大変なことが起きた。あ、俺山崎ね。霧崎第一バスケ部2年山崎ね。それで、大変なことが起きた。俺が原とKRK48の総選挙について熱く語っていた昼休み終了直前、古橋からメールが届いた。珍しい。なんだなんだと原も一緒になってメールを見る。 "助けてくり" 「…あいつ花宮みょうじ絡みの事件に巻き込まれたんじゃね?」 「つーか助けてく"り"って…どんだけ必死?」 「…ん?」 「…どうした原」 「俺もメールきた」 なんだなんだと俺も一緒になってメールを見る。そこにはメール受信2件、と表示されていた。 「…2件?お前人気者だな」 「…いや、残念ながら花宮とみょうじからだわ」 なんだあいつら同時に同じ相手にメールしたのか仲良しだな。原がメールを開く。 "助けてくり" "助けてくり" 「「…」」 * 「おい瀬戸起きろマジ起きろ」 「古橋と花宮とみょうじがやられた」 「…は?」 俺らにも瀬戸を起こすことが出来た事実に感動する暇はない。先ほど届いたメールを見せる。 「…ワックス」 瀬戸は低い声で呟き、普段は隠されているやる気スイッチを惜しげもなく披露する髪型にフォルムチェンジする。 「…おい、花宮とみょうじ知らないか」 覚醒した瀬戸は手頃なクラスメートに手当たり次第二人の消息を聞いてまわる。しかしどいつもこいつも「アチョー夫人みたいなのとその仲間たちに拉致られた」としか言わない。アチョー夫人って誰だ。エースねらってんのか。 「アチョー夫人って生徒会の副会長らしいよ?」 突然原がいらんアチョー夫人情報をぶっこんできた。花宮たちを拉致ったのはアチョー夫人じゃなくてアチョー夫人みたいな人だろーよバカかこいつ。 「…今ウィキで調べただけだぜ?」 俺の怪訝そうな顔を見て原が言い訳がましい発言をする。そういうことじゃねーよ。別にお前が一昔前の少女漫画に詳しくても誰もなんも思わねーよ自意識過剰だな。 「…よし、生徒会室だな」 「…は?瀬戸お前」 「マジだ」 「いやいや居るわけ」 「なくない」 「その被せんのなんとか」 「なんない」 「…」 * 「…花宮っ!みょうじっ!古橋っ!」 生徒会室の真ん前で3人は倒れていた。目立った外傷は無いようだが、顔は青白く体は震えている。 「…くっそ生徒会の仕業かァ…!!」 「ザキ後にしろ。今は3人の手当てが先だ」 確かにそうだ。原も納得したようで、みょうじを担いだ。あ、コイツ流石に一番軽いであろうみょうじを…。仕方ねえ、じゃあ俺は花宮…はもう瀬戸に担がれてた。くそ、あいつ行動までかぶせてくんなよ。そして俺は渋々、一番重いであろう古橋を担…げなかったので引きずった。えっさほいさと俺らは3人を保健室まで運ぶ。しかし(古橋以外が)無事保健室に辿り着いたところで俺たちは驚愕の事実にぶち当たった。 …ベッドが二つしかねえ!!!! 誰もが口を開けたまま何も言えない中、俺の背後から小さくうめき声が聞こえた。 「…ぅ、」 「…古橋!?古橋意識が戻ったのか!?良かった!良かった…!」 いろんな方向から衝撃を与えたことにより意識が早く戻ったのだろう。 「ザ、キ……来て…くれた…んだ…な……」 「…おい古橋…なにが…何があったんだ…?」 瀬戸の問いかけに、俺と原も緊張した面持ちで古橋が答えるのを待つ。 「…花宮と…みょうじが…信頼…寄り…そう……末永く……お幸せ…に……っきもぢわるい…っ!!」 「おい!?おい古橋!!大丈夫か!!!」 古橋は口元を押さえて何も言わなく、いや、言えなくなった。 「…」 「…瀬戸?なんだどうしたんだよ!?」 振り返ると瀬戸が花宮を原に押しつけていた。 「…俺帰る。じゃあな」 「…瀬戸の奴…急にどうしたんだ…?」 「それより重い!早くこいつらベッドに!!」 「…どうやって?」 「「…」」 古橋の体重と花宮+みょうじの体重だったら流石にそっちのが重いだろざまぁ!!とか思う余裕もなく、俺たちは黙り込む。 「…俺にいくつか案がある。」 沈黙を破ったのは原だった。原はいつになく真剣な表情で発案する。 「…どうするんだ?」 「プランA、ベッド1に花宮みょうじ、ベッド2に古橋」 「却下」 「…そうだな。そんなことしたらあいつらが起きるのと同時に俺らが永遠に眠ることになる」 「…」 「プランB、ベッド1に花宮古橋、ベッド2にみょうじ」 「却下」 「…そうだな。そんなことしたら古橋への罪悪感で生きていけねーわ」 「 」 「プランC、ベッド1にみょうじ古橋、ベッド2に花宮」 「うーん…」 「ここで問題になってくるのはみょうじを女とカウントするかどうかだな」 「ううーん…」 「プランD、ベッド1に花宮、ベッド2にみょうじ、床に古橋」 「うううーん…」 「ここで問題になってくるのは古橋を病人としてカウントするかどうかだな」 「いや病人だけど!?しかも所々怪我してるけど!?」 「そりゃてめーがやったんだろ」 「…プランCだな」 みょうじ=女<古橋=病人怪我人である。 「…いいのか?この作戦は両刃の剣だぞ?もし古橋がまた一番早く目を覚ませば俺らの命は助かる。が、もし花宮が一番早く目を覚まそうもんならあいつの機嫌がすげー悪くなる上にもしかすると古橋に再び危険が及ぶかもしれない」 「…え、なんで?」 「え?」 「え?」 「「…」」 原こいつ何言ってんだ?花宮はベッド独り占めしてんだから怒んねーだろ。どっちかっつーと怒んのみょうじじゃね? 「…オレハフルハシユカコースガイイトオモウナー」 にしし、と笑って原は言う。 「…隣が花宮なのは一番却下だが隣古橋だったらみょうじ多分あんま怒んねーよ」 「…じゃあプランCでいんだな?俺はDがいいと思うっつったけどそれを押し切ってCにすんだな?」 「お、おぉぉう?」 「よし決まりだ早くこいつら降ろそう腰折れる」 とりあえず一旦古橋には床で寝ててもらって(ごめん古橋、どうやっても一瞬床挟むわお前)、原からみょうじを受け取りまずみょうじをベッド1に寝かす。それから二人がかりで花宮をベッド2に寝かす。最後に古橋を二人がかりでベッド1に無理やり寝かす。 「ふぃー」 「じゃあ俺帰るわ」 「え」 「お前は保健のセンセーに断ってから来いよ?」 じゃなー、と原はいつもの調子でガムを膨らませながら行ってしまった。こいつらに何があったのか、こいつらは大丈夫なのか、少し気にならないこともなかったが、瀬戸が平気な顔をしてたってことは多分大丈夫なんだろう。 「古橋、頼むぜ…」 そう呟き、俺も保健室をあとにした。 お前のこと信じてるから * * * 2013.01.05 |