聖戦に隠された
――降りしきる純白の雪の中。
その少年は――否、少女はその身をシンクに濡らしていた。
真の紅。深い紅、とも言い表すことのできるそれを、彼女は一身に浴びていた。
立ち竦んだままだった彼女の体は、やがて傾ぎ、雪の上に倒れた。
その華奢な手に握られていた、大振りの剣が、ぼすりと音を立てて少女の傍らに転がる。
真白に広がる紅の色。
倒れた少女の息は細い。
所々焼け焦げた金色(こんじき)の髪は、本来の美しさを失い、
僅かに開かれている光の無い瞳は、焦点が定まっているとは到底思えなく、かろうじてもとは碧眼であったことが伺えた。
そして、彼女が身に纏うのは白い装束。
それはもうぼろぼろに裂け、血の色がこびりつき、見るも無残な姿だった。
周囲の建物に目を向けると、跡かたもなく崩れ去って、瓦礫の山が築かれているだけだった。
この場所には、ただ一人、雪に埋もれ始めた少女しかいない。
そのほかは静寂が支配していた。
なぜこんなにも、少女は身を削るようにして戦い、生き絶えようとしているのか。
おそらく、理解できる者は一人といない。
他者を理解できる他者など、いるはずもない。
わかってほしい。
そう語り、そう振る舞ったとしても、決して他人が自分を、本当の意味で受け入れることはない。
それを承知しているからこそ、彼女は他者に理解を求めない。
――否、求めなかった。
自分は助からない。
それを知っていた。
今までのツケが来たのだ。
こんな、これほどまでに穢れた自分が、彼の傍にいることなど、できるはずもなかった。許されるはずも、なかったのだ。
五人一組(ファイブ・マン・セル)。
彼と、彼女と、あの人と、あいつと、わたし。
あれほど息の合ったメンバーはなかった。
考え方の違いから生まれる口論は日常茶飯事だったけど、それでも根っこの大事なところは同じだった。
――あるとき、その真実を知ったならば。
そんな問いを、以前にカルロにされたことがある。
あるとき、がいつで。その真実、がどの真実を指すのかは、皆目見当がつかなかった。
――お前は……どうする、名前♀。
普段のような愛称ではなかった。
このときのカルロの表情が印象的すぎて、逆に記憶が曖昧になってあまり覚えていない。でも、酷く苦悩と葛藤に満ちた顔をしていたはずだ。それを隠そうとはしていたけれど、隠し切れていなかった。
いつものにまにま笑いはどこ行った、と口を開くと、
――はは。私らしくもないですね。
急にもとに戻った。
わけがわからない、と眉根を寄せると、
――気にしないでください。
にっこりと微笑んで。すっかり枢機卿代行の顔に逆戻りしたカルロに、しかしわたしはそのとき、特に気に留めなかった。
どうして、こんなことを今、思い出すのだろう。
彼の言っていた真実とは、一体何だったのだろう。
大したことのない小さな疑問は、結局最期までわかることはなかった。
やがて彼女は思考を止め、息を止める。
力の無い、意識の遠のく寸前で。
少女は、自らの名を呼ぶ仲間の声を聞いた――
( その真実は )
▼ ……ことごとく自分はマイナージャンルがお好きなようで。一体誰得なイスカリオテ(レンタ/ルマギ/カの人が書いてる電/撃文/庫作品です)の夢小説をアップしてしまいました……!ちなみにここに登場している少女は、いわゆるSSSのほうにも載せてあるように『聖ジャンヌ』の断罪衣の一代目の使い手です。
カルロの地のしゃべり方が敬語じゃなかったらいいのに、という私の願望により、夢主が思いだしているカルロの第ニ声は敬語じゃあありません。 2011/05/19
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