「(そろそろか)」

一通り書類に目を通した後、自室から出てエレベーターに乗り扉を閉めるボタンを押した直後だった。

『あっ、すいません乗ります!!』

閉まりかけた扉に一心不乱に飛び込んでいく。
俺はいつの間にか少女の腕を掴み、中へ引き込んでいた。

『はぁ・・・はっ、んっ・・・?』

少女は突然のことに状況を把握しきれていなかった。
少しずつ酸素を取り込み、落ち着いてきた頃には今度は頬を紅く染めた。
何故ならば彼女は現在進行形で俺と密着しているからだ。
動こうにも腰に腕にを回しているため出来なかった。

『あ、あの・・・もう大丈夫ですから、その・・・』

彼女の声を聞いた途端、我に帰りそっと手を離した。

「すまない、余りにも急いでいたようだから君の腕を思いきり引いてしまった・・・。痛くないか?
それに転ばないようにと腕を回したのだが、驚かせてしまったな・・・」

彼女を怖がらせないように優しく落ち着いた声で喋った。
正直自分でもこんな声が出せたのかと感心した。

『そんな・・・謝らないでください。腕は痛くありませんし、もとはといえば私が駆け込んで来たので・・・』

俯いていた顔を上げるとそこには見覚えのある顔があった。

「(・・・!この容姿は、第二期候補生の・・・)」

淡いピンク色のセミロング、翡翠色の瞳、そして何よりもこの儚い雰囲気は、イヴ

イヴの翡翠色の瞳が俺の灰色の瞳をただ見つめていた。
女性にこれ程まで見つめられたことはなかった、急に恥ずかしくなった俺は彼女からの凝視から逃れようと質問をした。

「ん?どうかしたか?」
『あっ・・・すみません!その、綺麗だなあと思って・・・』

チーンッ

エレベーターが目的地の階に到着した事を告げた。

『でっでは、私はこれで失礼します!!』

深々と一礼した後、扉が開くと同時に勢いよく飛び出して目的地へと向かっていった。

「綺麗・・・?」

俺はどこに向けられた言葉なのか考えながら、小さくなっていく彼女の背中をずっと見つめていた。

しばらくして扉が閉まると、壁に寄りかかり、ついさっきの出来事を思い出した。

なぜ俺は彼女の腕を引っ張ったのだろうか?
困っていたからか、いや違う。
あの時の彼女、イヴを助けようという使命感からか・・・?
いや少し考えすぎか・・・
しかしイヴを抱き寄せた時・・・今にも俺の腕からいなくなってしまいそうな気がした。

『あっ・・・すみません!その、綺麗だなあと思って・・・』

あの時見せた屈託のない笑顔は可愛らしかった、そして胸の奥がきつく締められるような感じがした。
いったい何なのだろうか、この気持ちは・・・

「恋患いか・・・。フッ、まさかな」

まだ数分という時間しか一緒にいなかったはずだが・・・
今日の俺はどうかしている

目的地の階に着くまで天井を見上げていた。

初めての感情





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