からっぽのまにまに
「ナニソレ。何込めたヤク?」
「記憶」
「ゲェ」
目の前の六本腕が器用に小さな錠剤を薬紙に包んでいく。細い腕が、指が、心底大事だと言うようにソレを持つもんだから苛立つってもんだ。傑も物珍しげに手元の薬を眺めている。
「まぁ、おまじないみたいなもんだよ。生きてたことを忘れないようにっていう」
「んなことまで忘れんのかよ、”神様”ってのは」
「忘れると言うか、薄れていくというか……。信仰されて、人に担がれるってことは、”人”と同じではいけないんだって。でも僕、人間だったことを憶えていたいから忘れそうになったらこれ飲むの」
声かけづらい顔で、声で、陰気なことをいうもんだからこっちも言葉に詰まる。傑は「そりゃ光栄だね」なんて思ってもないことを言いやがる。硝子もきっといい顔しないだろうな。
「けっ、ツマンネ」
「まぁ悟くんにしたらそうかもねぇ」
「過去ばかりみて今を蔑ろにされては私も寂しいな」
「傑くんは優しいねぇ」
うろうろ、6個の目玉が彷徨う。悲しそうに笑う顔が今だって忘れられない。
「あー、こんなことになるならあの時傑と死にものぐるいで人間のままにしておくんだったとかさぁ僕だって思うわけよ」
手の中の箱に収められた6個の眼球、6本の腕、そこに一緒に収められている薬紙。僕より遥かに長く生きるはずの彼の成れの果てがこれだなんて、なんて、残酷なのだろう。薬を一粒飲んで見れば、走馬灯のように学生時代の僕らが脳内を駆け巡る。一周回ってもう笑えてくるほど気分は最悪だった。
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