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「今のはこの2人をかばったつもりか?」
嫌味ったらしい口調と物腰で棗に近付き、強引に手を引く。
「ではお望みどおりターゲット変更」
「!」
「なるべくならお前は、僕の声で無害にしてから、彼に引き渡してやりたいと思ってた所だしね」
尚も体調が不調である棗にアリスを使い続けるレオちゃん。
早く助けないと…
「あの二人は海外行き。お前はめでたく『組織入り』。で、古宵は俺の飼い主なのは変わらないし…」
「ぅふふ、少し黙ろうか?」
それに…
「私たちは絶対此処から脱出してみせるわよ?」
古宵のキッパリとした物言いにこの場の者全てが目を見張る。
それを聞いて、棗はほんの僅かに笑みを浮かべてレオちゃんの手を振り払った。
「…はぁ…はぁ…」
「こいつ…」
レオが目を見開いて隙を見せたその一瞬の隙を突いて私と蜜柑は走った。
ガッという蹴り音と、尻餅をつくような小さな音がなる
「?!」
古宵はレオの鳩尾を勢い良く蹴り飛ばし、蜜柑は棗を庇う体勢になる
「レオさん!」
レオは軽く呻き声を上げ、古宵を見上げる。
「もー、先輩の愛はいつも痛いですよ」
「愛じゃないわ、それにレオオイタが過ぎますよ」
言葉に詰まるレオ。
それは単に言い返せなかったからだけではない。
古宵がキレていたからだ。
古宵のキレ方には三段階あり一段目-first-はただ普通にキレるだけだ。
しかし二段目-second-は笑顔でキレ、そして敬語になる。一段目とは比べられない程怖い。
三段目-third-…は言うまでもなく血の雨が降る
「それに、友達や学園についてあれこれ言われたくないんですよ。」
「そうや!さっきから勝手な事ばっか言うな!何で棗がお前らなんかと…!!」
「こいつ…あんだけレオさんの“声”聞いてて何で何とも無いんだ…?」
先ほどからスミレちゃん達のようにアリスにかからない蜜柑を見て紫堂が疑問を口にする。
Zの男達だけではなく私や蜜柑まで驚きを見せる有様だ。
そしてレオちゃんは目を見開きながら、言葉を恐る恐る紡ぐ。
「……お前、『無効化』か…?」
しまった、バレた…!!
グイッと蜜柑の顎に手を添えたまま引っ張り、蜜柑の顔をじっと見つめてレオちゃんは呟く。
「……この顔…………似てなくもない。『あの女』に」
古宵は焦っていた。
蜜柑の存在が組織にバレるのは時間の問題だとは思っていたが、まさか此処まで早いなんて。
レオちゃんがチラリと此方を見てきたが無視しておいた
するとレオちゃんはニヤリと不適に笑い、制御装置を元に戻す。
「おい、今すぐデータを全て調べろ♪『あの女』について10年程前を徹底的に洗い出せ」
部下に命令するとレオちゃんは私に向き直った。
「『黒猫』や『冥府の王』以外にこれは思いもよらない収穫かもしれないぞ」
聞きなれない単語に蜜柑たち3人は疑問符を浮かべた。
「……ぁは、その呼び名止めて頂けますか?」
今のレオちゃんは気持ちの悪い程に上機嫌だった。
そして私にもう一言告げて部下の下へと戻っていった。
「貴女が学園にこだわるのはこれのせいですか」
「…まぁね、
よし…、此処だけでも結界を緩めてくれたのは儲け物よ」
古宵が溜息混じりにそう言うと、棗はスミレを足蹴にした。
「アイツの言うとおりだ、今なら結界は緩いままだ。アリス利かせろ」
棗に言われてスミレは必死に辺りの様子を探る。
とりあえず、人気のないことと南方の2つ先の倉庫から大量の薬品と火薬の匂いがするらしいことが分かった。
「…お前ら……俺が合図したら…全速力であのドアに向かって走れ」
「そうね、でも私はまだ残るわよ?」
古宵の発言にみんなが絶句する
