毒花繚乱 | ナノ


おっすオラ山崎。原んとこのガキが帰って早数週間。我が霧崎第一にもやっとのこと平穏な生活が戻って来た。心なしか通学路もいつもより日光がきらめいて見えるわ。あ、今俺を抜いてった二人組の右側、かわいい。


「ねーちょっと聞いた?マキ子、花宮先輩に今日告白するらしいよ」
「えええマジ?何それ知らなーい」
「なんかー今日早めに学校言って先輩の下駄箱に手紙入れるとかいってた」
「え、え、それってラブレター?マキ子ったらかーわーいーいー…って、ああっそういえばっ」
「ん?なに、どした?」
「三組の藤尾くんっているじゃん知ってる?その子がさーみょうじ先輩に告白するって、ちょっと小耳に挟んだ」
「えええ!!うそおマジ!?」
「なんか昨日直接言おうとしたのに先輩忙しくて中々捕まんないから今日の朝下駄箱に…」
「マキ子とおんなじじゃん!!!」
「それなー!」

「…」


白い太股が眩しい女子高生二人組はきゃいきゃいと通学路を突き進んでいく。俺は何も言わず携帯電話を取り出した。呼び出し音が小さく響く。


「あっもしもし原!?」
「んだよザキ朝っぱらからモニコとかしないでくんない彼女か」
「まだ家なの何やってんのお前!?」
「何って寝てた、日曜だし」
「月曜だわ」
「あり?そうだっけ?まあいんでね、どっちでも」
「よくねーよ!!っつーか大変なんだよ!!」
「ハー数学の課題の存在忘れてた?知らねーよ」
「あああああ忘れてたああ!!どうしよう原…じゃねーわ!!ねえお願いだから原くん俺の話聞いてよ、課題の範囲何ページから何ページまでですか」
「二章全部」
「しんだ」
「お前課題系で生き残ったことないじゃんじゃーねー」
「あああ待って!原くん待って!!違うんだって!!あのね、平たく言えば花宮とみょうじの下駄箱にそれぞれどこぞの一年がラブレター投下した」
「うーわマジかよ俺今日寝ててせいかーい何か色々ガンバッテーじゃーねー」


ブチッ…ツー…ツー…ツー…
え、うそん…原アイツ…うそん。仕方ねえ、今日は俺が爆弾処理班として出動するしか…。あまり野暮なことはしたくねえが、俺も命は惜しい。一刻も早く下駄箱に先回りしてブツを回収しなければ。
しかしこの時俺は忘れていた、奴らの鬼のような情報収集能力を。そりゃ課題の存在も忘れるわ。つまり、俺如きの耳にも届いているという時点で、奴らはとっくにこの情報を手に入れていたのである。
そのことに気づいたのは、昇降口を抜けて、奴らのそれぞれの後姿を確認した時であった。だがしかし不思議なのは、花宮はまっすぐみょうじの、みょうじはまっすぐ花宮の靴箱に歩いて行ったことである。俺は取り敢えず下駄箱の影に身を潜め、事態を暫く見守ることにした。奴らは互いの存在にはまだ気付いていないらしい、気付いていたら舌打ちかかガン飛ばしか、何かしらの反応はあるはずだ。そして奴らは、逸早く互いの靴箱の扉を開けた。そして恐らくあれがブツなのだろう、奴らは何の躊躇もなく勝手にブツを開封し、目を通し、そしてその場で破った。びりびりと、悪魔の笑い声のような、民の悲鳴のような音が昇降口に響く。


「「…」」


そして、奴らは視線を交えた。ブツの命の尽き果てる音によって、互いの存在を漸く認知したのだ。


「…テメエ人の靴箱の前で何してやがんだ」
「…その言葉そっくりそのままバットで打ち返す」
「あ?テメエには関係ねーよ」
「関係なくねーよそこ私の靴箱だ」
「その言葉そっくりそのままバットで打ち返す」
「…」
「…」


奴らは互いに全く視線を逸らすことなく睨み合う。そのまま腕だけ動かし、手中の屍を俺の靴箱に捨てる。え、なんでそうなんの。おかしくね。


「…お前、今後一年の階歩くの禁止」
「その言葉そっくりそのままバットで打ち返す」


奴らは再び暫く睨み合っていたが、やがてどちらともなく舌打ちを鳴らし踵を返した。良かった、今回はそんなに大事にはならなかったようだ。何せ終始俺の意識が飛ばなかったからな。

しかしこれを機に、おかしなことが起こるようになった。ほぼ毎日、次から次へと俺の靴箱に手紙だったものやら、ブルーとピンクのペアブレスレットやら、ネズミ♂ネズミ♀のペアキーホルダーやら、明らかに共通項のある物が投げ込まれるようになったのだ。


「お前の靴箱、恋の墓標とか噂されてんの小耳に挟んだんだけど何したの?」


あの日を境に、俺は正式に霧崎第一の爆弾改め桃色処理班(ソロ活動)となった。




いきる
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2014.05.07