毒花繚乱 | ナノ


「合宿も今日で最終日、っつーことで総まとめとして紅白戦を行う」


於体育館。ホイッスルを首からぶら下げ、バインダーを片手に、我らが花宮は、言った。


「いやこの三日間の何をまとめるんだよ俺たち何しにきたんだよ」
「最後だけバスケしときゃバスケ部合宿みたいな雑な感じがウチのWCに行けない要因だと思います」
「いいかお前ら、今回の紅白戦のルールを説明する。一度しか言わないから一度で覚えるように、特にザキ」


それに対し思い思いの意見をザキと原はぶつけるが、既にこの紅白戦は花宮の中では決定事項らしく、ごりごりと強引に話を進める。嫌な予感がする。


「まずゴールにボールを入れたら1点、相手を張り倒したら10点、相手の首を取ったら100点、以上、なんか質問あるか」
「何ソレどこの関ヶ原?」


そして始まり終わったキャプテンの簡易過ぎる説明に、間髪入れず原が意見した。ウンそうだね確かに今の説明はキッツいね。え、その合戦多分俺も参加させられるんだよね、嫌だなあ。


「関ヶ原じゃねえよ、バスケ」
「嘘だよ花宮の説明後半二つ球技じゃなかったじゃんボール関係ないじゃん」
「うるせえ基礎を怠るなっつってんだよスタメンならそんぐらい分かれバァカ」
「ゴメンなんの基礎?関ヶ原?」


本日の原は食い下がる。それもその筈、こんなイベントやろうもんなら真っ先に潰されるのは普段の流れからして原になる。だがしかし、それも無駄な努力というやつで、花宮は原がゴネるのを丸無視してみょうじの元へ歩いていった。隣の古橋は、ホラ貝を手に準備万端のようだ。うん、お前に至っては何も言わん。好きにしてろ。


「ようしてめぇら、紅白戦だ。今回Aチームの指揮は私、Bチームの指揮は花宮が執る」


そんな中、何やらこそこそしていた花宮とみょうじが此方に帰って来た、ところでまた訳の分からないことを言い出した。そもそも奴らが二人でこそこそやってる時点で俺らに未来なんぞ無かったのだ。何だよ指揮って。本格的に方向性が合戦に傾いてんじゃねーか。


「取り敢えず古橋はAチーム、瀬戸くんはBチームね。あとは好きにしてくれ」
「待てよみょうじ、ドラフト雑すぎね?」
「お前がその程度の価値だったってことだろ受け入れろザァキ」
「バァカみたいに言わないでくんない?ごめんて俺が悪かったって、じゃあ山崎Aチームで」
「待てよザァキ、お前現実受け入れるの早すぎね?原くんもAチームがいいです」
「ザァキを定着させようとすんのやめてくんない?気に入ってんじゃねーよ」
「おい花宮、お前んとこのチーム不人気だぞぷぷぷ」


奴らが好き勝手くっちゃべる中、俺の肝はみるみるうちに冷えていく。今の話の流れだと、それはつまりスタメンで言えばザキ(バカ)・古橋(ヤバい)原(容赦ない)・vs俺(眠い)ということになる。なんで俺が真っ先に潰される流れになってんだよ。原はどうしたこういう時の為の原だろ。あいつ関ヶ原ナメてんのか。天下分け目の戦いだぞ。…えっ天下分け目?あれこれもしかしてそういう趣旨?いやいやまさかね。


「花宮、流石に俺一人はまずい、確実に4Qまで焦らされたのち500点採られるぞ」
「ああ、そうだな。…よし、原を採る。原、お前こっちだ」
「ヤダ」
「あ?」
「古橋に殺されるからヤダ」


この合戦の趣旨なんて結局分かりようがないし分かりたくもないが、俺も齢17で死にたくはない。なるべく長く生きようと花宮に提案を持ちかけた。しかし俺のネゴりは花宮ではなく原によって拒否される。どうしたこいつ。古橋に殺されるだあ?花宮でもみょうじでもなく古橋に殺されるって原お前何をし…。


「…!!」


突如、脳が一つの仮説を導いた。それはもうさながら閃いた時の江戸川コナンのように。そういえば昨夜、花宮が部屋を出て行った。同時刻、ザキが暇そうにしていた。それは、同室の古橋と原がいなかったからである。そして、もしそこにみょうじが絡んでいたとすれば。
古橋を見る。なんと、古橋の視線の先には原がいた。原お前。


「悪いけど、今回俺は絶対Aチームだから。ネゴるならザキを宛てにしてください」
「なんだ原くん、そんなに私のことが好きだったの。知らなかったよ」
「俺も知らなかったな」
「古橋くん顔怖いし近いんだけど。なになにちょっと寄らないでちょっとなになになに」


能面のような顔面に死んだ魚の目玉を二つつけて、古橋は原に圧力をかける。原は両手で古橋を押しのけようとするが古橋は全く動じない。いやあいつ本当に敵に回したくねえな、既に今回俺あいつの敵チームだけど。しかし、とはいえ、例え此方にザキが来たところで心許ないのは変わらない。やはり、ウチのラフ的要素で言えば強いのは原・古橋だ。原が欲しい。そして、あわよくば古橋と相打ちになってしね。


「原、」


そして花宮もきっと似たようなことを考えたのだろう。再度、花宮は原を呼んだ。


「お前が古橋に殺られるのはどっちにいようと変わんねえ、大人しくこっちでしね」
「弔いぐらいはしてやるよ」
「ねえBチーム冷徹」


しかし原もそれは薄々分かっていたのだろう、項垂れながらも此方へ歩いてきた。何だか気の毒な気がしないでもないでもない。


「ねえ俺この部で何回殺されんの?その死んでもそのうち教会行きゃあいいかみたいな感覚やめてくんない?死ぬ前にホイミ唱えるか薬草食わすかしてよ」
「遊び人が何言ってんだ、それに生憎うちのパーティーは全員ベギラマしか使えねえよ」
「こんな運の悪い遊び人がいてたまるか」


原は完全にやる気を失っている。とんだ遊び人だ。対してAチームは、ホラ貝を手に死んだ魚の目を光らせる古橋がいる。あ、これ負けるわ。クソ。


「おいザキ、ザキもBチームに移籍だ」
「え?俺も?いや別にいいけどよ」


俺は花宮を通さず、直接ザキをBチームへ招致する。これで古橋vs原・ザキ・俺になる。結果は、見えた。





「Aチーム592-Bチーム76、か」
「まあホラ貝持った古橋相手にあいつらもよくやったんじゃない」


体育館の床には、古橋に斬首されたBチームが転がっていた。花宮とみょうじが冷静に結果を分析する声が聞こえた。原は、古橋に4Qで張り倒されたのちその首をブザービーター決められるという結果に終わった。原の身体は今もゴールからぶら下がっているのだろう。

さて、これから江戸に帰って幕府を開くことになる訳だが、それに向けて俺たちはホイミを覚えるべきなのかもしれない。


終わらぬ戦国時代
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20170914