毒花繚乱 | ナノ


おっすオラ山崎。みんなからはザキって呼ばれて…た筈なんだが、最近はバカって呼ばれるから、本当に俺はザキじゃなくてバカなんじゃないかって不安になってきてる。ただ、この前ふと思ったんだが、俺バカじゃないし、なんだったらザキでもねえ。俺山崎。そう俺山崎。俺は都内の進学校・霧崎第一に通うバスケ部レギュラーの山崎弘。あ、ほら、肩書き並べ立てたらどう考えても俺上位側の人間じゃん。
そう自己暗示していた時、慣れた衝撃が顔面に走った。


「ぶべら!!!」
「おいバカ練習中に考え事とは随分余裕だな」


右頬から感じたこのゴムっぽい質感、飛んできたのは恐らくバスケットボールだろうと瞬時に頭で判断しながら身体左側面から崩れ落ちる。あ、ほら、今も俺頭の回転はんやい。ほらほら。


「あのな!!一つ言いたいんだが!!!」


体育館の床にいつものように打ち付けられた身体をすぐさまがばりと起こし、ボールが飛んできた先に向かって勢いよく声を飛ばす。「およよ?どうしたあのバカ」という腑抜けた原の声が聞こえる。身体を起こした先にはみょうじがいた。おいおいこのボール投げたのみょうじかよもうマネージャー辞めてこっち側来いよお前なら実力人格共に秒でスタメン入り間違いない。…じゃなくて。今は他人より自分だ。


「俺言うほどバカじゃないと思うんだけど」


しかしどうであろう。考えを口にした瞬間、館内を包んでいた声やバッシュの擦れる音がぴたりと止んだ。いくつかのボールが力無く弾む音が聞こえていたが、それもやがて消え、無音の空間になった。皆がこっちを見てる。え?なんで?


「え?なんで?」
「…いやこっちの台詞だわお前何をどう見たら自分がバカじゃないなんて思えるんだよ根拠を述べろ根拠を」
「ウチの部がこんなビンビンの満場一致になったこと未だ嘗てないよ?」


みょうじと原が俺を見下ろす。だかしかしめげない。何故なら俺はバカじゃないから。…とは思うのだが、根拠を述べろと言われるとうまく言葉に出来ない。えーっと、まず俺は進学校に一般入試で合格してて、だから、バカとかそんな訳…


「おい聞いてんのかザキ」
「だーからザキじゃねえってせめてバカって呼んでくれ、あっ間違えた」
「「…」」


一呼吸おいて、みょうじも原もくるりと俺に背を向けた。古橋の「救いようがないな」という声がどこからか聞こえた。うるせえお前救う気なんてハナっからねえだろうが。
あーあーもういいよもう。誰も俺のことなんて分かってくれない。…というか、ん、待てよ?今気づいたんだけど、俺がバカなんじゃなくてあいつらが頭良いだけなのでは?そうだ、そういうことだ。じゃあ仕方ねえな。あ、なんか元気出てきた。いやだってそりゃあ仕方ねえよ。仮面ライダーだってウルトラマンからしたら雑魚だもんな。つまり奴らがウルトラマンで俺は仮面ライダーということだ。


「Hey!そこのバカっぽい君、なまえはどこだい」


そう納得していると突然、泣き黒子優男に声をかけられた。あん?誰だお前。
しかし、その台詞を口にするより早く、「ウチの部員に何か用でしょうか」と、俺ではない声が鼓膜を揺らした。声の主は花宮である。いやお前どっから湧いて出た。縮地法かよ。

二人の優男は俺の眼前で対峙する。瞬間、館内を包んでいた声やバッシュの擦れる音がぴたりと止み、いくつかのボールが力無く弾む音もやがて消え、体育館は無音の空間になった。おいおいこの状況本日二度目。どいつもこいつも練習中断しすぎじゃね。合宿だぞ、集中しろ集中。

さて、意識と視線を平部員共から部長に戻す。尻もちをついたままの俺を挟んで、優男と優男は視線を合わせている。

あ、ウルトラマンvsゴジラの闘いに手も足も出ない仮面ライダーってきっとこんな気分なのかもしれない。ふと、そんなことを思った。だってほら、縮尺が全然違うじゃない。



誰だって僕だってヒーロー
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20170703