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魔法薬調合アシスタントとハグ

 今日は眠気を覚ます魔法薬を作るというアズールの手伝いをする。あれから何かと俺と一緒にいる時間を作ってくれるアズールには頭が下がる思いだ。「番のケアをするのもオスである僕の努めです」という彼の言葉を借りると、俺もアズールの番のオスとして努めを果たしたいのだが、こうして一緒にいることがアズールにとってもケアだというのでwin-winということにしている。

「眠気覚ましってシルバーにやるやつだろ?アイツは魔法薬でどうこうできるものじゃないと思うけどなぁ」
「その意見に僕も賛成ですが、彼なりに手を探しているのでしょう。ですので、今回は眠気を抑える魔法薬です。材料は調達出来ましたか?」
「勿論、我が園芸部では色んな植物を育ててるし、俺の個人プランターでも育ててるからねー。まぁ質はわからないけど、揃ってるよ」

 ミントにレモン、白昼草、日明の実そのた諸々をバットの上へ並べると、及第点でしょうという声が返ってきた。オクタヴィネル寮には人魚の生徒が多いことから、特別措置として寮内に小規模ながら実験室があり、変身薬の調合が許されている。そのうちひとつは代々寮長のみが使える個室となっており、アズールも例にもれずここを使用している。眠気抑制薬の調合は海水から始めるらしい。コレはまた強烈な味になりそうだ。

「変身薬とか水中で呼吸ができる魔法薬も大概だけど、これまた……」
「ほら、鍋をかき混ぜる手が緩やかになってますよ。混ぜる速さと力は均一に」
「はぁい」

ヘラに魔力を込めてぐるぐるとかき混ぜる。青とオレンジがマーブル模様を描く液体はどろりと重く、込める魔力も一苦労だ。煮詰めて、マーブルが年輪のようになった頃、魔力を込めるとソレは蛍光色に光りそれを見たアズールが一つ頷く。傍らにおいた、変身薬をつめる瓶の倍はある大きさのソレに意思を持ったように液体が入っていく。

「鍋の中身これだけ?もっとあったくない?」
「いえ、この薬は何層にも折り重なり二晩休ませることで結晶化するんです」
「へぇ!これ固形になるんだね」
「最終的にこの釜の約4分の1程度の量が結晶化するので、瓶からあふれるのが難点ですね。敷物を用意しなくては」

アズールの抱える瓶は大きく、人の頭が一個入りそうなくらいだ。釜やヘラに魔法をかけて洗い、少しだけ草の匂いが残る実験着を脱いでアズールの背中を追いかける。寮長室の魔法薬の棚の一角にスペースを作ると敷物を敷いて瓶を置いた。最後に仕上げの魔法をかけている間に彼の実験着をハンガーへかけておく。ぼう、と窓の外の海を見つめているとアズールから声がかかった。

「おいで、ナマエ」
「抱きついていいの」
「そのために僕は両手を広げています」

 ベッドも椅子もあるのにあえて立ったまま俺を誘う彼の腕の中へ寄り添う。抱きとめて、壁により掛かると長くため息を吐いた。力が抜けて、俺も遠慮なく体重をかけてもアズールはびくともしない。むしろ背中に周る腕が強くなった。
会話は特にない。でも、俺の体温とアズールの体温が混じり合ってぬるくなっていくのが心地良い。アズールのほうが少しだけ身長が高いので、肩に目を擦り付けたいけど、できない。刈り上げの境目に擦り寄せる。

「ふふ、息がくすぐったいです」
「落ち着くから呼吸が深くなるんだよ……」
「僕も貴方が腕の中にいると安心します」

隙間なく分け合う体温が、アズールのテリトリーの中が居場所だと教える匂いに、とろりとまぶたが落ちていく。

「眠ってもいいですよ。マレウスさんに外泊の許可を得ています」

その声を最後にストンと落ちていった。



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