チィーッス。霧崎第一高校バスケ部2年、みんなのアイドル原くんだよん。今日はガムの調子が良くていつもより15分も早く学校に着いたんだ。だから俺は気分よく靴を履き替えようと下駄箱に向かった。そしてそこで早くも、俺は今日の運を全てガムに吸い取られてしまったことを悟った。なぜなら我らがキャプテンの花宮とマネージャーのみょうじがちょーうど鉢合わせたとこに俺は鉢合わせてしまったからだ。こいつらが顔を合わせると第三者は精神的にあるいは肉体的にあるいはその両方に大変な被害を被る。それが俺らバスケ部員ならなおさらだ。あー今日一番の犠牲者は俺かー…。 「…おはよう花宮くん。今日も素敵な眉毛だね」 「…おはようみょうじさん。相変わらず胸は無いし脚は短いしで素敵なドラもん体型だね。最近少し太って益々ドラもんに近づいたみたいだけどそんなところも可愛いよ」 「…花宮くんこそその眉毛、どうしたらそうなるの?不思議だなー。不思議すぎて見る度に笑っちゃう、ハッ。あ、でも気品があっていいんじゃないかな。平安貴族みたいだよ、ハッ」 「…そういえばみょうじさんこの前の佐々木ゼミナールの模試でまた成績上位だったらしいじゃないか。すごいなぁ大して頭使ってないくせに。その頭は飾りだと思ってたよ」 「…花宮くんこそこの前のひわい塾模試で成績上位だったらしいじゃないの。流石だね。人を貶めること以外にも使い道あったんだねその頭」 「…この前C組の奈木さんからもらった消費期限が半年前の栗まんじゅう食べて腹痛で部活休んだ時は心配したよ。そんな腐ったもん平気で口に入れる根性、俺にはとても真似出来ないなぁ」 「…この前カカオ70%のチョコうっかり食べたら「100%じゃ…ね…え…」って言って耳と鼻から血吹き出しながら倒れたって聞いたときは心配したんだよ。こういうのなんて言うんだっけ?サルも木から落ちる?弘法にも筆のあやまり?花宮くんのそのカカオパーセンテージレーダーになってる眉毛が調子悪い時もあるんだね。どんまいどんまい!」 「…」 「…」 本当この二人朝からまー口が回りますっしょ?こいつらがまだ穏やかなうちに俺も上履き取りたかったんだけどね、無理だった。だって俺の靴花宮とみょうじの間にあんだもん。俺あいつらの間に手突っ込めるほど勇者じゃないの。 そしてこの見つめあっての沈黙。あーあー、すこぶるお口の悪いマシンガン痴話喧嘩が始まりますよー。そしてそろそろ俺に火の粉がふりかかってきますよー。 「…おいクソ女、お前この間の練習試合でレモンの蜂蜜漬け作って来なかっただろ持って来いっつっただろうがお前もマネージャーのはしくれだったらキャプテンの言うことよーく聞いて馬馬車のように働けバァカ!」 「あらあら前々回の試合でお望み通りレモンの蜂蜜漬け作ってってあげたら速攻原くんに向かって投げつけたのはどこの眉毛だったっけなー?」 「俺はレモンの蜂蜜漬け持って来いっつったんだよお前が持ってきたのレモンの蜂漬けだったじゃねぇかよ今年一番のラフプレー味方にかましてんじゃねぇバァカ!!」 「ちょっ、原くーん!!原くーん!!あれ結構美味しかったでしょー!?」 はい爆弾投下ー。あったねー。あったねそんなことー。俺あの時泣いたもん。でもこれが日常だかんね俺。前髪切れって言われたって無理っしょ?ラフプレーもしたくなるっしょ?俺だって悪いとは思ってるよ?でも俺普段からもっと極上のラフプレーいただいてるからさ。もうひどいっつー感覚鈍ってきたっつかさ。 「…いや俺あれ頭からかぶっただけで食ってね」 「あんたの味覚は頭にあんだろ」 「くっそ美味かったです」 「…ふっ、ほらな」 「正直に言わねぇと一生後悔させんぞ」 「くっそ不味かったです」 「あんたの味覚は頭にあんのか!!ちげーだろ!!!適当な感想言ってんじゃねぇぞ!!!!」 「スミマセン!!!」 ほらこいつら言ってることもやってることもめちゃくちゃなんだよ。こいつらには人の心っつーものが1ミクロンも備わってないんだよお母さんのお腹ん中に置いてきちゃったんだよ。これ言ったらお前が言うなって各所からお叱りを受けるだろうが敢えて言う。なんでこいつらこんな性格悪ィの? 「あ!!そういえば花宮前前々回の相手校のマネージャーに猫かぶったまんまだったでしょもう絶対あの子花宮に惚れたまんまだよやめろっつってんだろ猫かぶる暇あんなら蜂かぶれバァカ!!!!」 「はぁ?知らねぇよ」 「知らねぇじゃな」 「なぁ…」 「…どうしたの原くん、」 「…もう勘弁してください」 上履きください * * * 2012.12.14 |