毒花繚乱 | ナノ


現在の体育館内人材配置を説明しよう。花宮(ゲス)、みょうじ(ゲス)、ガキ(ガキ)、原(昇天)、ザキ(昇天)、オレ、である。
頼む古橋、早く戻ってきてくれ。
原のこめかみを伝う怪しい液を指で掬って舐め、すぐに「カァァァ、ペッ」とおっさんみたいな吐き出し方をしたガキを尻目に俺は切に願う。花宮みょうじはこの惨状から目を逸らすように各々休憩を取っていて、それをガキは口をもにょもにょしながらもじっと見つめている。あのガキはどうやら花宮たちのことが朝から気になるらしい。気持ちは分かる。そう、あいつら初めて見た時は面白そうに見えんだよ。でも止めとけマジ死ぬから。そうやってノコノコこんな部入部したのが運の尽きだ。あのガキが花宮みょうじ被害者の会に入会する日も近いのかもしれない。



「みょうじ、これでいいのか」



らしくもなく他人の将来なんかを案じていると、古橋がドンキの袋引っさげて戻ってきた。これで晴れてこの体育館には古橋(能面)という人事が加わった訳だ。ゲス、ガキ、昇天、能面の中でなら、能面が一番良いに決まっている。
古橋、俺は今心から嬉しい。



「ちゃんとピヨピヨ鳴るんでしょうねコレ?安物みたいだけど」

「ああ、鳴るぞ。見てろ」



古橋は少し誇らしげな雰囲気を出してピヨピヨサンダルを床に置く。どうやら実践して見せるらしい。
疑いの目を向けるみょうじに古橋は一瞥を投げてから、そのサンダルに足をかけた。影が落ちる。



プベァ



誰もが固唾を飲んで見守っていたそのサンダルから、俺たちが期待していた音は聞こえてこなかった。沈黙が体育館中を包み、襲う。サンダル奏者は能面のような面をして暫く固まっていたが、やがて脚を退かし、一呼吸置いてから再びサンダルを踏む。しかし何の音も聞こえてこない。何度も何度も踏むが、サンダルはうんともすんとも言わなかった。



「………」
「すまん壊した」
「しねよキサマ」



俺は自らの目と口が平行になるのを感じていた。ドンキで買った幼児用サンダルを190センチ近い男が踏んだらそりゃそうなるわ。ていうかなんでお前が実践したんだよ普通にガキに履かせりゃ良かったじゃねーか。ガキが履いてピヨピヨ鳴って一件落着、それで良かったじゃねーか。プベァってなんだよサンダルの死に際の一言引き出してんじゃねーよ夢で化けて出てきそうだわあのサンダル。
古橋、俺は今心から腹立たしい。

体育館内人材配置が花宮(ゲス)、みょうじ(ゲス)、ガキ(ガキ)、原(昇天)、ザキ(昇天)、ピヨピヨサンダル(昇天)、古橋(しね)、俺、に変わった瞬間だった。
この部はもうお終いだ。





きみはぎせい
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2013.09.04