変わらないもの/前
(クソッ…なんだよ調子狂わせやがって…)
トーマスは授業が終わって早々、クラスメートとのお喋りもそこそこに真っ直ぐ帰路につき、荷物をまとめると、服を引っ張り出し選び始めた。
その姿は、まるで初デートの為にめかし込む初々しい女の子そのものだ。
いくつか選び、ふとある服で手が止まった。最近着ているものとテイストが違う為あまり着ていなかったものだ。いつか着たときにクリスが印象がいいと評価してくれたっけ。
トーマスは他の服を仕舞い、それを着た。普段より清楚で少し大人びているパープルのワンピースだ。それに黒のボレロを羽織った。
駅前の小さな広場のベンチに、白いシャツとスラックスを身に纏った長身の男が座っている。クリスだ。
簡素で今時の大学生らしくない格好。トーマスはクリスに駆け寄りながら、服を見繕ってやらないとな、と考えた。
「悪い、待ったか?」
「いや、私が少し早かっただけだ。時間もそんなに経っていない。では行くか」
「あ……。な、なあ」
「何だ?」
「飯食いに行く前に、行きたいところがあるんだけどさ。…いいか?」
一通り買い物を済ませた二人は駅前のレストランに入った。
「ふーっ、歩いた歩いた」
トーマスは満足した顔で席につき、嬉々としてメニューを開いた。
その向かいにクリスが座り、ドサッと持たされていた荷物を置いた。トーマスがお洒落に無頓着なクリスの為に選んだ服達だ。(若干トーマスが便乗して買った自分のものもある)
クリスに着て欲しい、似合うだろう、というものをしっかり選んだから、自分でもいいものを選んだと思う。
「あまり出せないからな」
「わかってるよ、高いものは頼まねーって!お兄様のオゴリだからな。俺これにする」
「わかった。では私はこれを頼む」
オーダーを取った後、クリスは少々不機嫌な顔をして言った。
「お前は買い物が長い」
「仕方ねーだろ、あんたに合いそうなものを一生懸命探してたんだから。それに、いいか?って頼んだときいいって言ったじゃねーか」
「買い物自体は特に反対していない。時間がかかりすぎだと言ったんだ。自分が着るわけでもないのに」
「あんたのだから悩んだんだよ!」
さも面倒ごとに付き合わされた、という顔をする兄にトーマスは言った。
元がいいんだから兄にはもっと格好よくいてほしいという妹心をわかって欲しい。
「それさ…ちゃんと着てくれよ?」
「わかっている。お前がせっかく選んだものだからな。お前のセンスはいい。…その紫のワンピースも、お前によく似合っている。」
「まあ…センスには自信ある方だぜ」
少し照れ臭くなって、トーマスは照れ隠しに水を飲んだ。
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