Love therapy only for you.


 ユーリの言う「いつもの」とは、所謂オプションのリップサービスだった。ベッドに横たわった彼の身体に、一つ一つキスを施していくのだ。
 オイルを拭き取った彼からはレモングラスのいい香りがする。それを楽しみながら、デニスは薄い皮膚を軽く、音を立てて吸っていく。ただキスをするだけでなく、触れたときの彼の反応を見ながら、強くしたり弱くしたり、的確に突いたりわざと外したりと刺激に波をつける。ユーリはこれが好きらしく、時折身体をビクつかせて息を漏らした。
「ん……っ、はぁ………」
「気持ちいい?」
「ぁ……うん…ん…ぁんっ…!」
「ん、いい声だね…もっと聞かせて…」
 何度か身体を重ねてきたから、ユーリの性感帯はなんとなく解るようになっていた。そこを愛撫することで彼はデニスの思い通りの反応を示してくれる。ツボのようなものだ。
 それはマッサージをする上で強弱をつけるときも役に立った。
 彼のいいところを知ることが、彼自身を知ることに繋がるようだ。肌のコミュニケ―ションとはそういうものなのだろう。
 足先まで身体へ一通り口づけ終わると、デニスの舌はまた身体のラインを辿りながら更にユーリの敏感な場所へと向かう。乳首に辿り着き、くるくると数回円を描くように乳輪を舐めた後、突起を押し上げるように舌を押し付ける。途端に彼は甘い声を上げて腰を浮かせた。
「はっ、はぁっ…あんっ!あ、っあ……そこ…!」
「ここが、なに?」
「あっ、あっ、いい…そこ…そこすき…!」
「ふふっ…ここ、すごく凝ってるね……たくさん解してあげなきゃ」
「あん、んっ!はぁっ、はあ、ぁん…っぁ…!」
 今度はそのままぱくりと乳首を口に含んでしまい、小刻みに吸いながら手で陰茎を扱き始めた。オイルを足して自慢の指先を竿に絡め、先走りと混ぜて伸ばしながら撫でていく。ユーリの好きな亀頭の窪んだところや裏筋を摘まむように撫でてやると、ひっきりなしに声と身体を震わせた。
 デニスの解すような手つきとは逆に、乳首もそこもどんどん固くなっていった。ユーリの甘い鳴き声と粘ついた音が癒しの空間を淫靡な色に変えていく。
「あっ、ぁ、でちゃ、でちゃう!もうでる!イくぅ…っ!」
「そろそろかい?イッていいよ…」
 ユーリの声を聞いて、デニスの手つきがマッサージするようなものから射精を促すものに変わった。手のひらで竿を掴み、根元から先端までリズミカルに扱く。ユーリは枕を掴み、あられもなく身体をくねらせた。快感に翻弄され、無意識に抗いながらも堕ちていく様のいやらしさに思わず息を呑む。
「あぁああ!あひっ、あっ、ぁはぁ、ああっ!」
 限界が来たユーリは一際大きな声を上げ、息を詰めて腰を宙に突き上げた。一瞬止まった後、ガクガクと震わせながら精液を腹に飛ばす。
「溜まってたみたいだね。たくさん出たね」
「あぁ……ん…。デニス…」
「ん…」
 快楽の余韻に浸り、ぼんやりと開いた瞳が見上げてくる。その紅く揺蕩う光に背筋をゾクリと震わせ、デニスはユーリの唇にかぶりついた。
 彼の紅い光を見た時から、デニスは獣になった。獲物に食らいつくように唇の隙間から舌を捩じ込んで、柔らかい舌や口内を蹂躙していく。
 ああ。デニスは弱い。人に癒しを与えるセラピストという名も、所詮は唯の仮面に過ぎないのだ。彼の痴態を前にすればそれも、いとも容易く剥ぎ取られてしまう。すぐに本能が剥き出しになる。本当はユーリを癒し、最高の快楽を与えながら抱いてやりたいのに。つくづく己の理性は脆い。
 そんな自分に言い訳をするように、自分の頬をユーリの胸に擦りつける。
「ユーリのエッチな姿見てたら、僕も興奮しちゃった……ホントに止まれなくなるけど…いい?」
「いいって…っはぁ……言ってる、でしょ……デニス、ほら早く…」
 ユーリは短い息を吐きながらそう言うと、もう待ちきれないというように自ら脚を開いた。緩くまた勃ち始めている陰茎も、薄紅に染まり呼吸するようにヒクつく孔もよく見えて、その扇情的な姿に頭がクラクラした。
 そうそうないことだ。プライドの高い彼が自ら、自分を羞恥に晒すことなんて。それだけ彼も切羽詰まっているのかもしれない。獣であるデニスの本能は、彼が肯定してくれる。
 彼に飛びつきたい衝動をなんとか抑えて、デニスは開かれたそこにゆっくり顔を近づけた。孔の周りのぷっくり膨れた部分を一周、円を描くように舐めて、孔の中へ中指を入れていく。久しぶりに触るが、マッサージで身体全体が感じやすくなっているおかげで、そこは易々と指を呑み込んだ。付け根まで入れるとゆっくり出し入れし、中に指を馴染ませていく。
