古橋、みょうじ。その向かいに原、俺。誕生日席に花宮、床に瀬戸。俺たちはこれからミーティングを始めようとしていた。 「つーことで明日から合宿だ」 頬杖をついて書類に目を通していた花宮が視線を上げ、切り出す。普段より少しだけ早めに練習が切り上げられたのも、明日からが合宿であることと、このミーティングの為であったらしい。 「今年は上がいねえから去年とは良い意味で勝手が違う、まあせいぜい忘れ物とテメーの命に気をつけるんだな」 行きと帰りじゃ部員の人数違うかもね、と、さも楽しそうに隣の奴がチューイングガムを膨らます。どういう意味だ俺たちは壁外調査にでも駆り出されるのだろうか。背中に自由の翼でも生えているというのだろうか。これ詳細のプリントね、とみょうじが配ったA4のプリントには場所と日時が10.5のフォントサイズのまま記されているだけだった。寂しいなオイ。っつーか全然詳細じゃねえし、もうこれラインでよくね。 「何か質問あるか」 「花宮、」 早くもミーティングを終わらせようとした花宮に古橋が手を挙げた。そうだ古橋、これじゃあ俺たちに与えられた情報が少なすぎる。情報化社会だぞ。今の説明じゃ明日から壁の外に行くとしか理解出来ない。ただの男子高校生である俺たちには犠牲の覚悟もくそもあったもんじゃねえ。さあ古橋、キャプテンからもう少しマシな情報を引き出せ。 「泊まる部屋は和室か、それとも洋室か」 「和室だな」 んんんんんそこじゃねえな!?古橋そこじゃねえよ!?もっと他にあんだろ、こう…身に付けて帰ってきたい目標とか、食事の方式とか、シャンプーは向こうについてんのかとか、色々あんだろ!なんだよ和室か洋室かって、んなもん着いてからのお楽しみでいいじゃねーかよ何なんだよ!?あの部屋和室というより洋室ではないって感じだけどね、とみょうじが口を挟む。お前そこの詳細は知ってんのな。載せとけよこの貧相なプリントに。 「他」 「花宮、」 今度は瀬戸が手を挙げる。お前いつ起きたとか、そういうのはこの際どうでもいい。そうだ瀬戸、今こそIQ160の力を見せつけ… 「部屋いくつとったんだ」 「2」 いやそこでもねえよ!?お前らどんだけ部屋にこだわんだよ繊細か!?枕変わったら寝れねータイプかコノヤロー…、つーか、待って二部屋?少なくね? 「因みに部屋割りは俺とその他、以上」 「ざけんなどうして年頃の娘である私がこんなのと一緒に雑魚寝しなきゃなんないの」 すぐさまみょうじが異を唱える。そこは知らなかったのか。しかし、いよいよ雲行きが怪しくなってきたぞ。 「落ち着けみょうじ、また腕枕してやるからここは我慢しろ」 「分かった」 「駄目だ」 「なんで!!」 「俺は認めねー」 ここは雲行きの怪しさに上限がないのか。にしても、せっかく古橋が場を収めようとしたのに、花宮はそれを一蹴してしまった。やはり寝るときに枕は重要ということなのか。それとも、枕として適し過ぎている古橋の腕で花宮も寝てみたいものの絵面的にそれが叶わない、にも拘わらずみょうじはそれが可能という点を羨んでいるのだろうか。え、アイツの腕どんななってんの?低反発的な? 「花宮、ここは無難に一応女子であるみょうじが一人部屋でいいんじゃないか」 今度は瀬戸が場を収めようとする。みょうじは「流石瀬戸くん良いこと言った、この際一応とかいうワードには目を瞑ってやろう」と乗り気だ。しかし「なんで俺が雑魚寝でこいつが一人部屋なんだよ、認めねー」とまた花宮は一蹴した。この部めんどくせえな? 行き詰まってきた部屋論争、重苦しい空気が部室内に垂れ込め始めていたが、再び古橋が閃いたように口を開いた。 「じゃあ俺が一人部屋で。そうすれば花宮もみょうじも雑魚寝で差は生まれない。俺がみょうじに腕枕してやることも出来ない。完璧だ」 「「認めねー」」 しかしこの意見については瀬戸原が間髪入れずに口を揃えて一蹴した。そんな部屋割り誰も生きて此処まで帰って来れねえよ分かってんのか。じゃあ一体どう割るんだ、部屋は二つだぞ。多少の犠牲は覚悟しろよ人生舐めてんのかてめーら。俺の目の前で、論争はヒートアップするばかりだ。そもそもなんで部屋二つなんだよとか、なんで割り方一人とその他なんだよとか、なんで誰も突っ込まない?俺がバカだから、俺の考えの上の次元で進む話に俺だけがついていけてないのか?ああ、そうかもしんねえ。 「どうせ無ェだろうがザキ、何か案あるか」 「…グッパーとかで分けたら駄目なのか?」 その後恐らく初めて俺の意見は採用され、各々グー若しくはパーを出すかと思いきや、俺たちは俺たちが思っているよりよほどナカヨシだったらしく全員がグーを出す結果となった。出されたグー達にそのまま殴られて俺は意識を手放した。 枕なんてあれば何でもいい * * * 20140925 |