ざれごと、たわごと、

――それはもう、いつのことだったか覚えていない。

私は、一人の戯言遣いに出会った。





それはもしかすると、出遭った、かもしれなかったけれど。

それほどに、衝撃的で印象的な出会いだった。





暑い熱い、夏のことだった。
夏休みの、ことだった。
身も焦げて、皮膚も爛れそうなコンクリートからの照り返し。炙り返し。じりじり。
どうしてこんな真夏に、わざわざ学校へ行かなければならないのだろう。
通学路を歩く足取りは、ひどく、重い。
重い重い、鉛の枷を引きずって歩く。

生ぬるい風。

いつもの道のり。
いつもの公園。

ただ、通り過ぎるときに、

いつもと違うことが起こった。


「………………、」


キイ、と小さくブランコが鳴った。
ただ何気なく、そちらを向いただけだった。
それなのに、それだけ、だったのに。

――そこには、とてつもなく存在が希薄で、でも同時にとてつもなく濃厚な。

そんなおかしな少年が立っていた。
少年。学ラン。同い年くらいかもしれないから、青年、と言うべきなのかもしれない。

深い深い闇と、
暗い暗い影を落とした、
どこまでも感情のない、瞳をただ、地面に向けて。

立っていた。

立っている、だけだった。

一瞬で目を奪われた。

その姿に、その影に、その闇に、その纏う空気に、彼自身に。


「――ねえ、」


そうしていつの間にか、声をかけていた。





「いー、ちゃん」

って、いうんだ。

どうやら彼は中学生とのことだった。

高校生かと思った。大人びているね。

そうやって笑うと、彼は無表情で「それはどうも」と返す。


錆びた鉄のブランコ。
塗装はところどころ剥げて、赤い鉄が覗く。
釣り下がった鎖も、握ると絶対に臭いが移るといわんばかりだった。
だけれど、私たちは並んでそのブランコに乗り、その鎖を握っていた。

学校がサボれるならなんでもよかった。
朝からこんなに暑い日になんか、学校になんて行く気も失せるさ。
幸い、このブランコが設置されているスペースは、頭上を木の葉が覆っていて熱中症で倒れるなんている心配はなかった。

「どうせ死ぬのに、生きる意味とかないよな」

ぽつりと彼は、いーちゃんは言った。
笑わない彼の目は、どこまでも虚無だった。

「どうせみんな壊れるのに、壊さない意味とかないよな」

いーちゃんは言う。
そうやって言いながら、私は必死に、なんと返そうか言葉を探していた。
ごめん建前。それは嘘。
本当は何も探してなんかない。
聞いてただけ。
応える気もさらさらなかった。
聞き心地のよい声は、耳を通り抜けていく。

××ちゃんって酷いね

いつしかそんな言葉は吐かれなくなったけど。

幼いころはほとほと感情がない子だったらしかった。
そう、まるで、この隣に居る彼のように。
心が成長していくにつれ、多分私は覚えたんだと思う。
嘘をついて、感情を生み出すことを。
嘘をついて、感情を作り出すことを。

ほんとうはうれしくなんてないよ。
ほんとうはかなしくなんてないよ。
ほんとうはおこってなんかないよ。
ほんとうはたのしんでなんかないよ。
ほんとうなくやしがってなんかないよ。
ほんとうは、ほんとうは、

嘘をついた。

今までずっと、嘘をつき続けた。

そうして、つき続けた嘘は、ほんとうになった。

今では私は、れっきとした『普通の子』。


「さあ。どうだろう」


私は言葉で、人を何度も殺したけれど。

そして何度も、殺されたけれど。


「いーちゃんでもね、君はまだ、大丈夫だよ」


いーちゃんはその虚ろな瞳を、こちらへ向けた。
私にとっては魅力的すぎるその瞳は、しかし、まだ、美しくて。
穢れてなんかないんだろう。
汚れてるはずもないんだろう。


「――だって、きみは、泣いてるんでしょう」


嘘でできた私は、
何度嘘をついても、実のところ、ほんとうになれるのかどうかはわからない。

でも君は、君はまだ、間に合う。

詰め込んだ感情も、
生まれた好きという気持ちも、
殺して、嫌いという気持ちにすり替えた。


「泣いてない」


即答された。
そりゃそうだ。
だって、君、涙なんて流れていないんだもの。
じゃあ後悔はしているのかな。
そんなふうに尋ねたところで、どうせ「していない」と答えるのだろうけれど。
それでも、私はやっぱり、君は泣いていると思うんだ。

君も、同じでしょう。

嘘をついているんでしょう。


「……いつか、いつか、わかるよ」


戯言だけどね。


「……嘘、なんだ」


いーちゃんは言う。
決して笑わずに言う。


「違うよ。嘘じゃあない」


でも君は、君の目は、黒くて暗い色をしているけれど。
虚ろで無に満ちているけれど。柔らかな澱みに、委ねているようにも見えるけど。
それでもやっぱり、澄んでいるんだ。


「きみがまだ、わからないのなら。それは、戯言だよ」


にっこりと笑って返す。
これも、戯言。
嘘。
ほんとうじゃないのなら。
ほんとうになりきれないのなら。
戯言。
どうでもいいことを、吐く。


「……戯言、」


ぽつり、と小さな声を呟くいーちゃん。
僅かに目の中が揺れていた。

生ぬるい風が吹いていく。
さわさわと緑がざわめく。
暑い熱い夏の日。
夏休み。

私は、一人の戯言遣いに出会った。


( 傑作だね )


▼ なんじゃあこのクオリティの低さはあああ!!しかも内容意味不明じゃないかああああという感じの話ですねごめんなさい!! ど、どうか感覚で読んでくださ((殴
  ……てなわけで今更ながら『戯/言ス/ピーカー』を聞いたそのままの勢いで書いた戯言夢です。正式名称は『たわごと』と読むらしいですね。でも、戯言ファンな私は『ざれごと』にしか読めなかったんですよ……;;
  どーでもいいですが、実は裏設定があったりなかったり!← ちなみに、長編(連載)夢主とは別人の夢主ですよ!
  2012/02/11

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