アンダンテ(神喰い)
――神機使いに夏期休暇というものは、ない。
*
「ゴッドイーターはつらいよ」
エントランス一階のベンチに腰を下ろしていたコウタはどよーんとした暗い空気を漂わせて漏らした。
そこは夏日の今日(こんにち)でも、賑やかだ。
人々が行き交い、溜まる熱気を、天井に設置されたエアコンが、冷たい風を吐きだしながら流していく。
「……何その台詞」
そんなコウタに反応したのは、彼の向かい側に座っていたウヅキ。
彼は、自動販売機で買った冷やしカレードリンクを飲んでいた。
「よくぞ聞いてくれましたあああ!……と言いたいところだけど、今の俺にはそう言うだけの元気がないんだ……」
なぜだかいつもと様子が違うコウタに、ウヅキは内心で“もう『よくぞ聞いてくれましたあああ!』って言ってるじゃないか……”とツッコミを入れつつ、首を傾げる。
「どうして?」
と再び尋ねると、コウタは余計にぐったりして昇天してしまった。
あらまあと目をぱちくりさせたウヅキに応えたのは、
「それはな……夏季休暇がないからだ」
いつの間にか後ろにいたリンドウだった。
「世間一般の学生には、夏休みという名の一カ月半もの休暇がある!!大学生にいたってはそれ以上の休暇なんだ!!それなのに!!俺たちゴッドイーターにはそれがない!!あってもせいぜい一週間!!なんだこの差は!!俺は確信した!!支部長に断固抗議すべきだ!!と!!」
いつからそこに?!
と驚く暇もなく続くリンドウの演説。
それが終わったときには、周りにいた神機使いを含む支部のスタッフから拍手までもが上がっていた。あの掃除のおばちゃんも拍手をしていた。
……なんかすごいなあこの支部……。
いやそれは置いといて――リンドウさんは結局、
「――それで、抗議はしたの?」
ウヅキが抱いていた疑問を、彼の代わりのようにリンドウに伝えたアルトボイスは、周囲の人の群れから一歩踏み出したサクヤだった。
相変わらず彼女の服装はすごい。
太股がバーン!!という感じだ。さすがナイスバディ。
これなら夏は涼しいけれど……冬は寒くないのだろうか、とウヅキは憂慮する。
「……それが………………………………………」
リンドウは溜めた挙句。
「デート入れられたんだよちくしょおおおおおおおおおっっ!!!」
と叫びながら、どだだだだだだだとエントランスのニ階へと階段を駆け上がり、そのままゲートを出て任務に行ってしまった。
「がんばれー!!」
「応援してるわ!」
「生きて帰ってこいよー!」
「よっアナグラの勇者!」
とかなんとか言う声援(?)が周りから湧きあがった。
「……つまりは、抗議しに行ったのですが、支部長に断られて代わりにデートを申し込まれた……と」
「…………なんだか誤解しそうな表現だけど、まあそういうことねアリサ」
呆れた。どうでもいい。
そんな視線で、リンドウが出て行ったゲートの方向を見上げつつ、こちらに歩いて来て結論を述べるアリサ。
サクヤは苦笑気味だった。
「でもこれ、いつも通りのアナグラですよね……?」
そう。この賑やかさは日常茶飯事なのだ。……と思っているのだけど。
ウヅキがおそるおそる、サクヤに尋ねると、
「ええ、そうよ」
自分の予想は当たっていたようだ。
サクヤは微笑んで答えてくれた。
やがてスタッフたちは元の持ち場に戻り始める。
さっきまでの団結はなんだったのだろうと、ウヅキは少し寂しく思いながらも、夏季休暇がなくとも、日々を自分なりに楽しく穏やかに過ごして行けばいいのだと自身の中で答えを出す。
まあ、夏季休暇が長い間あるのに越したことはないけどね。
そして、いまだに魂が体から抜けたままのコウタをつんつんと人差し指でつつくアリサを見て、ウヅキは笑みを零した。
*
「おい」
「なーにーぃ?」
ソーマは、一応の先輩ゴッドイーターであるレイナの部屋に足を踏み入れた途端、顔を顰めた。
本気で引き返そうかと思った。それくらいに酒臭かった。
「…………」
ビールと日本酒とワインとウイスキーと……。
ありえない。
この18年生きてきて、ここまでの酒食らいを見たのはレイナだけだ。
もうこいつを最初で最後にしてほしい、とソーマは大きくため息をつく。
これ以上、大酒飲みの世話をすることはこりごりだ。
「おい起きろ」
周囲が酒の空の瓶と缶とグラスに囲まれたソファで、寝ぼけ眼をこするレイナにつかつかと歩いていき肩を掴む。
ソファの向かいにある机ももちろん、飲み干された酒ばかりが積まれていた。
本当にどれだけ飲んだんだと、本日二度目のため息をつく。
この朝凪レイナという人物は、昔から放っておけない。
ただ単に長い付き合いになるからか、それとも自分に真正面からぶつかってきた珍しい人間だからか。それとも、それ以外の理由か。
どうでもいいな。
「やーだーぁ……」
間延びしたしゃべり方になるのは、いつものレイナの酒癖だ。
それは気にしていない。
…………のだが、
「(……こんの阿呆!!)」
服をまともに着ていなかった。
キャミソールの肩紐はずり落ちている上に、めくれ上がって腹も見えてる。
ショーツも眠っている間にそうなったのか、ホックが取れてななめにずれていた。なのでパンツももろに目に入る。
…………本当にあられもない格好だ。
万が一の確立でも、目の前の女を襲う気はないが、それでも、今ここにいるのが自分ではなかったらと思うと、鳥肌が立つ。
危機感がなさすぎるのだ。両方の意味で。
「んん……そーまぁ…」
レイナが身じろぎをすると、その豊満な胸がより揺れて強調される。
……もうこいつをどうにかしてくれ。
うんざりして、ソーマはこめかみを押さえる。
眼前の駄目人間に欲情することはないものの、この彼女の端麗な容姿といい乱れ加減といい酒で上気してほんのりの桜色に色づいた頬といい…………。
はああああああと三度目の盛大なため息をつき、目を逸らした。
そして一度深呼吸をして、自らを落ち着かせ、
「起きやがれえええええええええ!!!」
と声量を大にして怒鳴り上げた。
人生の中でこれ以上とないほどの大声だったと、我ながら思う。
*
ある意味、任務に出ておらずアナグラで過ごしている時間こそが、彼らの休暇であると言えるのではないのだろうか。
夏季休暇というものがなくとも、彼らはもう十分、時に休むこと、また仲間との日々を満喫しているということなのであろう。
andante-アンダンテ- ▼ …………なんか不純……です……ね……。
いや別に、女主とソーマとの恋愛フラグを立てたわけじゃあありませんから(むしろそれは男主とアリs(()ご安心を(?)!それからシメが……むりやり気味……。色々と反省点はありますが、こんなものでよければもらってやってください……!!
これは2011/08/20までのフリー夢小説です(ですが自作発言等は禁止ですよ)! 2011/07/19
PS:フリー期間は終了しました(2011/08/21)。
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