Love therapy only for you.


 オレンジ色の明かりが照らす中、ユーリはタオルケットを敷いたベッドに横たわり、デニスにされるがまま、気持ち良さそうに眼を閉じている。
 風呂上がりにオイルを使ってマッサージをしてやるのも、いつしか恒例になっていた。今日の彼はいつにも増して肌がしっとりしていて、指の滑りがよい。バスソルトの効果はしっかりと出ているようだ。自然と、揉み解すのも楽しくなる。
「ユーリ、終わったよ」
「ん、……」
 オイルを拭き取って声をかけると、ユーリは薄く開いた唇から微かな声を出した。完全に寝入っていたらしく、眼はまだ閉じられたまま。デニスは少し悪戯心を起こし、彼を仰向けにしてその唇にキスをした。ちゅっと吸って離し、もう一度吸って、と何度か繰り返したところで、首の後ろに腕が回るのが解った。
 寝惚けているのかそれともまだ夢の中なのか、いずれにしろ甘えたな素の彼が顕になったことに気を好くして、デニスは本格的に覆い被さりキスを続ける。元々ユーリが起きるまでし続けるつもりだったのだ。彼からねだってきたとあれば止める理由はないだろう。徐々に舌を口内に潜らせて、深く彼の唇を求めた。
 キスの最中、トントンと軽く胸を叩かれてデニスは唇を離す。ユーリの眼はいつの間にかしゃんと開いていた。どうしたの、と訊くと「水を飲んでくる」と言って彼はベッドから抜け出し、キッチンへ向かった。
「今日はナシ、か」
 良いときはユーリが更に全身へのキスをねだってきてセックスになだれ込むことが多いのだが、今日はそういう気分ではないようだ。珍しく甘えてくれたから少し期待していたものの虚しく終わり、デニスは自分を持て余した。それを誤魔化すようにベッドに転がり、彼が帰ってくるのを待つ。
 ベッドに戻ってくると、ユーリは裸のままころんとデニスの隣に寝転がった。
「そんな格好で。風邪引くよ」
「部屋暖かいからいいよ。そういう君もパンツ一枚のくせに」
「それは…」
「こっち来て」
 手招きをされてそっと近寄ってみると、彼は頭をデニスの胸に預けてきた。この状態で寝ようとしているらしいが、運動した後ならまだしも、このままでは風邪を引く。けれどそこから動いて着替える気には今更なれず、せめて、と布団を掛け、二人でその中に潜ることにした。決して広くないシングルベッドの中で、二人の世界は更に狭くなる。もしユーリが住むならこのベッドも買い替えないといけないかな、とデニスは思った。
 向かい合い、隙間を埋めるように抱き合って、脚を絡める。何故だか自然に、どちらからともなく笑いが零れて、何が可笑しいのか二人してクスクス笑った。ふわりと心が心地好い風に包まれるようような気持ちよさだった。前言撤回。セックスしないでこのまま抱き合って寝てしまうのもいいと思った。
「ねぇ」
「ん?」
 呼び掛けられて、デニスはユーリの顔を覗き込んだ。しかし言葉は続かず、彼はどこかを見つめながら繰り返し大きく息を吸ったり吐いたりしていた。何度か瞬きもしている。何かを躊躇っているようなーー訊こうとしたけれど、デニスは敢えて言葉を出さずに待った。それを悟ったのか、彼は一瞬眼を伏せた後、また顔を上げて口を開いた。
「君にはまだ言ってなかったけど、言わなきゃいけないことがあるんだ」
「なんだい?」
「僕、この春からアメリカに行くんだ」
「え…?」
 一瞬、何かの聞き間違いかと思った。
 アメリカ。デニスはゆっくり頭の中で彼の言葉を反芻する。突きつけられた事実を溶かして理解するのに時間を要した。
 ユーリがアメリカに行く。
「1年半だけね。留学するんだよ」
「1年半…。どうしてまた、そう思ったんだい?」
「まだやりたいことを見つけられてないから。本当は将来の夢なんてどうでもいいし、義父様の役に立てるなら何でもよかったんだけどね。…レオコーポレーションは義兄さんが継ぐから、僕は自由にやりなさいってさ」
「そうだったんだね…」
「うん。アメリカ行きを提案してくれたのも義父様でね。視野を広げて来なさいって。それに、僕が行くのニューヨークなんだけど、君の故郷なんでしょ?だから、楽しみなんだよね」
 言い出すのを躊躇った割には楽しそうに、そしていつもより少し興奮気味に話しているようにも見えた。デニスは「そっか」と軽く相槌して彼のしっとり柔らかい髪を撫でる。彼が楽しそうならそれでいいと思って、できるだけ、感情を廃したつもりだった。
 ユーリは程なくして眠りに落ちた。もう微睡みはすぐそこまで来ている筈なのに、何故か眼が冴えてしまってなかなか眠れず、デニスは彼の頭をずっと撫でていた。
 いつも見ているものだけれど、彼の寝顔は見ていて飽きないと改めて思った。


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