホモ――ゲイである。その性癖は、冬児や春虎がこの陰陽塾に来る前――つまり、出会ったころからわかっていることなので、もう口出しすることはない。

普通は気持ち悪いとかもう絶交だとか、そういう反応をすべきところなのだろうが、付き合いが長いからかそういう気は起きなかった。……いや、そもそも、名前♂が場をわきまえているからかもしれない。
結構危ない発言をするのにも係わらず、それがなぜか辺り触りないように感じるのは、きっと名前♂が絶妙なタイミングで『そういう』ことを口に出しているからなのだろう。


この陰陽塾に入ってからも、名前♂の腐男子ぶりは健在で(特に春虎に関しては酷い)、冬児は塾生……主にクラスメイトから、そのことが原因で孤立したりしないかと肝を冷やしたが、名前♂は自らの性癖を隠すこともなく、いつの間にやら『そういうキャラ』としてクラスに溶け込んでいた。……そういやこいつはそういうやつだったと、冬児は改めて気づかされ脱力した。要するに、冬児の心配は杞憂だったというわけだ。


「んー、なんでかわかんねえけど、好きなものは好きでしょうがねえじゃんか」

むっと口を尖らせる名前♂。
冬児の目線は自然と唇へと引き寄せられていた。

「……そういうものなのか」

冬児は自分を無理やり納得させるように、半分釈然としない様子で答えた。
名前♂の視線が、自分と話している間も、夏目に怒鳴られる春虎にずっと固定されていることに気づき、僅かに眉を顰めた。

「――でも、望み薄、だぜ」

そのことに腹が立ち、冬児は皮肉げに言う。
……自分らしくない、と心の中で悪態をついた。


春虎が夏目を選ぶことは目に見えている。
傍から見ても、幼馴染みの二人はお似合いだ。
お互い軽口を叩きあい、喧嘩も日常茶飯事。価値観の違いでいがみ合うことだって、もちろんある。
それでもやっぱり、最後には――

「……それでも、いいんだ」

やっと、名前♂がこちらを向く。
その黒い瞳では悲しげな光が揺れていた。

名前♂もわかっていた。
わかっているからこそ、……否、わかっていても、好きでいることをやめられない。

名前♂の気持ちを読み取り、冬児は苛ついた。
他人の感情を察するのが上手い冬児だから、余計に腹が立った。

――俺にしとけよ。

「……あ、そ」

くだらねえ、と内心で吐き捨てる。
今自分がどいういう表情をしているのかわからなかった。
そんな冬児を目の前に、しかし名前♂は、いつものように明るく笑ってみせた。





「おい!春虎!コンが駄目なら俺を撫でろ!!」
「「え?!」」

この会話が成されるまで、あと二秒。


▼ 東京レイヴンズ5巻より日常回。ちなみに男主のデフォルト名は『一条悠(はるか)』だったりします
2011/09/12(2013/10/15move)

[ 7/18 ]
|
戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -