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部活終わりの帰り道。最寄りの駅までみんなと一緒に帰るいつもの風景。隣には丸井だの仁王だのがいて、「丸井お前今日告られてたじゃろ、俺は見た」「マジかよヒュウ」「…って、思うじゃん?幸村くんへのラブレター配達頼まれただけだから」「「あーね」」などという会話をしたりしていた。いやあ幸村モテるよね、ウンウン。…それに比べて。



「ねえ真田ー」



幸村がまた今日ラブレター貰ったらしいんだけど、真田は最近調子どうー?、なんておちょくってやろうと、私達の後ろを歩く真田を振り向いた。しかし、真田とすぐに目が合うことは無かった。何故なら奴の目線は、私が振り向いた拍子に翻った制服のスカートへと完全に行っていたからである。隣の幸村が真田へ、軽侮の視線を無言で向けている。



「…ムッツリじゃな」

「…ムッツリだな」

「…私知ってる、男って揺れるものに目を奪われがちなんでしょ、知ってる知ってる」



真田には聞こえない音量で、私達は呟く。いやいや本当、テレビとか雑誌でよく見るじゃない、男を落とすには揺れるイヤリングを付けろ、とかさ。それの基礎編みたいなの私がうっかりやっちゃったんだろ、知ってる知ってる。君たちも揺れるものには気をつけなさいよ、悪い女に引っかかっちゃうよ、などと3Bコンビに忠告してやるが「「アーハイハイ」」と声を揃えて生返事である。お前らそういうところだからな本当。「ねえ真田、みょうじが呼んでるよ」と幸村がジト目で声をかける。真田はハッとしたように私を見た。



「…むむ、なんだみょうじ」



真田は幸村に言われ漸く私の目を見た。隣で3B共が「おい聞いたか丸井、ムムって言ったぜよ今」「今ならなななんと5000ポイント付くんじゃね?おい行けよみょうじ」などと好き勝手言っている。本当お前らそういうところだからな。
しかし、漸く真田が私自身に意識を向けたのだ。これで目的が果たせる、とは思ったものの…やっべえ、何言おうとしてたのか忘れた。どうせくだらないことなんだけど、やっべえなんだっけ。



「…お前そんなトリ頭で高校行けんの?」

「うるせえ丸井よりは望みあるわ」



そんなやり取りをしている間にも幸村のジト目は此方にも向き始めた。まずい見捨てられる。早く真田に用を作らなければ。どうする。どうする。

小さい脳みそを大回転させた結果、私は真田の目の前まで出向き、自らの身体を揺らすことにした。真田の目は果たして私の揺れに合わせて泳ぐのかという実験である。と、言い張る。背後から「まずい奇行種じゃ」とかいう悪口が聞こえるが、そんなもんウチでレギュラー取ってる時点でお前ら全員奇行種だからな。奇行種のお守りしてたら奇行種にもなるわ。つーかこの業界大体奇行種じゃねえか。なんでだ、修造を育てた業界だからか。
…おっと小さい脳みそが暴走しちまった。真田だよ、真田真田。さて、真田の目は果たして泳いでいるのか。しかしなんということだろう、視線をあげて確認して見れば真っ直ぐ此方を見据えているではないか。あり?



「何をしている、目障りだ」

「いってえ」



真田は視線を泳がすどころか、両手でばちこんと私の頬を挟んできた。強制的に身体の揺れが停止させられる。つーかめちゃくちゃ痛い何これありえん。何もかもありえん。早よ手どけろやプレスされて顔伸びるわ。



「全くお前はいつもいつも、恥と言うものを知らんのか」

「何おう。全く真田はいつもいつも、世間と言うものを知らんのか」

「何?」



何?じゃねーーーよ。世間知らずの15歳児、弦一郎くんには分からないかもしれないけどね、これ傍から見たらヴィジュアルやばいから。一歩間違えればシルエット月9だから。おいおいやめてくれよ。
幸村が、助け舟を出すかと思いきや崖から突き落とすように「ヒューヒュー、真田やるう!キース!キース!」と囃し立てる。元気で何よりだよこんちきしょう。



「ゆゆゆ幸村貴様!!!何を言うか!!!」

「ちょ、いだだだだいってえ!!真田プレスいってえ!!!早よ離せ」

「我々にはまだ早い!!!風紀の乱れ!!!けしからん!!!」



真田はそう言ってプレスしていた私の顔を思いっきり解放した。え、ちょ、これリバウンドしてないよね大丈夫だよね?幸村が「アッハハ真田ったら無様」などと大層お喜びだが、真田はプンスコ怒ってドンドコ一人で歩いていってしまった。
3B共が「みょうじ如きに照れんなよな」「皇帝が聞いて呆れるぜよ」などと悪口を言っている。いや部長含めて君たちチームメートの悪口言いすぎだからね。これだから立海は仲が悪いとかギスギスしてるとか言われんだよ。
大体、なーにが「我々にはまだ早い」だよ。機が熟したら我々キスすんのか。ないない。絶対ないからね。あんの3周目15歳児が。



鎧と金魚
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20170930

もうちょっと甘い感じのにしようと思ってたのに外野がうるせえ