確かに悪いことをしたと思っている。反省もしている。しかしお前ら、胸に手を当ててよく考えてみろ。お前ら一体どれだけのものを壊してきた。昨年度までの上級生や監督の地位、木吉の選手生命、現顧問の残り少ない人生、黄瀬の貞操(未遂)、挙げていったらきりがない。対して俺が壊したものはなんだ。ピヨピヨサンダルだ。正に雲泥の差である。どっちが雲でどっちが泥かは分からん。 つまり何が言いたいかというと、言うほど俺悪いことしてないよね。まあ、此処では理不尽でない生活を求める方が間違っていると、今までの経験から十分すぎる程に理解しているので何も言わないが。ただ、思うだけは許してね。 …と、俺、古橋康次郎はピヨピヨサンダルの屍の上に脚を乗せながら思ったのであった。 「…今日もう解散」 晩春の体育館に、うら若き青年の声が小さく響いた。勿論、声の主は我らがキャプテン花宮である。この状況下でこれ以上の部活動続行は不可能と判断したのだろう。 「え、うそでしょ?んなことしたら俺あのガキと家で二人なんだけどマジ無理」 花宮の力無い声を聞いて、昇天していた筈の原が垂れた蜂蜜もそのままに起き上がる。 「プベァ」 「…は?」 原に続いて口を開いたのは、同じく昇天した筈のピヨピヨサンダル。…あり?俺は不思議に思い、自らの脚にもう一度軽く力を入れてみるが反応は無い。まさか、幽霊、だろうか。 「おいあのガキ昇天したザキ踏んで遊んでんぞ」 瀬戸の言葉に振り返れば、そこに見えたのは子供らしく元気に飛び跳ねるガキと、その下で未だ昇天したままのザキであった。ガキがザキの上に着地するのに合わせて、ザキの口から謎の音が発されていた。なるほど、ザキか。あい納得した。 「古橋お前のせいだ何とかしろ」 みょうじはザキを乗りこなしているガキをジト目で睨みながら俺に責任を丸投げしてきたが、どうするもこうするもない。 「ザキはいつからピヨピヨサンダルに転職したんだ?」 一番の問題点であろうそこを問えばみょうじの表情から“イラッ”という効果音が弾けたが、見て見ぬ振りだ。話噛み合ってねーよ、という声もどこからか聞こえてきたが、聞いて聞かぬふりだ。依然、ガキによって生み出されるプベァ、プベァ、というザキの悲鳴?喘ぎ声?は響きっぱなしである。なんだこの空間。 「…分かった、原くん、もうザキガキセットでお持ち帰りしな。ザキの上にガキ乗せて一晩おいとけば全て丸く収まる。一件落着だ。」 このカオスに耐えきれなかったのか、みょうじは今度は原に全てを押し付ける発言をした。 …いや、元々は原が持ち込んだ騒ぎなのだから、原に回収させるのは間違っていないのかもしれない。というか、あれ。そうだよな。俺たちとんでもなくとばっちり食らってやしないかこれ。原は何かを言おうと口を開いたが、反論の言葉は出てこなかった。そりゃそうだ。全部お前が悪い。 そんな中、プベァプベァと響き続けていたザキの鳴き声が止まった。ガキが跳ぶことを止めたからである。ガキはザキの腹の上に佇んだまま徐に口を開いた。 「…おれ、ざきあきた」 そして、前髪に隠れているであろう目線をゆっくりと此方へ向ける。 「つぎはみょうじがいい」 邪な風がしゃらりらり * * * 2013.09.12 |