3.諦める 山姥切国広
「今日のおやつはずんだ餅だよ」
その言葉が部屋の外から聞こえてきて少しばかり気分が上を向いた。この本丸の燭台切殿は手先が不器用なのかそれとも少し大雑把なのか料理は好きだがあまり得意では無いらしい。しかしながらそんな彼の作るずんだ餅は粒の残り方が適度でとても好きだ。厠へ立ち寄ってから、厨へ行こうと歩を進める。
厠を出ていざ、厨へ!と意気込んだのもつかの間で、全部なくなってよかったという燭台切殿の声がした。どうやらずんだ餅は配りきってしまったらしい。俺はあまり存在感がないようで、こうして忘れられてしまうことが多々ある。悲しみは深いが、なくなってしまったものはどうにもならない。気分が落ちた心を引きずって来た道をもどろうと踵を返した。
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