思い付きなので名前変換未対応です


それはガキの頃。

小学校の野外活動でイカダを作って海を一周するっつーレクリエーションの時だった。
おれはイカダから転落し、浮上しようとした頭上をそのイカダが通過。大して泳ぎも得意じゃ無かったこともあって、一瞬にしてパニックになって溺れた事がある。気が付けば海岸でクラス全員と教師に囲まれていて、泣きじゃくる班員をぼんやり眺めながら、おれはそこで初めて自分が生前白ひげ海賊団の2番隊隊長を務めていたポートガス・D・エースであった、ということに気が付いた。そう、何の因果か前世での記憶が戻ったらしい。


ポートガス・D・エース、今現在はそんな大層なファミリーネームは付いてねェし、親父は大悪党でもなく、母親は産後こそ危うかったものの、現代医療によって存命している。おれの背中はまっさらで、思い出した当初はぜんぶ幻覚かと思って親父をぶん殴ってケンカになった。


「エース!おはよう」
「おはよう、サボ」


同じクラスにはサボがいて、でも今までのおれはサボとはあんま仲良くねェらしかった。おはようって話し掛けたらめちゃくちゃ不審がられた。サボ曰く、おれはいつも話しかけても仏頂面で愛想が無くて絡みにくい一匹狼だったらしい。それなのに気にかけてくれていたなんて、やっぱりサボはサボだ。それからおれ達はつるむ様になった。サボに前世の話を振ってみたけど、本気で頭を心配されたし保健室に連れていかれたからやっぱり人に言うことではねェのかもしれねえ。


ダダンじゃなくて両親に育てられ、マキノじゃなくて学校で教わり。海じゃなくコンクリートの上で生きて。生まれ変わった、という点では喜ばしいけど、法律で守られたこの時代は前世と比べたら堅苦しくて退屈だった。そもそもおれ、前世と合わせたら32歳になっちまうのか。なんかこんな歳の取り方嫌だな。


「エースくん、おはよ!」
「おー#name1#、はよ」


#name1#。恐らく、前世には居なかった女の子。おはようおはようと皆に声を掛けては返事を貰ってニコニコしているその女の子は、クラスのムードメーカーというやつらしい。一匹狼を決め込んでいたおれにしつこい程話し掛けて来ていたらしく、サボが「おれより執念ある」と言っていた。短い髪の毛がサラリと流れて、にひっと笑うその笑顔はルフィみたいだった。#name1#はおれが野外活動で溺れた時に助けてくれた命の恩人でもある。顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくっていた班員こそがコイツ。コロコロ表情が変わるところは見ていて飽きない。ただガキだ。恋愛対象には程遠い。


「え、なに、どうしたの?具合悪い?」
「ちげェよバカ。なんか……」
「?」

「生きてるな、って思ってさ。」







△▽







それから、おれ達は中学高校を卒業して大学生になった。やっと前世の年齢に追い付いたところだ。スタート地点に立てたような気さえしてくる。
と、言っても何が変わる訳でもない。講義で爆睡して教授に呼び出されたり、ゲーセンで遊び尽くしたりアルバイトを始めてみたり、合コンに参加してみたり。現代を謳歌して日々生きている。おれは朝起きて、転生を自覚した日から欠かさず続けている筋トレを終わらせて、シャワーを浴びて、家を出て、コンビニでパンを数個買って、食べながらイヤホンから流れる好みのアーティストの曲を聴き、途中でサボと会い、喋りながら大学に向かう毎日を続けていた。



「なあエース、#name1#ちゃんって居ただろ」
「あぁ、#name1#。アイツも同じ大学だよなァ、最近全然会わねェけど」
「いやそれがさ、なんか失踪したらしい」
「シッソォオ?」



私もエースくんと同じ学校行く!とか言って必死に試験勉強に取り組んで、大学の合格発表の時には一人隅の方で号泣して喜んでた#name1#。エースくんエースくんって犬みてえにちょこまかしてた記憶は、確かにもう随分と前の事だった。


「おれも全然気づかなかったんだけどよ、3ヶ月前くらいから来てないらしい。家にも居なくて、スマホも財布も置いてあって本人だけが消えちまった感じらしいぞ。捜索願いも出てる状態だって」
「うお、マジでやべえやつじゃねえの?それ。おれアイツにライン送ってみるよ」
「いや、スマホも置いてあるんだって」
「あ、そっか」



残り少ないパックの牛乳を啜りながら、#name1#の安否について話しつつ受講の支度をする。
こういう事らしい。今の世の中は、対岸の火事は噂話としてネタになるのみだ。ガキの頃から知っている#name1#の事も、毎日時間に動かされているおれ達は流れるままに忘れてしまう。ビブルカードがあって、現代の人間たちがもっと他人に関心があれば少しは何かが変わったのかな。分からねえ。







それから更に3ヶ月後
彼女──#name1#──は突然姿を現した。大学に向かう途中の朝、コンビニを通り過ぎた先で、全身ずぶ濡れのまま。


「エ"ース"く"ん"っ!!」

「#name1#…!?うおっ!」


「エースくん、エースくんエースくん!!」

「お、おい!急になん……──」

どすん!と体当たりの如く抱き着いて来た#name1#を受け止める。何故か彼女はあの時のように泣きじゃくっていて、何故か彼女は傷だらけで、何故か彼女は見慣れない見慣れたテンガロンハットを首に引っ掛けていて、何故か彼女は腰に見知らぬサーベルをぶら下げていて、何故か彼女は、おれに



「生き"て"て"くれて、あ"りがどうっ……!!」


と笑うのだった。


ポロリと、涙が落ちた。




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