毒花繚乱 | ナノ


「え?なんで?みょうじさんなんで?っつか待ってコレ動かない身体動かないこっから出れない、え、なんで?」
「俺!?原!?俺原になってる!?!?ウッソォ!?!?」


分かりやすく狼狽する原とザキを目にして、俺は溜め息を吐き出した。
なんか、もうどうでもいい。俺はきっと嫌な夢でも見ているのだろう。
だって、衝撃を与えるだけでこんな簡単にポンポンポンポン人格入れ替わりが起こっていたら、俺たちは全員木吉になっている筈だ。全員は盛ったにしても少なくとも古橋と原は木吉だ。


「なんだ、お前たちも入れ替わったのか」
「そんなシフト取っ替えみたいな感覚なのコレ?」
「ふはっ、ざまあねえな」
「ほんとにね。ってか笑ってないで出してくんない?ザキお前いつからこん中入ってたの?」
「目が覚めたら」
「ついに酒に手を出したか」
「酔っ払いじゃねえよ」
「心なしか身体が熱い気がする」
「俺子ども体温だからな」
「キモ」
「お前そんなこと言ってっとこの前髪上げてその辺走り回るぞ」
「やめて、ごめん」


入れ替わったことにより、息を吐くように互いの身体を貶したり人質に取ったりし始める原とザキを、流石この現象の先駆者、花宮古橋は慣れた様子で、眺めている。


「いやいやもういいでしょ。十分楽しんだでしょあなたたち。戻る方法も分かったんだからさっさと頭かち合いなよ」
「そうだね瀬戸くんの言う通りだね、よし原くん頭貸しな」
「ほら原くん呼ばれてるよ」
「いや原くんお前」
「うそでしょみょうじ、俺今なんか身体動かないんだって」
「ふーん、じゃあザキでいいや」
「うそでしょなんで俺!?」
「いや何嫌がってんだよ、今からお前らの頭かち合わすんだからどっちにしろ同じだろ」
「「それな」」
「まあどうせザキのだしいっか、ハイどうぞ」
「うわ気持ち悪」


一悶着の後、原は優しさなのかヤケクソなのか、少し屈んでザキの頭をみょうじに差し出した。しかしみょうじも間髪入れずに口にしたが、ザキがみょうじへ自らの後頭部を差し出す絵面はどうにも気持ちが悪かった。まあ実際にその行動を起こしているのは原だが。というかその気持ち悪い絵面をザキへ見せつけている節があるように思えてならないが。全く、随所に性格の悪さを散らしているあたり、相変わらずウチはどうしようもない。


「よーし歯ァ食いしばんな!!!!」
「「痛って!!!!」」


ゴチンというまるでジャイアンがクラスメートを殴るような効果音に、原ザキの悲鳴。みょうじったら何の躊躇もない。
まあしかし、この後花宮古橋の頭もかち合わせてもらって、今回の件は漸くこれで一件落着というこ…


「あれ?お前誰だ?」
「あれ?おっかしーなー、僕自分のこと原一哉だと思ってたんだけど、あれ?僕の目の前にいるの依然原一哉くんだなー、あれ?お前誰だ?」
「俺山崎」
「そっかーザキかー」
「「…」」
「「アアアアアアアア!!!!」」


原ザキはお互いの顔を見合わせた後、頭を抱えて叫び出した。しかしそれも仕方の無いことだろう。あれだけ思いっきり頭をかち合わせたのに、どうやら人格は戻らないらしい。あーあ、なんでこうめんどくさくなるかな。俺もう帰っていいかな、ぶっちゃけ関係無いし。


「おいクソ女、お前被害広げただけじゃねえか。っとに生きてる価値ねえなテメェは」
「いえ古橋くんほどでは」
「…みょうじ気を確かに持て、古橋くんは俺だ」
「お前その身体で私に触んな。いやもう良くない?あなたが花宮くんで。古橋くんだったのはもう前世なんだよ、忘れろ」
「無慈悲だ」
「ふざけんなここまで来たらお前らも何か裁きを受けろ」
「え、お前らってまさかみょうじと俺?」
「他に誰がいるんだよ」
「裁きって花宮お前罪の意識あったんだな」
「こいつは悪いと分かっててやるクソヤローだからな」
「ほざいてろ、健太郎歯ァ食いしばれ」
「俺とみょうじが入れ替わんの?別にいいけど、いいの?」
「…」
「みょうじが瀬戸に…?それはダメだろ」
「痛った!!!!は!?!?」


花宮の怒りの矛先が俺とみょうじへ向いたのは別に構わない。しかし、俺とみょうじが入れ替わろうものなら、こいつはその能面をかなぐり捨てて更に腹をたてるのでは、と思った。だから確認をした。そこまでは良かった。しかし、その確認に対していち早く反応したのは今世花宮(前世古橋)で、更にその行動力はなおも健在。つまりは前世古橋がみょうじに頭突きをかましたのだ。


「…」
「…俺の視界に花宮、」


みょうじは眼前の麻呂眉を見ながらそう呟いた。それから、自らの両の手に視線を落とした。


「声が…高い。手が…小さい。俺は…みょうじ、なのか?」
「ざっけんなみょうじは私だよバァァァァァカ!!!!」


花宮はみょうじの胸ぐらを掴んで激しく罵る。
今世花宮(前世みょうじ)、そして今世みょうじ(前世古橋)が誕生した瞬間であった。
この部はもうおしまいだ。さっさと帰ろう。


/20180218