どうしよう。全然人間になりたがってねーベムベラベロが揃って家の玄関に足踏み入れちゃったんだけど。え、マジどうすんのコレ、え? 「原くん私ミルクティー、ロイヤルね」 「コーヒー、ブラック」 「こーら、だいえっとぜろじゃないやつ」 「…」 ほらもう何このザマ。早く人間になりたいどころか花宮みょうじに近づけちゃったせいでガキがとんでもねースピードで人間から遠ざかってってんだけど。もうアイツ誰の親戚だよ確実に俺以外でしょ。教育上倫理上よくないっていやマジで。 そんなことを思っている間にも、あそぶよ、と言いながらガキはみょうじの手を引き廊下をずんずん進んでいく。みょうじはやめろクソガキ鬱陶しいんだよという表情をしつつも、花宮に啖呵きった手前それを口に出すことはせず、大人しく引っ張られていった。花宮は「オイ原、お前ちゃんと見とかねえとあのガキあいつに病院送りにされるから気を付けろ」と俺をこれから病院送りにするような目つきで忠告してきた。いやお前何しに来た。 「ねえ、あれは?」 まさかこの俺が他人の為に台所に立つ日が来ようとは。意図的に哀愁を漂わせながらお湯を沸かしたり粉を探したりしていると、みょうじと共にリビングにいるはずのガキが俺を呼んだ。あれ、早くね。 「…ヘイヘイ救急箱ねー」 「ちがう、かーど」 「は、カード?」 「ほら、あの、あれ」 「何お前若年性アルツハイマー?」 「ハー?」 あれ、何こいつくっそ腹立つ。その齢にして小指で耳を掻きながら片足に重心をかけるこの立ち姿。マジ誰に似たんだこいつくっそ腹立つんですけど。少し考えて「ああおもいだしたとらんぷ、とらんぷどこ」とか抜かすこのクソガキはもう確実に若年性アルツハイマーだからいっそのこと病院送りにされた方が世の為俺の為何よりこいつの為かもしれない。 湧き上がる苛立ちをなんとか抑えつつも、去年の合宿時に何となく借りパクしたままであるザキのトランプを自身の部屋から発掘し、ガキに敢えて投げて寄越す。しかし、薄々予想はしていたがやはりガキはそれを平然と手中に収め、みょうじの元へと帰っていった。前から思ってたけどあいつ目見えてんのどうなってんの。 「とらんぷ、やる」 まるで俺が支度を終えて自分の元に来るのを待っていたかのように、そう言ってガキはトランプを2枚ずつ、4つに分けだした。一人食卓に座って頬杖を付いていた花宮が至極嫌そうに眉を潜めたのが視界の隅に映る。みょうじは食卓の奥、絨毯の上、つまりは床にガキと共に座っており、トランプが分けられていく様を大人しく見ていた。 深呼吸をする。並大抵の覚悟じゃあ俺は明日の朝日を拝めない。瞼を閉じ、一呼吸置いて開ける。 「ガキがやるトランプって何、7並べ?ババ抜き?」 「いや、ぶらっくじゃっく」 「…」 ねえこいつおかしいよ。俺の覚悟一瞬でへし折られたんだけど。もうやだよ俺こいつやだ。みょうじも花宮も「は?あんた絶対賭け金持ってないでしょ」「ガキにはまだ早え」とか言ってるし。いや俺らにもまだ早えからね、僕たち今年17になるただのクソガキだからね、自分で言うのもアレだけど。本当なんでクソガキ4人が集まっただけで家がラスベガスになんの誰か教えて瀬戸くん教えて。 「ていうかディーラーあんたなの、ここは家主がいいんじゃないの」 「…」 これさ、なまえさんさ、今俺に気使ったの?それとも腹いせに爆弾投げてきたの?何なの?俺ブラックジャックとか知らねえんだけど。え、何、ディーラーって何ですかとか思ってる俺がおかしいの。…とか一瞬思ったけど、そうだ、此処俺ん家じゃなくてラスベガスだったわ。あーそりゃ俺が悪いわゴーミンネー。 「…ねーえ?ブラックジャックはまた次の機会にしてここはオーソドックスにババ抜」 「つーかそもそもなんで4人でやることになってんだよお前二人分やんのか」 下手に下手に。そう思いながら少しでも危険を回避できる道を提案しようとしたのが裏目に出た。下手を意識しすぎた俺の発言は低空飛行過ぎて視界に入らなかったのであろう、花宮の発言に見事に踏み潰された。しまったしんだ。 「…は、まさか花宮くん参加しないおつもり?」 「…いつ一緒に遊んであげるなんて言ったかな?」 「花宮くん何しに来たの?」 「部員が殺人起こさないように監視しに来たんだよ分からない?」 「一番やっちゃいそうなの花宮くんじゃない」 「みょうじさんは既にやってるけどね、そこの原とかさ。いいかい、人間というのは基本的にしんだらそれっきりなんだ。原ザキ辺りを人間の基準にしちゃいけないよ」 「…」 「…」 あーね。確かにね。俺もザキも実際頻繁にしんでるよね今とかね。なるほど、割と今まで俺花宮たちのこと人間サイドから語ってたけど、なるほどね、俺も人間から離れはじめてたのね、あーなるほどね。何この霧崎第一が板に付いてきましたよ感。俺もザキもこの世界よりドラクエ界の方が向いてたんじゃないかな、だって教会に行かずとも何度だって蘇生出来るんだぜ?すぐしぬけど。 「…おいこらくそ眉毛今すぐ遊ぶか帰るかしね今すぐだ」 「そのガキの面倒見るとかバカなこと言い出したのはテメェだろとっとと遊べ若しくはしね」 「それとアンタが此処にいるのはしぬほど関係ないでしょ早急にしね」 待て待てお前ら、行動の選択肢がどんどん減ってってるぞ若年性アルツハイマーか、とか口挟む隙、ナイ。なんなのお前ら被った猫地面に叩きつける趣味でもあんの?さっきまで被ってなかった癖に何でわざわざ猫被りなおしてそして脱ぎ捨てたの何なの?とか口挟む隙も、ナイ。 「大体レモン蜂蜜に漬けることすら出来ねえバカには過ぎた仕事なんだよ身の程を知れバァァァカ!!」 「何度春を迎えても蛙になれないオタマジャクシ顔面で飼育してる奴に言われたくないねバァァァァァカ!!!」 俺が呼吸する隙、ナイ。 魔界の王子はこのブラックショーがえらく気に入ったらしく、コーラに口を付けながら愉悦に満ちた表情を浮かべていた。口元がね。 ああ、我が家が燃えている。めらめらと、どす黒い炎に包まれている。こいつらは俺から衣食住の全てを根こそぎ奪い取っていくつもりなのだろうか。 これって火災保険とか降りるの?え、降りない?ウソでしょ? 被り物コレクション * * * 2014.01.20 |