熱に溺れる‐signal red

――貴女になら殺されてもいい、と。そう思えた。そう、思えた人だった。
むしろ……この人に殺してほしい、殺されるのならこの人がいい。そう思った。
どうだろうなあ。
結局自分は何がしたかったのか。
殺されたかったのか。
生きたかったのか。
オレは昔から『死にたがり』だと言われてきたけど、もう末期だよ。
最初。暴力の世界にいたかと思えば、財力・政治力の世界を転々として、
次。表の世界に戻ってきて。それから色々あったあと、
最期。十三階段に入った。

細かい説明は語りたくないから割愛するけど、
そして――この全宇宙で絶対に敵に回してはいけない人物を、敵にした。
この人に強固な殺意を向け、それとともに向けられた。
諦めと覚悟の強い光を、その瞳に宿していた。なんだか少し悲しくなって、なんだか少しほっとした。
彼女は身内に甘い。甘い、がしかし。厳しく、容赦がない。
そんなこととっくに解ってる。

「なぁ名前♂よ……てめえはよっぽどあたしに殺されたかったんだなあ」

うん、そうかもね。

と言いたかったけど。口を開いても出てきたのはただ空気が通っただけの、ヒューという情けない音だった。
しゃべれない。喉がやられた。
僕は澄百合学園の運動場に、大の字であおむけに寝ていた。
腹はバックリ切れて血がどんどん出てる。
足は骨折。手は脱臼。
ああこれは死ぬな。ただなんとなく思った。
失血死かあ。綺麗な死に方じゃないな。くはっ。

「んじゃま、あっちで幸せにしろよー」
遊馬や曲識たちもいることだしな。

ははは。なんだよそれ。
別にいいけど。この世界に悔いなんてねえし。
…………………………………。
ない、んだよな?多分。
――いーたん。友。直さん。
人識。舞織ちゃん。崩子ちゃん。真心。小唄さん。狐さん。みいこさん。兎吊木。志人くん。イリアさん。
もう死んじゃったけど、軋識。曲識。双識。子荻ちゃん。玉藻ちゃん。姫、ちゃん。真姫さん。出夢……と理澄ちゃん。萌太。巫女子ちゃん。ちっぱー。
みんな死んじゃったなあ。ほんと、たくさんの人が死んだ。あはは。今日で僕もそれに仲間入りかあ。

青い空に手を伸ばす。
君に似たその澄んだ色。綺麗な色。
なあ、友。お前はあいつの傍で幸せか?

手に入れたいのに掴めない。
そんなどうしようもない矛盾と焦燥の中で。
俺はきっと、ずっと前から、そんな自由を求めていた。

今更気付いてなんなんだよ。
もう手遅れさ。
全部終わった。この物語も――いーたんの物語も、俺の物語も。

「ぁあ。また……な、哀川、さん」

伸ばしていた手の力が抜けて地に落ちた。
それはあの神話にあったように、天に近づきすぎて蝋の翼をもがれた奴みたいだった。
愚かだなあ。この人に敵うわけがないのに。
体が冷めていく。
血が出ていくのがわかる。
水溜りみたく血が溜まって広がってるんだろうなあ。
うえ。気持ち悪。

――心残り。ありすぎじゃねえか。
なんだってんだよなあ。
でも、ま。これが俺の人生、ってことか。

『さよなら、なんて言葉。お前には合わねえよ』

いつかそう、俺に言ったのは誰だったか。
だれだろう。
まあいいや。

それじゃ。


『縁が合ったら、また会おう』


――そうして俺の、意識は途絶えた。

死色の真紅に背中で看取られながら。
気付かぬまま……涙を一筋流して。


( 貴女になら この運命、授けて見せよう )


【 彼はおそらく
  その一つの身体と精神に、生と死という真逆の時限爆弾を内包していたのだろう 】


▼ 戯言シリーズから、哀川さんでした! これ書いたのは、もう何か月も前なんですよね……;; それにシリアスって……。  2011/07/08(2012/12/28再up)

title:哭
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