変わらないもの/前
しばらくして、料理が運ばれ二人は食べ始めた。しばらくしてふと気になっていたことを聞いた。
「…にしても突然外食しようだなんてなあ、一体どういう風の吹き回しだ?」
「たまにはいいだろう。特に意味はない。強いて言うなら今日くらいは家事を休んでもいいだろうということだ」
「なら少しくらい手伝ってくれよ」
「人には得手不得手がある。私には家事は向かない」
「ちぇー。結婚できねーぞ、そんなこと言ってたら。男は家事しなくていいと思ったら大間違いだからな」
「結婚の予定は当分ない」
「大学入って彼女もできねーもんなあ…ははは」
「必要ないからな」
今日は場所が違うからなのか、クリスはいつもより良く喋る。今なら普段聞けないことも話してくれるのでは…チャンスなのかもしれない、と口を開いたのを、クリスの言葉が遮った。
「お前は、作る気はないのか」
「は…え?」
「お前は、恋人を作る気はないのか」
いつの間にか話の矛先はトーマスに向いていた。
クリスは特に表情を変えることなく淡々と聞いてくる。それがトーマスを更に焦らせた。
「昔誰か気になるとか何とか言っていなかったか?」
「そんな昔のことなんて忘れた。別に今は恋人なんかいなくたって充分楽しいぜ…」
「でも羨ましいのだろう。そう顔に書いてある」
「うるせーな!確かに、恋人いると楽しいんだろうなとは思う、けど…そうなりたい人がいねーんだよ、学校には」
「学校には、ということは、学校の外にいるのか?その、恋人になりたいと思う人物が。」
トーマスは一瞬ドキッとしたが、平静を装った。
「そういう意味じゃ…!」
「興味がないように見えてお前は案外ほだされる体質だ、痛い目を見る前によく相手を見ることだ」
(ていうかあんただけどな!クソッ!)
「あんたこそ…大学でモテるだろうし…とっくに彼女いると思ってたんだけどな。本当に興味ないのか?それともあんたこそ…片思いとか…?」
これ以上詮索をされては困ると、トーマスは無理矢理矛先を変えた。
しかし、口からそう言ったものの、本当に好きな人がいたら…という不安から、言葉に勢いがなくなってしまっていた。
「いや、そういうわけではない。…言うなれば、お前たちが居るからか」
「え?」
トーマスは驚いてクリスを見た。
「恋人ができれば、その者を助け、守らなければならない。私にとって守りたいと思うもの…その存在は家族で充分だ。」
トーマスの中で、二つの感情が湧いた。
一方は、あまり感情が見えなくなった今でもクリスが自分たち妹弟をちゃんと愛してくれているという喜び。
もう一方は、やはり自分は妹としてしか見られていないという落胆。
それらが混ざりあい、彼女に複雑な表情をさせた。
「どうした?」
「いや、何でもねーよ。帰ろうぜ」
トーマスはいつもの調子でごちそうさまと言うと、先にレストランを出た。
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