サファイアの煌き
薔薇の王国出身のサファイアのジェム
1-B ポムフィオーレ寮生
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僕には友人がいる。彼は少し変わっているが、とても大切な人だ。ちょっとだけ僕を過大評価するけれど、そういうところも愛おしい。NRCに入学して数週間、僕たちは入学直後の忙しさに飲まれて学内でいまだ会えずにいる。ポムフィオーレ寮に属する彼はクラスも違うし、何より僕がエースや監督性とツルんでいるから、彼の性格的に僕に話しかけられないのだろう。部活も始まると、僕にとっては学校生活の何もかもが初めてで毎日が目まぐるしい。
更に数週間経っても、相変わらず勉強は苦手だし、そもそも机に向かうことが苦しいし、抜き打ちテストも散々だった。いつもエースも監督性もグリムもいて賑やかだけれど、それが今日は煩わしくて一人で中庭に来た。初めてとる一人の昼休憩は静かで、自分から望んだはずなのに落ち着かない。こんなことならば少しうるさくても一緒にいればよかったと後悔していると、誰かの影に日光を遮られる。見慣れない靴だと顔を上げると久しく見ていなかったなまえが、珍しく自分から僕のもとへやってきたのだった。
「よかった。デュースだ」
「珍しいじゃないか。自分から僕に話しかけるなんて」
「うるせー。デュースが横にいないと物足りねーの。わかれよな」
「あぁ、悪かったな。僕は察しが悪いんだ。というか、そっちの寮はその話し方でいいのか?」
「勘弁してよ。あんな上品な喋り方デュースの前でしなきゃいけねーなんて最悪だ」
盛大にしかめた顔に今度こそ笑う。彼の青い肌が照れたように頬の部分の色が変わって髪をかき混ぜた。いつもは見えるサファイアは今はYシャツの奥にしまわれていて少し残念だけれど、しばらくしていなかったじゃれ合いが嬉しくて、仕返しと称して乱された髪なんて気にならなかった。昼飯の菓子パンを二人で分けるとちょうど午後からの授業が始まる15分前だった。なまえは動物言語学で、僕は魔法史だ。動物言語学は好きだというので、今度教えてもらう約束をして教室に入る。エースとグリムに質問攻めにされることもなんだか楽しくて、でも簡単にアイツのことは教えたくもなかったから、質問には適当に答えて少し早めに教室にはいったトレイン先生のほうに身体を向けた。
2
デュースに乱された髪を手で適当になおす。その様子に顔をしかめた同じ寮生の視線に少しばかりの気まずさを感じながら席についた。でも、これはデュースがしたんだから別にいいんだ。綺麗でいることよりも、ずっとずっと価値がある。動物言語学の教科書とノートを出して先生が来るのを待った。
無事授業を終えて、教室を出ると同じ寮のフェルミエくんが俺を待っていた。部活が休みらしく、一緒に勉強しないかというお誘いだった。二つ返事で了承するといつもの上品な微笑みではなく、嬉しそうに歯を見せて破顔する。彼の時折するカジュアルな仕草は寮長には大変不評だけれども、俺は好きだ。なんとなく視線を上げた先でデュースと目があったのが嬉しくて小さくだけれど手を振った。
「エペルでいいよ、同じ部屋だし。デュースクンと知り合い?」
「うん。俺の大切な人。フェル、エペルくんも仲良くしてあげて。ちょっと口が悪いかもしれないけど良いやつだからさ」
「ありがとう。ふふふ、それは知ってるよ」
図書館について魔法史の教科書を取り出す。来週までのレポートは下調べをしなくては完成させられない課題だ。お互いに調べあってわからない部分を補いながらメモをしていけばあっという間に日は沈んで、閉館時間だ。図書館の先生に追い出されて、寮へと帰る道を歩く。エペルくんは寮の部屋も同じで何かと俺を気にしてくれている。青い肌も、青い髪も、胸にあるサファイアも過剰に驚かず、腫れ物扱いもせず、普通の友人として気にしてくれるその距離感が程よい。寮は4人一部屋で俺たちの他にあと二人いるが、一人は人魚、一人は獣人と、4人がそれぞれ違う種族で集まっていることと、お互いに多様性を重んじるという気質ゆえに他の生徒よりも恵まれた部屋割となっていた。談話室を抜けて部屋に戻ると同僚たちも勉強していたらしく俺たちの帰りを息抜きと称して食堂へと誘われた。
「そっちは何勉強してたの?」
「魔法史だよ。来週レポートだったから」
「なぁ〜明日の錬金術の宿題やったか?セイとやってんだけど全然出来ねぇ」
「やったけど、僕も錬金術はあんまり…なまえクンは?」
「忘れてた…しまった…」
4人それぞれ溜息をついて落胆し、とりあえず一番まともそうな人魚のセイくんとエペルくんに俺と蛇の獣人であるララくんはこれからしなければならない試練にまたため息をついた。
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