 商品である指先をこんなところに入れるだなんて、普通では到底考えられないことだった。恋人限定、だからこそだ。彼が短く息を吐きながら自分を受け入れていると思うと、獰猛な心が段々穏やかになっていった。
 後に残るのは愛しさだけだ。無性に彼が愛しく感じた。頭のてっぺんから爪先まで、彼の全てが愛おしい。彼の全てを愛してあげたい。全てを解して無上の快楽をあげたい。
 そう純粋な愛情を感じる一方で、彼がそれで自分から離れられなくなるならもっといいとも思った。
 デニスは柔くなったそこにもう一本指を潜り込ませた。
「はぁ…あぁん……あっ…!」
「そう、息を吐いて……どう?もう二本入ったよ…。ここ、こう押すと気持ちいい?」
「お…お腹の、奥っ…じわじわして…ゾクゾク、するっ…あっ!そこ、そこ…!きもちい……入口も…すれて…!」
「ああ…こんなに腰揺らして、先走り垂らして、とってもエッチだよ、ユーリ…。ねぇ、そろそろ入れてもいいかな?」
 潤んだ眼を見詰めながら問いかけると、ユーリはこくこくと首を縦に振った。
「早く……欲しい!中、もっと…ほしいよぉ…。大きいのが、欲しくて切ないんだよ…ねぇ、いれてよぉ…!」
 好きな相手にここまで言われて、理性を保てる男がいるのだろうか。
 少なくともデニスには無理だった。いじらしく自分を求めてくる彼を目の当たりにして、頭の奥で何かがプツンと切れるような音を聞いた。
 指を孔から抜き、寝台に乗り上がる。前を寛げると自分のそそり勃ったそれが待ちわびたように飛び出してきた。
 もうすでに何もしなくとも挿れられるくらい準備ができていた。デニスは自分の我慢の利かなさを苦笑して、先端を軽く擦りながらユーリに覆い被さる。
「はぁっ、は…ユーリ……はっ……」
「んっ……ん…」
 互いのものを擦り合わせるよう腰を動かしながら唇同士を合わせ、食んで吸い、ねっとりと舌を絡め合った。彼の腕が背中に回る。すがるようなその腕の動きに思わずきゅっと胸が疼いて、更に深く口づける。
 繋がりたい。その想いが欲望を加速させる。
「入れるよ……」
 起き上がってユーリの脚を開き、擦り合わせていた陰茎を後ろの孔に宛がう。小さな孔が広がってデニスを迎えてくれた。進んでいくと中の狭い小路がきゅうきゅうと切なく締め付けてくる。
「はっ…はぁ…はぁ…あぁ…ん……」
「ふっ……はぁ、はぁっ……久しぶり、っ、だから……はぁ、……よく締まってる……痛くないかい?」
「へいき……だよっ…!動いて…」
「んっ…じゃあ動くよ……!」
 ユーリに声をかけて、デニスは徐々に動き始めた。半分程まで入った辺りで腰を引き、抜けそうなところで再び腰を進める。最初はゆっくり、そして段々彼の力が尻から抜けてくるのがわかると、動きを速めていった。
「あ……あっ、あっ、あぁ…あ!」
 デニスが動く度、ユーリは身体を浮かし、吐息と言葉にならない嬌声を混ぜて啼いた。またその様子が堪らなく愛しくて、頬や首筋にキスをする。唇にもキスをしたいが、甘い声も聞いていたい。鼻から抜けるような彼の声は昂ったデニスの身体を更なる快感で痺れさせた。
 ふと抱き締めたくなって、デニスはユーリの背中に手を入れて身体を起こさせた。繋がったまま、彼はデニスの膝に股がって座る。息が上がって薄く開いた唇に軽くキスして、しっとり汗ばんだ背中を撫でた。
「今日は素直に甘えてくれるの、久しぶりだから…?」
 顔にかかった髪をすき、ユーリの頬を両手で包んで潤んだ紅い瞳を見つめた。彼は、小さく頷いて眼を閉じた。彼も同じ気持ちだったのだとまた嬉しくなったが、彼はそれだけで留まらなかった。はぁ、と息を吐いた後、デニスの両手を振り切って抱きついてきたのだ。
「寂しかった」
 ぽつりと一言、彼は聞こえるか聞こえないくらいかの小さな声で言った。
 途端に、何かがデニスの身体の奥から込み上げてきて、手足が痺れた。ああ…と自然に吐息が零れる。涙が出てきそうにすらなった。ユーリは決して素直と言える人ではなかった。そして、彼は一人で何でもできるから、滅多に弱音を吐くこともなかった。
 その彼が、寂しい、だなんて。自分と会えなかったことを、そう思っていただなんて。それほどまでに、彼の中を自分が占めているなんて。
 この心の奥から来る波を愛おしさ以外になんと表現すればいいのだろう!
