毒花繚乱 | ナノ


「いやぁホンマ偶然やなぁ花宮!!」


おっす、前回に引き続きオラ山崎。妖怪と花宮とみょうじがお茶するっていうから付いてきた。奴らは今、仕切り一枚隔てて俺の向こう側にいる。話まる聞こえだぜ。ちなみに場所は学生らしくサイゼで安心した。席順は揉めに揉めて妖怪の向かいに花宮、その隣に埋められない溝、その隣にみょうじとなったようだ。


「花宮は今日何しにきたん?」
「今吉さんには関係ないです」
「なんや相変わらずつれへんのー。ちなみにマネージャーちゃんはザキヤマっつー奴用のプレゼント買うてたで。チョコレート。な?」
「…へぇ?」
「今吉さんいらんことペラペラ喋んないでください」


どうやらさっそく話題はバレンタインのようだ。くっ…!照れる…!


「あースマンのぉ!ワシ昔からおしゃべりやから!なー花宮?」
「………」
「あららマコちゃんダンマリかいなー?」
「気持ち悪いんでやめてください」


うげぇ本当だあの妖怪マジキモイ。花宮は「人の嫌がることさせたら妖怪レベル」っつってたけどアレ何させても妖怪じゃん。なんで人間界にいんだよ帰れ故郷に。


「花宮も今はこんなやけどなぁ、中学入学してきた時はそりゃもう可愛いかったんやでー?」
「…へぇ?」
「今吉さんいらんことペラペラ喋んないでください」


っえ!いらなくねーよ!?つか花宮と妖怪って同中!?っちょ、初耳なんだけど!!!なにそれどんな中学だよなにをどう教育したらこんなん2体も製造できんだよバカじゃねーの!?まだ帰んな妖怪!!もっと話せ妖怪!!


「いらんくないでぇ中学入学時147cmやった花宮くん」
「…へぇ?」
「…わりぃかよ」


147cmの!!!花宮!!!なにそれ見てえ!!!


「…ん?あー…スマン電話やわ。」


ガタリと席を立つ音が聞こえる。どうやら妖怪が席を外すようだ。くそ、もっと花宮の話聞いてみたかったぜ。早く帰って来いよ妖怪。


「大人しく待っとってやー!あーもしもしこちら今吉ー」
「………」
「………」


妖怪が一端店の外に出るのが俺の席からも見えた。今まで一人ペラペラ喋っていた奴が消えて、隣からは物音一つしない。ちょ、どっちかなんか喋れや!!この空気に耐えらんなくて俺が喋っちまいそうだ。カラカラに乾いた喉を潤すべくメロンソーダを口に運ぶ。うぇ、氷溶けすぎて不味い。


−−−


「………」
「………」


ぅおい!!!!小一時間隣から物音一つしねぇんだけど!?あれ!?もしかして帰っちゃった!?んな訳ねーよアイツら帰ったら別の客入る音するわ!!!妖怪はなんで帰って来ねんだ!?なにこの会合常識通じねぇ!!!!


「おースマンスマン電話長引いてもうたわー」
「………」
「………」


やっと帰ってきやがった妖怪コノヤロー早くさっきの話の続きしろよ。


「スマンついでにもう一つ」


こちとらメロンソーダだけで小一時間粘って…


「急用入ってもーたわ!ワシ先帰るな!あ、代金はちゃんと先輩がもつで!ほなバイビー!!」


帰 り や が っ た … ! !
うそ、え、ちょ…マジかアイツ!!!!!人としてどうなんだよそれ!?ってアイツ人じゃなくて妖怪だった!!!


「………」
「………」
「…ちょっと、どこ行くの」
「…帰るに決まってんだろ」


俺の!貴重な!時間を返せよくっそ!!!どーしてくれんだよテスト明日まであんだぞ!?


「…待ってよ、なんで怒ってんの」
「は?怒ってねーよ元からテメェに対してはこんなもんだ」


オイどーすんだよ破滅じゃね?破滅じゃねコレ?追試になったら隣の奴らに殺される!!ひィどうしよう!!!!


「こんなんじゃねーでしょ古橋たちが不審がってんの気づいてないの」
「…知らね」


もう諦めて今日は帰ったらマリカー…あり?アイツら喋ってね?


「…っあっそ、それはわたしが悪うございましたね」
「………」
「ん」
「…なんだよこれ」
「あげる」
「…いらね」
「んだとテメェやるっつってんだろ!!!!」
「いらねーっつってんだろ!!!!」
「ん!!これ食って一刻も早くしね!!!!!」


…ねぇ喧嘩してね?コレ。してるよね?コレ。みょうじキレて出口に向かってまっしぐらじゃん。


「待てよクソ女!!!いらねーっつってんだろ!!!!」


しかも花宮みょうじから押し付けられたら毒入りと思われる何かみょうじに投げてるし。


「っしね!!!!」
「お前がしね!!!!」


あーあみょうじとうとう花宮の豪速球キャッチして暴言吐いて帰っちゃった。花宮も暴言吐いたあと舌打ちして一回座ったけどすぐに荷物まとめて帰っちゃった。一瞬見えた花宮の横顔が少しだけ赤かったのは、アイツが寒がりだからかね。


「まったく、いい加減素直になりやーって思わんー?ザキヤマくぅん」
「!?!?」


とっても聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには妖怪がいた。
…妖怪かよおおぉぉぉおお!?!?え、なんで!?帰ったんじゃねーの!?


「ホンマ世話のやけるキャプテンとマネージャーやなぁ、可哀想に」


妖怪はごくごく自然に俺の向かいに座る。え?なにコレどういう展開?


「ま、明日からアイツらまた仲良う喧嘩し出すはずやで?キミらの未来はワシが切り開いてやった」


…あぁ?だって今アイツらめっちゃ険悪だったじゃんなに言ってんのコイツ?


「あー…キミ噂通り頭悪いんやな。スマンスマン」
「んだとゴルァァァァ!!!!」
「あと、これ。頼んだで」
「…は?」
「自分んトコの人間がやったことや、自分で責任とりー!ほなバイビー!」


このあと何故か俺は4人分の会計を済ませ、赤ペンはおかげで金が足りなくて買えず、明日のテスト勉強もできず、なんだか大変腑に落ちない1日となった。




妖怪は君のすぐ側に
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2013.02.21