花宮みょうじ古橋緊急搬送事件から一週間。日本海溝ぐらいだった花宮みょうじ間の亀裂はマリアナ海溝ぐらいに深まっていた。相変わらず俺は花宮とみょうじが出くわしたところにばったり出くわしたりするのだが、いつもだったらマシンガン痴話喧嘩を始めるところを、ここ一週間は蔑むような目でお互いを2秒ほど見つめ合ったあと(いつもは5秒)、花宮がすっと目を逸らしすっとみょうじの横を通り過ぎていく。みょうじはその後ろ姿を女とはとても思えない鬼のような形相で睨みつけ、その後近くにあった物(ゴミ箱、ロッカー、俺、など)を蹴り倒しどかどかと大股で去っていく。痴話喧嘩が無くなったのはいいが、これはこれで困る。むしろこっちの方が困る。今がテスト期間中で本当良かった。俺この環境で部活とかマジ無理泣いちゃう。 「ということでザキ、瀬戸、会議だ」 「また随分と傷増えたな原ぁ?」 「うるせーよ元はと言えばテメェが腕枕とかくっそいらねー気まわしたのが原因だろーがカス」 「んだとテメェ寝る時に枕は絶対必要だろーがカス」 「100歩譲って寝る時に枕は必要でもウチの部にテメェはいらねー」 「んだとゴラァ!!!!!」 「落ち着け二人とも、そんなことより今は花宮とみょうじ間の溝をマリアナから日本に戻すことの方が重要だ」 瀬戸に諭されて冷静さを取り戻す。どうやら俺もこの一週間で大分ストレスが蓄積されているようだ。 「まあ…そうだな…。悪ィザキ、言い過ぎた」 「つーか日本でいいの?日本も結構深くね?エベレスト級じゃん。どうせなら溝無くそうぜ」 「おいこらテメェザキ謝れや、俺に」 俺が素直に謝ったのにザキは丸無視して勝手に本題に入る。しね。 「バッカそもそも溝の無いフリをした花宮とみょうじが原因であんな事件が起きたんだぞ。溝ナシの花宮みょうじなんてそんなのただの兵器だもっと考えてから発言しろ」 瀬戸のごもっともな意見にうんうんと頷いているとガララッと音がして教師が入ってきた。 「おいお前ら何やってんだ明日からテストだぞーもう帰れー」 * 「げー混んでる」 教室を追い出されたため、俺らは高校生の聖地ガスートにやって来た。 「おー原お前名前書いとけ」 「あいよー」 瀬戸に頼まれ用紙に名前を書く。えーっと、4名様の、あー…んー…禁煙席にしとこ、一応。 「書いてきた」 「おーさんきゅ」 どっかの席が空くまで、入り口付近でだらだらする。 「それで何だっけ?」 「…おいザキテメェ一番被害が少ねーからっていい加減にしろよ?花宮みょうじのマリアナ海溝をどうすっかだろ」 「あー…そうだそうだ」 ザキのふざけた発言に瀬戸は私情も乗せて答える。 「つーかあれっしょ?瀬戸も結構キツいんしょやっぱ。あいつらとクラス一緒とかマジ可哀想」 「今教室どうなってんの?」 俺とザキが立て続けに瀬戸に問う。所詮俺らはチームメイト止まり。チームメイト兼クラスメイトの瀬戸は何を見てきたのかを知らない。 「あーそうだな…ゲヘナゲート開きっぱなし、みたいな…」 「「うわぁ…」」 「何日か前妖気に耐えきれずに吉木が倒れた」 「いや年じゃね?それ」 「いや精神的なのじゃね?それ」 吉木とはウチの高校の数学科じーさん先生だ。ちなみに今年から(名前だけ)(半強制的)バスケ部顧問。ちなみのちなみに最近離婚したらしい。 「ザキ様ーザキ様ー」 「はーい」 やっと席が空いたようだ。名前を呼ばれたので返事をする。 「え、ちょっと待て原…え?」 「えーっと4名様…で」 「一人あとから来るんで」 「え、ちょっと待て瀬戸…え?」 「かしこまりました、こちらへどうぞ」 一人どもるザキそっちのけで俺と瀬戸はさくさく進める。 「ごゆっくりどうぞ」 「…ねぇ、聞いてもいい?」 少し落ち着いたザキが控えめに尋ねてくる。 「なんだよ」 「なんで3名様じゃねーの?」 「そりゃもう一人来るからに決まってんだろバカかお前」 「ザキ、あのな、俺らがまず3人で入るだろ?それであとからもう一人来る。さあ、合わせて何名様でしょう?」 「4名様」 「ぴんこーん!ザキくんすごーい!」 「バカにしてんのかお前ら!!!!!!」 せっかく瀬戸がザキにもわかるように説明してくれたのに。