毒花繚乱 | ナノ


「つぎはみょうじがいい」



あろうことか、原Jr.はみょうじを指名した。アイツ、父親と違って将来中々の大物に成長しそうである。しかしそんな他人の未来の話なぞどうでもいい。何せ今のオレたちは中々の小物揃いなのだ。



「ざけんな」
「みょうじがいい」
「ざけんな」



原Jr.はみょうじの右脚にむんずと巻き付く。みょうじはサンジもびっくりの勢いで原Jr.ごと脚を振り回す。ああ、やっぱ大物はちげーわ。どうしたらこんな絵ヅラになるのか小物の俺にはさっぱり分からない。



「しょーがねーなみょうじ、そいつ今日だけかしたげる」



原は両手を腰に当てて、やれやれといった調子で言った。…アレ、原っていつからこんなバカになったんだっけ。そんな言動繰り返してたらお前あれだぞ、近いうちに死ぬぞ。いやマジで。



「いらねー」
「今なら封入特典でザキもついてくるけど」
「いらねー」
「…なあ、」



全員の視線が、会話に割って入った古橋にいく。…俺は経験から察知した。この雰囲気の古橋は、絶対碌なことしない。止めろお前マジ何する気だ。全力で止めに入りたいが、この話に関わりたくない。ああ寝たい。ザキが羨ましい、心の底から。



「みょうじが原の家行けばいいんじゃないの」
「ざけんな」



ほーらーーー。古橋もうほーらーーー。お前ほんっとバカじゃねーの?因みに今ざけんなっつったの花宮だからね。ハイまた更に話ややこしくなったー。



「…なんで花宮が出てくんの」
「お前がそのガキ連れててめーの巣帰りゃ済む話だろうがバァカ」
「ざけんななんで私がアンタの指図受けてハイハイ従わなきゃいけないわけ?原くん私今日原くん家泊まるからよろしく。おいガキ、死ぬまで遊んでやるぞ気合い入れていけ」
「うっす」
「ざけんなお前にガキの子守りが務まると思ってんのかてめーを過大評価すんのも大概にしろ。っつかクソガキてめーいつまでそいつに引っ付いてんだ気色わりー」
「花宮の眉毛のが気色悪い」



ねえもうこうなんの目に見えてたじゃん。みょうじが男の家行くの花宮が許す訳ないじゃんそんぐらい分かるじゃん。っつか古橋ほんとアイツ何なの?アイツみょうじ絡みで花宮怒らせんの大っ好きだよな。なんかここ最近自分絡めて事件起こしまくってたから古橋がみょうじに気がある可能性も考えたが、ここに来てこんなことしちゃうか。そうかそうか。俺古橋より花宮の方がまだ分かりやすくて好きだなー…。
花宮はみょうじから原Jr.を引きずり出そうとしつつ、マシンガン口喧嘩を続行という器用なことを試みているが、原Jr.は一向にみょうじの太股に腕を回して離れない。みょうじは今となっては原Jr.が自分に引っ付いていることよりも眼前の花宮に腹が立って仕方がないといった感じだ。問題は冷静にみょうじにしがみつく原Jr.である。そして俺は見た。あのガキが何を思ったか片手だけみょうじの太股から離し、次の瞬間、花宮に向かって逆手で指をくいくいと曲げるのを。所謂挑発行為。



「…オイ原、俺も今日お前ん家泊まる」
「えっ」



花宮は目を僅かに見開いて一時停止した後、原Jr.からもみょうじからも手を引きゆらりと身体を起こした。そして原に向かって発した声は、この世のものとは思えない、地を這うような声だった。一気に体育館中がどす黒く染まる。外ではカラスが集まりだし、騒ぎ、飛び回っている。
今日花宮たち3人が原の家に行くことは既に奴らの中では決定事項のようで、各々機嫌の悪さをこれでもかと滲ませながら帰り支度を始めた。いや、機嫌わりーのは花宮とみょうじだけか。渦中の人物である原は、汗をだらだらと垂れ流しながら震えている。口元が不自然に弧を描いてた。溺れる者は藁をもつかむ。原は前髪で隠れた視線を俺に送り助けを求めてきたが、当然、視線を逸らす。死人は少ない方が良いに決まっている。原は古橋にも視線を送っていたが、古橋は何も反応を示さなかった。いやお前はしんでもいいと思うけどな。最後、原はザキに視線を送ったが、ザキは既にしんでいた。まあね、現実問題藁掴んだって溺れるだけだからね。ごめんね、俺たちビートバンとかじゃなくて。



「よし原、行くぞ」
「早く案内しろ」



魔王2体と魔界の王子を目の前に、原はぷるぷると弱々しく震えている。ああ、可哀想に。とかは思わない。だから言ったじゃんお前近いうちに死ぬぞって。原は往生際が悪く、まだ生きる術を探しキョロキョロと辺りを見回す。そして、視界に入ったザキを数秒見つめてから、どたんとその場に倒れ込んだ。



「…プ、プベァ」
「「あ?何寝ぼけてんだ殺すぞ」」
「すみませんでした」



すぐに原は起き上がった。俺はこんなに駄目と分かっているダメ元を初めて目の当たりにした。

そして俺たちは、これから自宅を魔界のコロシアムにされるチームメートの背中を、静かに見送ったのである。





無常のゆらり
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2013.10.10