毒花繚乱 | ナノ


花宮は古橋となり、古橋は花宮となった。原は俺となり、俺は原となった。そして。


「古橋くぅんどうしてくれんのコレ?お前瀬戸くんクソヤローの三択だったらどう考えてもクソヤロー以外だったよねぇ?」


花宮(みょうじ)がみょうじ(古橋)の胸ぐらを掴んで何度も何度も頭突きをかましながら威嚇している。すごい絵面である。事情や人となりを知ってようが知ってまいが、すごい絵面である。


「やめて花宮くん、DVよ」
「私ぶるならもっとクオリティー上げてくんない?っつーか私の顔と声でその名を口にするな」
「お前がみょうじだったのはもう前世だ、忘れるんだな」
「ざっけんな」
「これからは俺…じゃないのか、もう。…私が、みょうじなまえとして生きていくわ」


死んだ魚みたいな目をしたみょうじは、花宮の腕をたしなめてから、胸に手を当ててそう淑やかに言い放った。


「…みょうじって中身古橋の方がなんかモテそうだな」
「死ね」


黒髪をさらりと揺らしながら小さな声量で話すみょうじはどこか新鮮で、俺は思ったことをそのまま口にした。瞬間、花宮(みょうじ)の蹴りが原(俺)の尻に炸裂した。身体が軽く吹っ飛んだのを感じる間もなく、すぐに額から衝撃と共にドカンという音がした。ああ、この感覚は俺でも原でもおんなじなんだな。


「…花宮くんやりすぎよ。原くんが死んだわ」
「おいやめろその口調」
「ねえマジで原くん死んだんだけどどういうこと?なにこれザキの魂が死んだの?」
「いや俺ここ」
「…」


確かに、原は俺の眼下に倒れたままぴくりとも動かない。そして、その様子を俺(原)が覗き込んでいた。
…アレ?なんで原も俺も俺の視界に映ってんだ?俺(原)が怪訝そうな顔で此方を見ている。エッ何これなんだか不思議な気持ち。


「…アーユーザキ?」


そして俺(原)は、此方を指差しながらそう問うてきた。俺(原)の認識の通り、今指さされている俺(俺)こそが山崎弘の本質・山崎弘である。


「ああ、俺が山崎だ」
「…あーあ」
「あーあって何!?!?!?」
「ねえキャプテン、そろそろ僕帰りますね。自分の身は自分で守れバァカがうちの部の鉄則だったと思うんで」
「他人の不幸は蜜の味もうちの部の鉄則だ、健太郎、残れ」
「ねえ原あーあって何!?!?!?」


俺は騒ぎ立てる。瀬戸がいようがいまいがどうでもいい。だって俺の目の前に原も俺もいる!!!!じゃあ俺は何だ!!!!由々しき事態!!!!


「ザキお前は何になってもうるさいね」
「瀬戸教えてくれ!!!俺今どうなってる!?!?」
「大丈夫、いつも通りだから」
「んな訳あるか!!!!」
「んじゃ、おつかれーっす」
「テメェ瀬戸くん待てやコラァ!!!!」
「落ち着いて花宮くん」
「誰が花宮くんだ古橋コラァ!!!!」
「古橋くんはあっちよ」
「俺は古橋じゃねえ」
「ねえこれ魂何分以上抜けっぱ続くとマジで死ぬみたいなこと無いよね?原くんこのまま死なないよね?」
「るせえお前は死んでもどうせすぐ生き返ってくんだろウゼェ」


瀬戸はマジで帰るし、他の奴らも俺の魂の叫びなぞ聞いちゃいない。どいつもこいつも自分のことしか考えてねえ。クソッ。
…いや待てよ?俺、自分の胸に手を当ててよーく考えてみろ。俺は果たして他人のことが言えるのか?俺だって、今自分がどうなっているのか、ということにしか考えがいってないんじゃあないか。人のふり見て我がふり直せ。先ずは原の身になってものを考えてみようじゃねえか。


「…原、そのなんだ、もう一度その横たわってる原くんに頭突きをかましてみたらどうだ。もしかしたらお前だけでも元に戻れるかもしれねえ」
「うるせえ無機物」


カッチーン。瞬間、俺の脳内でそんな音が聞こえた。勿論、癇に障った、いや最早癇に殴りかかってきた音である。


「原テメェ他人がせめてお前だけでもと思っ…無機物!?!?!?無機物ってどういうことだ無機物!?!?!?」
「…ハイ」


俺(原)は両人差し指を両耳穴に突っ込んで俺の話を聞いたあと、自分の鞄の中から小さな手鏡を出して俺へ向けた。其処には俺が俺だった時に押し込められていたロッカーが映っていた。


「いやなんでだあああああああ!?!?!?」
「おいうるせェぞザキィ!!!!!」
「花宮なんでどういうこと!?なんで俺ロッカーになってんの!?!?」
「知るかよテメェで考えろ!!!!!こっちは忙しいんだよ!!!!!」


俺が喋るたびにロッカーの扉がぱかぱかと動くのが鏡に映る。え待ってこれ全部口なの?デカくね?っつか目どこ?声帯どうなってんの?なにこれ?


「アッ戻った」


そうしている間にも俺(原)が原(不在)に頭突きをかまし、あろうことか「戻った」などと口走る。その証拠に原が立ち上がり、山崎くんはぴくりとも動かなくなった。


「きたわこれ、んじゃお先でーす」
「「させるか」」


我先にと鞄片手に部室を出ようとした原を、すぐさま古橋(花宮)と花宮(みょうじ)の蹴りが襲う。再び原はぴくりとも動かなくなった。床に原くんと山崎くんの屍が転がる。
しかし、原の犠牲によって、俺たちは元の身体に戻ることが出来る、ということを知った。
花宮、みょうじ、古橋、そして俺山崎による最終決戦が、今始まろうとしていた。


/20180311