知っている、もう叶わないことくらい
それでも恋情を抱く自分は何て罪なのだろうか

「名前様、半兵衛様がお呼びです」

「ありがとう、三成」

愛らしい笑顔で礼を言うと足早に夫の元へと向かっていった。
その背中が小さくなるまで見送ると、三成は先程の彼女の笑顔を思い出した。

「・・・・・・」

彼女と、名前と初めて出会い自分に微笑んでくれたときに生まれた感情
それが恋というもので一目惚れであった。

あの頃と全く変わらない笑顔
戦で疲れきった心身を癒してくれたあの笑顔

何て儚くて愛しいのだろうか、守ってやらねば

いつか胸に秘めていた想いを伝えられれば、そう考えていた。

しかしそれは脆くも崩れ去った。

名前が祝言を挙げると聞いたとき自分の中で、この嫉妬にも憎悪にも似た感情が心を支配していった。
だが相手が明らかになった途端、その感情は何事もなかったかのように消えた。

何故ならば

「おめでとうございます、半兵衛様」

「ありがとう、三成君」

ふわりと柔らかく笑んだその人こそ、自分が崇拝して止まない豊臣秀吉の唯一無二の友である、竹中半兵衛だったからだ。

「(半兵衛様なら必ず名前様を幸せにしてくださるに違いない・・・)」

想いを胸の奥に仕舞い込み、これから二人の幸せを支えていこうと決意した・・・はずだった。

しかし未だに彼女の笑顔が自分に向けられる度に忘れかけていた想いが込み上げてくるのだ。

「こんなにも近くて遠いものなのか・・・」

自分の傍らで笑っていた名前は今はもうあの方の傍らに居る。

つうっと涙が頬を伝うのを感じた。

三成はただ月に寄り添う一番星に向かって手を伸ばしていた。

(Thanks title/一部改変:唇蝕 )


もう届かないことくらい知っている


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