こいつキレやがった。あーあー全く、バカはすぐ頭に血が上るから。 「…ねえ、テスト前日になんの用?」 「おー古橋来たな。まあ座れ座れ」 「え、古橋?あ、古橋だったの?」 一人何にも状況を把握出来ていないザキの隣に古橋は座る。 「で?なに?」 「はい、ではこれより第一回花宮みょうじ会議を開催いたします。司会は私、原くんが務めさせていただきます。みなさん、どうぞよろしくお願いいたします」 「「お願いします」」 「え、ちょ、ま、何始まったの!?ねぇこれ何始まったの!?」 「今回のテーマはズバリこちら。花宮みょうじ間の溝についてです。ここで瀬戸くんお願いします」 「はい。えー皆さん既にお気づきの通り、ここ一週間で花宮みょうじ間の溝が急激に深まっています。そのきっかけは救急搬送事件からその翌朝にかけてのどこかにあるに違いありません。しかし僕らはその間花宮みょうじにほとんど接触していない。古橋くん…君だけが頼りだ。この状態のままテスト期間が終われば僕たちに未来は望めない。話してもらえないだろうか…あの日…保健室で何があったのかを…」 俺がふざけてなんか格好いい感じに進めてみたら、瀬戸が珍しくのってくれた。何か裏があんじゃねーかと思ってみていたら、なるほど。雰囲気にのまれてザキが黙った。深刻な面して聞いてるわ。何も状況分かってねーのに。 「…ああ、分かった。しかし残念ながら俺には決定的なきっかけが何だったのかまでは分からない。取り敢えず俺が目を覚ましてから花宮が出ていくまでを話せばいいか?」 「あぁ、頼む」 「まず俺が目を覚ます。隣にみょうじがいて正直驚いたよ。しかも腕枕…ザキしね」 「え!?」 「すまん私情が入った。もう一度話そう。…俺が目を覚ました時、みょうじはまだ寝ていた。カーテンが閉まっていたからその時花宮が起きていたかは分からない。ザキのおかげで俺は起き上がるに起き上がれず、取り敢えずみょうじで暇を潰していた。そして唇を指で押していた時、「おい」と声が聞こえた。声のした方を見てみると、花宮が見ていた。つまりこの少し前からは確実に花宮は起きていた訳だ。ちなみにみょうじはまだぐっすりだ。花宮はみょうじを叩き起こせと言うが、俺にみょうじを叩き起こす勇気などない。軽く体を揺すって名前を読んだ。しかしみょうじは起きない。そこで花宮が乱暴にみょうじの体を揺すって起こしにかかる。やっぱり起きない。起きない上に俺の腕に負担がかかる。そう花宮に伝えると最初からイライラしてた花宮がさらにイライラしながら布団をひっぺがしてみょうじを叩き起こす。そこでやっとみょうじが駄々をこねながらも起きた。 そこからは寝起き感満載のみょうじがぐだぐだしていたが花宮は何も言わずじっとみょうじを見ていた。何考えてるのかさっぱりだったが機嫌が悪いのはよく分かった。対してみょうじの機嫌は良好で俺にアセロラジュースを分けてくれたり、腕枕をまたやってほしいと頼まれたりもした。そんなやりとりをしている内に俺もみょうじも花宮の存在を忘れていった。しかし「おい」と一言花宮が発したことによりやっと存在を思い出す。ここでの花宮は超機嫌悪かった。花宮がみょうじに暴言を吐く。みょうじが暴言を全力で返す。いつもだったら再び暴言が返ってくるところだがその時の花宮は舌打ちをしただけで何も言わず機嫌の悪さMAXで帰っていった…。 以上だ。何か質問ありますか」 「「…」」 俺と瀬戸は愕然とした。古橋お前…花宮の地雷渡り歩いてんじゃねーよ…。俺はお前のこと買いかぶっていたよ。古橋が一番に起きたら空気読んで一目散に退散すると思ってたのに…唇押してたって…もう!!古橋のムッツリ!!!!! 「へー。じゃあ段階的に花宮の機嫌が悪くなってったのは分かるけど何が決定的な原因かは分からないってことか。」 「先程も言ったがまあそういうことだ。ザキにしては物わかりいいな」 …ああ、終わった。今まで散々人傷つけてきたツケが回ってきたのかもしれない。自業自得、か…。 「えー…じゃあみんな、せいぜい残り少ない余生を楽しむように。これにて閉会とします。…解散…!!」 死亡フラグ * * * 2013.01.16 |