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吹く風は冷たい。まだまだコートもマフラーも手放せない。しかし、校門付近に並ぶ桜の木には蕾がつき始めていた。春は近づいてきているのだ。

明日は卒業式。それなのに、彼は今日もバスケットボールを高く高く放っていた。



「…明日、卒業式だよ?」

「…」



彼が放ったボールが、吸い込まれるようにネットをくぐる。



「…久しぶりにバスケがしたくなった」

「…嘘、受験勉強の合間にもこっそり体育館来てたでしょ」

「…知ってたのか。でももうやめる。これで…」


再び彼はボールを放つ。相も変わらず美しいフォーム、美しい指からくり出されたボールは、高く高く宙を昇る。それから、静かにゴールに飛び込んだ。ボールがバウンドする音が、二人しかいない3月の体育館に響いた。



「…これで、最後だ」



彼は静かに呟き、ボールを片づけ始めた。



「もう、やめるの?」



私の記憶の中の緑間は、もっと暗くなるまでボールを触っていたけど。
外はまだまだ明るい、昼と夕方の間のような空だった。



「言っただろう、あれで最後だ。…それに、明日は卒業式だからな」



ボールを片づけ終えた緑間は「お前も暗くなる前に帰るのだよ」とだけ言った。



「…ねぇ、」



私の横を通り過ぎようとした彼の袖を控えめに掴む。



「聞いてほしいことがあるの」



まったく、いつ見ても真面目な顔してるんだから。私に向き直った彼を見て、思わず小さく微笑んでしまう。その真面目な顔が、今は更に真面目に見えるのは、明日が卒業式だからだろうか。


彼との3年間を思い出しみる。本当に真面目で、まっすぐで。ボールを放る彼の背中が、ずっと眩しかった。

私は彼と違って、全然まっすぐじゃないから。すぐ余計なこと考えて、怖くなっちゃうから。今まで何度も諦めてきたんだ。

だけど、ずっと3年間まっすぐなあなたを追いかけてきた影響で、私も少しはまっすぐになれたのかな。まだ少し怖いけど。でも、今なら言えそうって思うんだよ。



「…緑間、あのね、」







首すじライン
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首すじライン/RYTHEM
2012.11.06