偶然を装い隣に座る
その日隣りに座ったのは偶然で、お互い授業開始後、資料を配る時に目を合わせて同じだと気づいた。ナマエは彼の匂いがするとはおもったが、まさか隣りにいるとは思わず、アズールもまた、似た後ろ姿だとは思ったが特に意識したわけではなかった。
「偶然だね、隣なんて」
「えぇ、まるで示し合わせたようですね」
「ね。相談してないのに隣座るとか、こんなことあるんだね」
こそりと言葉をかわすと、先生の話に集中する。ナマエはこの授業が好きであったが、何分、先生の話がながく眠くなってしまう確率が高い。話の内容を追うために開こうと瞼を開けるが上手くいかない。コクリと船をこき始めた頃、手の甲をつつかれる。
「眠らないでください。気が散ります」
「ん……ごめん」
首を振って瞼を持ち上げるも抗うのは難しいようで頬杖をついてうつむいた。
「……あ、やべ、授業終わるじゃん……」
目を覚ました頃には授業の終盤。教科書が何ページも進み、話が掴めず、もう一度頬杖を着くしかなかった。チャイムをきき終えると、ため息を付きながら教科書とノートを閉じていく。どこか嗅ぎ慣れた匂いはどこからするのだろうと、ナマエがふと横を向くと、呆れ顔のアズールが彼を見上げていた。
「あれ、アズール……あ、隣だったんだっけ、忘れてた」
「えぇ、そうだろうと思ったので貴方のノートもとっていませんよ」
「昼飯おごるのでみせてください……」
「いいでしょう、契約成立です。では今日のメニューに唐揚げ追加ですね」
嬉々として立ち上がるアズールの手には付箋紙のついた教科書が握られている。オレンジの付箋はナマエ専用の色だった。
←|→