「なんでや?じゃあウチも…「それはダメよ、私にはやることがあるから」」
声を押し殺し、私は蜜柑に向かって叫ぶ
棗も残るなという目線を此方に送ってくる。
「さっきも言ったけど私にはやることがあるのよ、本当は棗にも逃げて貰いたいけど…棗の事は私に任せなさい」
そして、と念を押す古宵
「いい、一度走ったら絶対に足を止めないことよ。大丈夫、此処の場所は先生に伝えてあるから」
「でもっ…」
「私と棗を信じなさい。私たちも蜜柑を信じてる。絶対に逃げ切るのよ」
蜜柑は渋々ではあるが、頷いた。棗はそれを見て決心したような目を見せ、チャンスを影から狙う。
「……いくぞ………いけっ!!」
棗の合図を皮切りに蜜柑とスミレちゃんが男たちをすり抜けて出口へと向かう
蜜柑が男に捕まりかけた時、棗が叫んだ
「動くな!!! …少しでも動けば、この先にあるダイナマイトに火をつける」
「にひひ、アリスに勝てると思っているですの?」
棗の背後から古宵が残虐な笑みを浮かべて出てくる。
「…は?何を言ってる。この結界の中、今のお前にそんな力なんか…「あるさ」」
さも自信有り気に棗は言ってのけ、私は更に笑みを深めて棗に続ける
「アリスがいることを忘れてないですの?アリスがアリス使って棗を治しましたしアリス自ら火薬庫を燃やすことだって出来るですの」
私と棗は同時に立ち止まったままの蜜柑たちに向き直る。
因みに古宵は既に殺戮モードのスイッチが入っている
「さっさといけっ!!」
蜜柑たちは再度走り出す。
私は2人の背中に向かって叫んだ
「もし戻ってきたらそれ相応の罰があることをお忘れなくですの♪」
もはや脅しに近いものが含まれているような気がしないでもないが…というより脅しだ
さてさて、これからどうしましょですの
「このままだといつまで経っても膠着状態ですの…」
レオちゃんはまだ、自分達が優勢だと信じて疑わない
アリスがアリスなのに…
その自信、崩して嘲笑ってあげたいですの、と古宵はにひひと笑い、棗だけに聞こえるよう囁く。
「ねぇ、1つ忘れてたことがあるですの」
「は?」
いきなりの古宵の言葉に棗は場にそぐわない素っ頓狂な声を上げた。
「此処にいる人たちは皆敵、ならばどうなってもいいってことです」
古宵のその言葉に一瞬ぞっとし、コイツ何者だ?と思った棗だったが今はそんなこと気にしてられないとそんな考えは捨てた
「何2人でコソコソしてんの?」
にひひ、部下も耳栓を付けていないし、レオちゃんは甘い
隙が有りすぎた!!
その瞬間古宵は大きな声を出した
「『(レオちゃん以外)眠りなさいですの!!!』」
すると、Z側の人間はレオを残して他は1人残らず地面に倒れ眠っていた
アリスのアリスは『冥王のアリス』あ、でも今は『言霊のアリス』でしたの…
まあ、どちらのアリスにしろ『声フェロモン』を使う事ができるし…
それを使ったと言うわけですの♪
「行くぞ」
「えぇ」
棗は私の腕を引っ張り、此処を後にしようと走り出す。
しかし、
「棗…、先に行ってくれるかしら?」
既に古宵の殺戮モードは解除されていた
というよりも、人を一人も殺していないので殺戮モードでは無かったかもしれないが
「何でだよ?」
「色々あるのよ」
棗は引こうとしない。
はぁ、仕方がないけど最終手段ね…
「棗…『私を置いて逃げなさい』」
『声フェロモン』を使えば、棗は悔しそうにしながらも走っていった
確か、蜜柑が戻ってくるはずだけどZの連中は皆眠らしたし…
あとは学園の関係者が来る前にレオちゃんと話をつけなくちゃね…
そう思いレオちゃんの方へと向き直った
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