ふと瞼(まぶた)を開けると赤い雲が映った。

そこから降り続ける赤い雨がfirst nameの身体を容赦なく濡らしていく。

起き上がろうとするが力が入らない。
脇腹に感じる激しい痛み、恐る恐る手を伸ばして見るとべったりと紅い血が彼女の手のひらを染めた。

神機は吹っ飛ばされた衝撃で手から離れてしまい、
頭を右に左に向けたが神機は見当たらなかった。

そうか、喰われたのか

正直アラガミにやられた悔しさよりも死ぬことへの恐怖の方が先に頭をよぎった。

アラガミに負わされた傷口からどくどくと血が流れていくのが嫌でもわかる。

『嫌だ。死にた・・・くな、いよ。!?ごほっ・・・、げほっ・・・』

口を押さえたが指の隙間から鮮血が伝い、更に手は紅くなった。
目頭が熱くなる。

目の前の光景から逃げ出したくて

仲間が恋しくて

いつの間にかfirst nameの両腕は彼らを探し求めていた。

『皆・・・どこ?』

「ここだ、first name。俺はここにいる!」

夢だろうか、それとも天国だろうか

愛しいその人がしっかりと自分の両手を握っている。

温かい・・・夢じゃない。

グローブ越しに伝わってくる温もりは彼女の恐怖で染まっていた心をゆっくりと安堵の色に変えていった。

冷たいはずの雨はやけに温かく
否、彼女の頬を濡らしていたそれは雨ではなかった。

隊長、泣いているんですか?

防護服のフードから覗く顔は涙で濡れていて、そんな顔さえ綺麗だと思ってしまった。

「すまない、俺がもっと警戒していれば・・・」

『隊長のせいじゃありませんよ』

ぼろぼろの身体と不釣り合いな穏やかな笑みをジュリウスに向ける。

『感染しちゃいます、手を離してください・・・』

「離さない」

グレーの瞳はしっかりと彼女を捉えて離さなかった。

『どうして・・・』

「愛しているからだ。それ以外の理由が必要か?」

『隊長・・・ありがとう』

弱々しく発せられたその言葉に一瞬だけ端正な顔を歪ませた。
手を握っている力が更に強くなる。

『隊長、ジュリウスに看取られて死ねるのなら本望・・・だよ』

「死ぬな。これは命令じゃない、これは・・・」

ザアザアという雨音などジュリウスには聞こえていなかった。

彼女は最期の力を振り絞り、

私を好きになってくれてありがとう

側にいてくれてありがとう

愛してくれてありがとう

これからも私を

「俺と・・・っ、皆の」

呼吸が荒くなり、次第に途切れていく言葉に不安と恐怖がジュリウスの心を抉る。

『忘れないで』

微かな声は雨の中にかき消されそうになりながらもジュリウスにはしっかりと響き、そして二度と紡がれることはなかった。

「・・・願いだ」

雨と涙で濡れたfirst nameの瞼に触れるだけのキスをひとつした。

そしてまだ温もりが残っている彼女をいつまでも抱き締めていた。


泣き顔の貴方に口づけを


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