俺は霧崎第一高校バスケ部、山崎弘。チームメートたちと体育館で練習中、 黒ずくめの男が怪しげに体育館周辺を徘徊しているのを目撃した。 徘徊現場を見るのに夢中になっていた俺は、背後から近付いて来る、もう一人の仲間に気付かなかった。俺はその男に多分毒薬を飲まされ、目が覚めたら… (部室のロッカーの中に押し込まれちまっていた!!) いやなんでだよ!!!!!あれ?声も出ねえうそだろ!?!?つーかあの徘徊してた奴、ジンでもウォッカでもなく絶対妖怪。つーか声出ねえし手足も動かねえしどうしよう!?え、なんで?妖怪あいつ何を企んでやがる?なんで俺こんなことになってんの? ロッカーの僅かな穴から覗くことの出来る部室内は、練習中ということもあり、閑散としている。 俺には頼れる知り合いの発明家も、親父が探偵をやっている幼馴染もいなかった。いるのは、人でなしゲス野郎サイコパス軍団だけ。あーあ詰んだなコレ? …と、そこに、まるで神が救いの手を差し伸べるかのように、部室の扉が開いた。 (助かった…!?) 「…」 「…」 そして部屋に入ってきたのは、みょうじと古橋であった。だめだ助からねえ。俺は意気消沈した。 「…話ってなんだ」 「…」 俺が此処にいることに、奴らが気づく筈もなく、古橋は口を開いた。しかし、古橋の問いに、みょうじは答えない。 …え、これもしかして…告白、?うそ告白?やだ告白? 「…花宮の野郎が変だ」 「…」 「…どう思う、古橋」 「…気のせいじゃないか」 「そんな訳あるかコラ」 「…いや、気のせいだろう」 「古橋くんよ、私があの野郎とどれだけの時間一緒にいたと思う?」 「…」 「どれだけ私があの野郎のこと見てたと思う?」 …えっと、これは、なんだ、その…告白は告白でも、花宮への告白になる、のか?古橋に?みょうじが?うん?みょうじが古橋に花宮への告白?…うん? 「…俺が分かるわけないだろう」 「…ザキにはお前こっち側のが向いてるとか言われたけどさ、私マネージャーなんだよね、ここの」 「…」 「なめんなよクソ眉毛コラ」 ああ、そういえば言ったなそんなこと、いつだったか。いやだってあいつ、ウチのアイデンティティの塊且つ身体能力ヤベェじゃん、勿体ねえじゃん。 そんないつかの回想をしながら、俺は再度、ロッカーの穴から奴らの様子を伺った。奴らは、見つめあっていた。奇しくも身長差がいい感じである。え、なにこの背徳感。 「…」 「…」 「言っている意味が分からない」 「ああんテメェこの期に及んでまだしらばっくれる気か?」 突如、ダンッ!という大きな音と共に俺のいるロッカーが揺れた。勿論、これは地震なんかではないだろう。そして、先程まで覗いていたロッカーの穴から、今は何も見えなくなった。 …これは。 いい感じの告白現場から一転、みょうじがキレて古橋を突き飛ばした結果、古橋がこのロッカーに飛んできたに違いない。恐らく、この穴の黒は、古橋の後頭部だ。しかし、まずいぞ。いよいよ五感のうち、機能しているのは聴覚だけになってしまった。 「お前、古橋じゃねえだろって言ってんの」 「…」 「オイなんだその目は、私が知っている古橋はそんな目はしない、もっと死んでいる」 「…だとしたらみょうじはどうする気なんだ」 「おいいつまでも古橋のモノマネすんのやめろ気持ち悪い」 「モノマネじゃない、本物だ。で?俺が古橋じゃないとしたら、みょうじはどうする気なんだ。何か手でもあるのか」 「手はないけど取り敢えず手は出したい」 「は?」 「どっちも殴る」 「落ち着けみょうじ」 「だーからやめろってその古橋っぽい喋り方!!!腹立つ!!!つーか何お前らシコシコ隠し事してんだよどうせ瀬戸くん原くんあたりも知ってんでしょ!?バカなの!?あんたたち如きが!!!この私に!!!そんな隠し事が通用すると思ったの!?!?する訳ねえだろバァカ!!!!!」 「…」 え…え?さっきから黙って聞いてりゃあなんだ。古橋が…古橋じゃない?…え?瀬戸も原も知ってるって何、え、俺何も知らないけど、なんかあったの?いや待て、確かに古橋今日様子おかしかったよ、叫んでたし。ついでに花宮もおかしかったよ、殴られてたし。…うん?あれ、それって、イヤイヤ…まさかそんな、そんな訳ねーよ。古橋と花宮が入れ替わってるとか、流石にねーわ。またクソほど馬鹿にされるの目に見えてるから口に出さねえぞ、こんな非科学的な思いつきがよぎったとか。まあ今どうせ声出ねえんだけどよ。 「…ふはっ」 「…」 「ああそうだよ、俺は古橋じゃねえ、花宮だ」 「…」 「…とでも言えば満足か?クソ女」 ウッソーーーーーー!?!?入れ替わってんじゃねーか!?!?口に出さなかった時に限って!!!!入れ替わってんじゃねーか!?!? 「…テメェ、私の古橋返せよバァァァァァカ!!!!なに古橋乗りこなしてんだオメーは!!!!古橋はお前のエヴァか!?!?ちげーだろこんのバァァァァァカ!!!!!」 「お前のエヴァでもねーだろバァァァァァカ!!!!!つーかテメェは相変わらず目ェ腐ってんな、どう考えてもあっちのが俺を乗りこなしてただろうがクソが!!!!!」 「あっちはどう見てもエヴァ側が悪いんだろうが!!!!制御不能だっただろうが!!!!」 「お前古橋贔屓も大概にしろよ!!!!」 「古橋を上げてんじゃねえお前を下げてんだよバァカ!!!!」 「なんやもうバレとるやん」 「「…っ!?!?」」 …え?待て待て待て待て、今、関西弁が聞こえたな?それから絵に描いたような古橋とみょうじの息を飲む音が聞こえたな? どうやらこれは…確実に、妖怪が出たな? 「モウバレトルヤン」?なに、待って俺ついてけてない。バレとるって何、何がバレとるやん? 「…なんであなたがウチの部室に入ってくるんですか、不法侵入でしばきますよ」 「許可なら取っとるもーん。んで、何や花宮、結局マネージャーちゃんに隠し通せなかったん?」 「…今吉さん待ってください、誰に向かって今話しかけてます?」 「花宮やけど」 「いやこれ古橋ですけど、ね、古橋」 「ああ、俺は古橋康次郎だな。全く、後輩の顔も忘れたんですか」 「ぷぷぷ何今更協力してるん?無駄やで、そこの古橋くんが「あ、僕花宮じゃないですね」って会うて3秒で吐いたわ。ワハハわし今絶妙に似てへんかった?」 「「古橋殺す」」 …え?ちょ、待ってくれ。古橋を殺す前にまずは俺を助けてくれ、ねえ、ちょっと、ちょっとおおおおおああああ声出ねえチキショーーーーー!?!? 「「うるせえザキちょっと黙ってろ!!!!」」 「え?…あれ、声出た」 /20171219 |