log | ナノ


「モテる男っちゅーのも大変やなあ」



謙也は、白石を見て、よくそんなことを口走る。隣の財前はそれを聞いて「少なくとも謙也さんには務まりませんわ」と毒づく。



「なんやとコラ、俺かて本気出せば白石と肩並ぶっちゅー話や、俺のがオモロいしな」

「なんです謙也さん、アンタ手抜いて今まで生きてきたんですか」

「んな訳あるかアホゥ」

「なまえさん、モテる男の彼女っちゅーのも大変でしょうけど、モテへん男の後輩務めんのもまあまあしんどいっすわ」

「せやろなあ、心中お察しするわ財前」

「おい今の流れ、しんどくないの俺だけやん」



というのも部活終了後、白石と私は一緒に帰る約束をしており、先に支度を終えた白石が考え無しに「俺外で待っとるな」などと綺麗に笑ったのがつい5分程前のことになるだろうか。そして今、奴は見事というか何と言うか、逆ナンされているのである。校門前にて謙也がその現場を見かけたらしく、冒頭に至る。ちょっと目を離した隙にすぐこれや。ほんま、油断も隙も無いわ。



「…部長、なんであんな逆ナン払うのヘタなんすかね」

「白石顔の造りに愛想あるから、しゃあないな」

「ちゅーかみょうじ、早よ白石んとこ行かんでええの?取られんで」

「取られるかボケェ」

「おーおーこれまたエライ自信あんなあ」

「せやかて謙也、逆ナンされとる時の白石の顔見たことある?むっちゃ困っとる」

「喜んでないで早よ助けに行ったれや」



なんで私より謙也の方が白石のこと心配してんねん。前は自分でもよくそう思ったものだが、今ではもう割り切ってしまっている。これは立場の差などではない、ただの性格の差である。謙也はせっかちすぎてあかん、人生絶対損しとる。だってアンタ、こんなん直ぐ私が出てってしまったら…おっと、ここから先は秘密や。謙也にも財前にも教えてやらん。



「…なんですなまえさん、何も言わんと一人でにやにやして、キモいっすわ」

「うっさいわ、アンタは謙也のお守りでも大人しくしときや」

「何やねんお守りて!俺のが先に生まれとるっちゅーねん!」

「謙也さん本当は俺と同級生になる筈やったのに焦って早よ出てきてしまっただけですやん、ほんま、天性のスピードバカ」

「なんや俺今褒められとんの?バカにされとんの?」

「めっちゃバカにしとります」

「なんやとコラ」



うっさい耳元で騒がんといてください。放っておいたらいつまでも続くであろう、そしていつまでも見ていられるだろうナイスコンビ共には視線と心でそろそろ別れを告げ、私も白石の元へ足を向ける。白石の心までは取られずとも、身体だけはもってかれてまうかもしれへんし。白石押しに弱いから。

そして校門へ向かえば案の定、苦笑いを浮かべたタジッタジの白石がいた。いやあこれは可哀想やわ、相手複数やもん。



「白石、お待たせ。どないしてん」



そう声を掛ければ、白石は私の姿を捉え、そして「助かった!」という表情を全面に浮かべた。



「みょうじ!待ちくたびれたわ。ほな、スマンなあ、気ィつけて帰ってな」



白石は私の名前を呼んだ後、逆ナンの女の子たちを気遣うような(余計な)一言を添えて、私の方へ一目散に寄ってきた。かと思えば私の手を取り、忍者の如くこの場を後にした。あかん、今スピードスター超えたで絶対。
白石はさらりと、しかし必死に女の子たちを撒いた後、漸く立ち止まり、此方を振り返った。



「みょうじ、」



その表情は、先程とは打って変わって酷く安心しきっていた。私は白石のこの、私にだけ向けてくれる表情がどうしようもなく好きだった。



「…わざと支度時間かけたやろ」

「まあ、かけてへん言うたら嘘になるかな」

「…ほんま、みょうじは俺を困らせるのが好きなんやなあ」

「ちゃうもん。困った白石が私を見て安心した顔向けてくれるのが好きなんやもん」

「悪趣味」



白石は困ったように笑って、それから私をそっと抱き締め、「はあ」と息を吐いた。暫くそのまま互いの体温を感じていたが、やがて気が済んだのか白石は私から身体を離し、代わりに視線を寄越してきた。



「…帰ろか」

「…おん」



何を咎められるでもなく、そのまま私たちは帰路についた。
全く、白石は私を甘やかしすぎやと思う。そんなだから、私が余計に白石を待たせてしまうのだ。



虹彩サテライト
* * *
20171005

隠し?ページお題消化作品。
tns書くとお相手キャラよりも外野のがぐいぐい前出てきちゃう。
ちなみに多分この子はマネージャーとかではなく女テニかなんか。