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灯りを消した暗い部屋、扇風機が風を送り込む音が無機質に聞こえている。耳をすませば、蓮二くんの寝息も。

部屋の電気を消して、もう一時間は経ったであろうか。眠れない。目が慣れてきて、同じ布団の中、隣で眠る蓮二くんの顔がうっすらと見える。

(…もう少し、くっついてもいいかな)

私と扇風機以外の何もかもが眠ってしまっているこの空間に一抹の寂しさを感じた。蓮二くんの体温を感じたくなった。しかし、既に穏やかな寝息を立てている蓮二くんに今から許可を取るわけにもいかず、私は起こさないようにそっと、身体を蓮二くんへ近づけた。
私の腕と蓮二くんの腕が触れる。すると、蓮二くんの身体が、呼吸に合わせて上下しているのが肌で感じられた。私は目を閉じて身体を蓮二くんの方へ向け、自らの額を蓮二くんの上半身にそっと当てる。蓮二くんからは、ほのかに石鹸の香りがした。麻の部屋着づてに、蓮二くんの身体が発する熱がじわりと感じられる。

少しだけ、安心出来たような気がした。これならきっと眠れそうだ。私は改めて今日を終えようと、一度瞳をぎゅっと瞑り直してから、ふっと瞼の力を抜いた。蓮二くんの身体の横に控えめに投げ出されていた彼の手を、そっと、握る。



「…っ」



その時だった。蓮二くんは私の方へぐるりと、寝返りを打った。心臓が跳ねて、思わず手を離す。しかし、握らなかったもう片方の手が、彼の寝返りに合わせて腕ごと私の身体の上へ落ちてきた。まるで、蓮二くんの腕の中にすっぽり収まってしまったかのような、そんな感覚。

(…あったかい)

跳ねた心臓は落ち着きを取り戻せずにいるが、しかしそれに反して私は、先程まで以上に感じられる蓮二くんの体温に、より一層の充足感を覚え…たのも束の間。



「眠れないのか?」

「っ」



自分の頭の少し上から、やや掠れた声が私に問いかけた。それは考えるまでもなく、蓮二くんのものだ。身体が分かりやすく硬直するのを感じた。



「ごめ…っ、起こしちゃった?」

「いや…問題ない」



蓮二くんは、いつもよりも少し遅めのテンポで、返答をしてくれた。それから暫くの間をおいて、自らの手のひらを私の頭の上にそっと乗せた。ゆっくりと、まるで頭の形でも確かめるかのように、力の抜けた蓮二くんの手のひらがするすると私の頭の上を滑る。



「俺は…なまえが隣にいるからか、普段より安眠できるようだ。…なまえも、俺の手でも腕でも、それで眠れるのならば俺の身体は好きに使ってくれて構わない」



蓮二くんは寝ぼけているのか、歯の浮くような台詞をぼそぼそと低い声で言った。



「…眠れそうか?」

「っ、えっと…」



やはり寝ぼけているのだろう、蓮二くんは甘い声色で、表情で、普段口にしないような言葉を投げかけてくる。
そんな蓮二くんに翻弄されて、私の心臓はぶんぶん白旗を上げている。こんなにどきどきさせられて、眠りにつける訳がなかった。



「れっ蓮二くんは気にしないで、早く寝て…!」

「…何故だ、眠れないのだろう?」

「れれれ蓮二くん近いよ…!」



蓮二くんは私の心臓の都合などつゆ知らず、自分の腕の中に私をおさめたまま手のひらを私の頬に添え、表情を伺うように顔を近づけてくる。



「ふっ、何を今更」

「蓮二くんと私じゃ…耐性が違うと思う」

「そんなことはない」



思わず視線を反らし、自分から近寄った癖に、少しでも蓮二くんと距離を取って心臓を落ち着けようとした。すると蓮二くんは少しだけ笑って、私の手を掴んだ。その手はすぐ側の蓮二くんの左胸へと導かれる。



「…あまり可愛いことをしてくれるな。おかげでこの有様だ」



手のひらから伝わってくる蓮二くんの鼓動は、とても速かった。



「…蓮二くん、も、どきどきするんだね。なんか、ちょっと安心した…」

「ああ。…お互いこの鼓動が落ち着く頃には眠れるだろう」



蓮二くんはそう言って、また私を腕の中におさめた。
蓮二くんの心地良い腕の重みと体温を感じながら、私は蓮二くんの左胸に耳を寄せた。とくとくというその心音は、ゆっくりと私を微睡みへと誘い込んでいく。

蓮二くんが、するりと私の髪を撫でた。
私は無償に降り注ぐこの安心感に包まれ、まるで子どものように、眠りへと落ちて行った。



20190106
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寝ぼけて彼女を甘やかしてると見せかけて、実は自分も彼女に甘えてる柳蓮二
扇風機が回ってるのはこれを書き始めたのが真夏だったからです