毒花繚乱 | ナノ


テスト前、普段の俺ならば、ガリガリにとまではいかずとも、それなりには勉強をする。しかし、今回の俺はそれをしなかった。なぜならそんなことをしても無意味だからだ。追試になろうがならまいが、どっちみち俺はしぬ。そんな状況で、誰が勉強なぞするだろうか。見ろ、このゲームダコを。そして、その結果がこれだ。


「ぶっへ原お前追試なの?どうしたんだよ珍しいじゃん!」
「うるせーいいんだよ俺は今回ノー勉だから。勉強して追試のお前に言われたくねーんだよこのバカチンが」
「そのバカチンと今回机並べてんのはお前だこのバカチンが」
「おいバカチン2匹ィーくっちゃべってる暇あんなら今すぐ試験始めんぞー」
「どうぞー」
「えっ先生待って!?俺もうちょっと勉強する!!!」


今回の試験はやや簡単だったらしく、追試になった奴は学年で俺とこの隣のバカチン…ザキだけだそうだ。ったく、簡単もクソもねーっつの。俺問題文読んでねーし。


「あー原そういえば知ってる?花宮とみょうじの仲が元に戻ったらしいぞ」
「えっ」
「山崎くんが喋ったので今から試験始めまーすハイ参考書ノートしまってー」
「ええええぇ嘘俺喋ってねーよ!!」


体がサーッと冷えていくのを感じた。しかし腹の奥は熱い。汗が滲む。いやいや、まさか、え?だってアレもう修復不可能っしょ?そうだよ、ザキが言うことなんか信じてんなよ俺。…あれ、でもまた古橋がなんかしたとかも考えられね?いや…でも…いや…ゼロではねー…よ、な。あれ…ちょ、これヤバくね…?


「じゃあ試験はじめー」


このあと体育館行ったら花宮とみょうじが仲良く待ち構えてるかもしれねーってこと?みょうじがいつも「ザキくん」と語尾にハート付いてそうな喋り口調で語りかけてんのいっつも後ろから見てたけど今回はそれに「原くん」も加わるの?花宮がえっらい爽やかなキャプテンになってザキにエグいペナルティ言い渡してんのに今回は原くんも加わるの?それってきっとめちゃめちゃいたぶられるよね?あれ?俺追試落ちたらどうなんだろう?きっとしぬとかそんなすぐに楽にさせてもらえることはまず無いないよね?人工的に生死をさ迷うようなことになるよね?生きることもしぬことも出来ずみたいになるよね?
隣のザキを盗み見る。いつものことだが、ピンピンしている。テストの度に赤点を取り、地獄送りにされ、毎回ケロッと生還するこいつは、もしかしたら天才なのかもしれない。よく馬鹿と天才は紙一重って言うしな。


「こらこら原ーカンニングはするなよー」
「ザキの答案カンニングするぐらいならチンパンジーの答案カンニングします」
「それもそうか」
「俺人間」


−−−


「ザキくん」
「はい」
「それに…原くん」
「はい」


その場ですぐに採点された追試の結果は、見事と言っていいのかわからないが、まぁ合格だった、俺もザキも。
そして場所は変わって体育館。今、俺たちの名前を語尾にハート付きで呼んだのが、女神のような、般若のような顔をしたみょうじだ。その隣には爽やかでどす黒いオーラを醸し出す花宮が微笑んでいらっしゃる。あれ、おかしいな。なんでこいつら2人とも俺らより身長低いはずなのに見下ろされてんだろう。特にみょうじって160無いって聞いたことあんだけど。あれ嘘だろ絶対こいつら2メートル越えてる。


「2人とも、今日どうして部活に遅れちゃったの?」
「「追試受けてました」」
「そっか。それは大変だったね。…で?」
「…はい?」
「何か言うことは」
「「申し訳ございませんでした」」
「…だって、花宮くん。」
「そうだなぁ、2人とも反省してるみたいだし…今回のペナルティは軽めにしとこうか。」
「マジで!?」
「「でもお前らその前に一発腹パンな」」


−−−


「おい、焼きそばパン買ってこいよ」
「…古橋テメェあんま調子乗ってっと」
「原くん」
「行ってきます」
「ふはっ」


結局、俺たちは一週間バスケ部のパシりということで片づいた。あぁ良かった、これならなんとか生きていけそうだと思ったのだが、部活の準備片づけその他雑用全てザキと2人なので結構辛い。意外と古橋が人使い荒くて腹が立つ。あと最近なんだかわからないがお腹痛い。
でも花宮とみょうじが楽しそうだったし俺は息をしているので、良しとすることにしてやらなくもないかもしれない。




雨にも負けず
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2013.03.03