霧崎第一は練習試合でラフプレーをかますだろうか。 否、そんなことはしない。何故ならそのうち試合を受けてくれる学校が無くなるからだ。 霧崎第一からラフプレーを取るとどうなるか。 これに関してはまぁ、予想が付くだろう。ヘボくなる。俺は知らないが、周りが言うに去年より全然ヘボいらしい。 今年の霧崎はラフプレーあっての強豪校であり、だからこのメンバーなのだ。つまり練習試合となると、うちは色んな意味で普通の高校バスケ部だ。 花宮が俺たちに先に帰るよう指示してからそろそろ一時間。俺は骨川高校前のコンビニの雑誌コーナーで立ち読みをしながらずっと待機している。優秀で爽やかな(皮を被った)キャプテンとマネージャーは未だ出て来ない。 何故花宮とみょうじだけまだ中にいるのか。 それはあいつらの二面性が深く関係している。つまりあの爽やか優等生オーラで相手校の監督、キャプテン、マネージャー等を釣り、情報を洗い浚いぶちまけさせた後、公式戦で楽しく潰すというのが奴らのやり方なのだ。正に霧崎。俺個人としては、別に悪いことではないと思う。良いことでもないが。 そして今回も"釣り"は決行されるらしく、花宮とみょうじ以外の部員は現地解散となった訳だ。 俺もいつもならまっすぐ家へ帰るところだが、今日は少しばかりみょうじが気掛かりで。偶々ではあるが俺は、みょうじが極度の方向音痴であるということを知ってしまった。あいつ自身は「帰りは時間に遅れるとかないし、迷ってもどうにでもなる」とか威張っていたが、いやいや馬鹿じゃないのか、というのが俺の正直な感想。聞けばみょうじは迷っても遅れないよう、いつも一時間半の余裕を持って集合場所に行くようにしていたらしい。真面目か。あいつの性格を考えると仕方のないことなのかもしれないが、せめて俺ぐらいになら、もっと頼ってもいいんじゃないかと思う。アセロラジュースは平気で買いに走らせる癖に、あいつは頼り所を間違えている。 「…あ、花宮とみょうじ、今出て来よったで」 「…あ、本当だ、どうも」 そんなことを考えていたら、適当に手に取った雑誌を広げながらも俺は今完全に自分の世界に入り込んでいた。隣の人が教えてくれなかったらこのまま見逃す所だった、危ない危ない…。 「…ん?」 ふと疑問が浮かび上がる。 何故隣の人は花宮たちを知っていて尚且つ俺の目的まで知っているんだ? 右に90度、首を回す。 「あーあーみょうじったら。そっちは駅ちゃうでー。」 …妖怪だ。妖怪がいる。 「…お前、何処行くつもりだよ。…って今絶対言うたでー花宮。わははワシ今めっちゃ似てへんかった?」 なんだこいつうっざ。微妙に似てるのがまたうっざ。みょうじは指を指して喜びそうだが。 というか何故こいつが此処にいる。 「みょうじ今絶対一か八かで賭けたんやで、駅は右か左か。ほんで間違えて焦ってんねんなぷぷぷ。そりゃそーやわなぁ、今眼前におるのは古橋くんやのうて花宮やもんなぁ。」 一人喋り続ける妖怪を尻目に硝子の向こう側に目を向けると、確かにみょうじは焦っていた。俺の時の300倍ぐらい焦っている。 さて困った。花宮がいると助け舟出しにくい。 「…古橋くんも大変やなぁ。でも多分大丈夫やで、見ときや。」 「………」 さっきから何だこいつ。サトリか。俺何も言ってないんだが。人の嫌がることが主食という噂は本当らしい。既に冷めた言い争いから激しい言い争いに発展しているだろう花宮たちから今度は妖怪に目をやれば、妖怪は依然口元は弧を描いたまま、細い目を少し開いて俺に尋ねてきた。 「…古橋くんの中でみょうじはどのポジションにおるん?手のかかる妹?それとも…あわよくば自分のものにしたい女の子?」 この分だと目が合ったら死ぬまでねちっこく付き纏われるという噂も本当かもしれない。急いでさっと目を逸らす。 「…あわよくば苛めてやりたい手のかかるジャイアン」 「わはは成る程なー。ほー?」 わりかし正直に答えたのだが、納得がいかないのか何なのか、妖怪は気色悪くも下から覗き込んできた。横にさっと目を逸らす。更に覗き込んできたので上にさっと目を逸らす。 「まぁ…ええわ、今日のとこは。それよりほら見てみぃ。あー花宮ーここは手握らなアカンわー。歩幅もちゃんと合わせたれや可哀想にー。」 妖怪がやっと伸ばした首を元の位置に戻したので、俺も少し安心しつつ再び硝子の向こうに視線を戻す。すれば花宮がみょうじの手首を掴んで、ずんずんと大股で駅のある方向へ歩き出していた。 「………」 「ところで青峰が好きなのって堀北マイちゃんだっけ?堀内マコちゃんだっけ?」 「…堀内マコじゃなかったですか」 「あーそうやった気してきたわー。ほな買うて来るわー。」 勿論、俺は青峰の好みなんぞ知らない。 手に取っていた雑誌を敢えて元あった場所とは違う場所に戻し、俺はコンビニを後にした。 キレてないですよ * * * 2013.04.02 |