 流れ出る衝動のままにデニスはユーリの身体を掻き抱いた。身体が密着して繋がりが深くなり、彼が呻く。
「っぅ、あ…!いきなりっ、動くなっ…!」
「だって…ユーリが可愛いから…。会えなかった分、今日はたくさん愛してあげる。ねぇ、ユーリ…キスして?」
 デニスが顔を傾けて強請ると、ユーリは少し戸惑ったように口をもごもごと動かしたが、素直にキスをくれた。
 舌を入れてデニスの口内を愛撫しながら、ゆるゆると彼が腰を動かす。甘い吐息と、唾液を交換する音と、粘膜の中で陰茎が擦れる音と、その三つの音で世界が満たされる。気持ちがいい。
 繋がっているところが熱を孕んで、擦れて、ゾクゾクと背筋を快感が這い上がる。同時に、身体の奥からまた新たな衝動がデニスの中を突き上げた。
「ユーリ…!」
 一声吼えて、再びユーリを腕に抱いたまま押し倒した。ギシリと寝台が悲鳴を上げる。彼からくぐもった喘ぎが聞こえたが、構わずそれを塞ぐように唇を奪う。
「あ、んんっ…、ふ…」
「ユーリ…ダメだ…僕、もうダメ…。ねぇ、イッてもいい?君の中に、出してもいい?」
「っ、…!僕の中で、イッて…!」
 切なそうな声でユーリが囁き、脚が腰に絡んだ。デニスは彼の腰を支えて固定し、動き始める。部屋の中に肉がぶつかる音が響くほど激しく腰を振り、奥まったところを突く。
 今しているのは本能に従った行為だ。再びデニスは腰を振るだけの獣に成り果てている。彼を愛しみ快楽を与える、その線を超えて雄が相手を孕ませる為、彼を支配する為に動いている。理性などとうに振り切れてしまっていた。ユーリの甘美な叫びも艶めいた身体も、赤いフィルターがかかって上手く見えない。絶頂までひたすら動くことしか考えられなかった。
 彼の身体は、存在は、度々デニスをそういった危険な思考にさせる。この一瞬だけは、自分がどういう人間か、どういう立場か、何もかも忘れて、ただ目の前の存在を貪る為だけに腰を振り続ける。
 彼を愛しているから。
「はぁ、はあ、あっ!っ、ユーリ…愛してる…ぁっ、love you…っ、はぁ…ユーリ、I love you…!」
「あぁん…!あ、あっ…!はぁ、はぁ、あぁっ、あっ…!デニス、デニス…!あ、くる…!あっ、きちゃう、きちゃう!あぁっ、あああぁ!」
「あ、っ!僕も…!あぁ、あぁあっ!あっ!っは、ぁ…!」
 ユーリの中がぎゅうっと締まり、腰が魚のように跳ねた。デニスも彼の唇を貪りながら、締まってくる中を掻き分けて、意識の上り詰めるままに腰を振る。昇るに従ってぎゅっと意識が狭まり、目の前が白くなって弾けた。中に埋めた陰茎から熱が迸り、射精したのだと一拍遅れて気づいた。全て出し切ると身体が一気に脱力する。デニスは腰の動きを止め、ユーリから唇を離した。
 赤くかかっていたフィルターはもう、跡形もなくなっていた。目の前には、眼を閉じて息を乱したユーリがいる。デニスは彼の頬を撫でた。
「はぁ、はぁ、はぁ…ユーリ……っはぁ…大丈夫かい…?」
「はぁ…はぁ……っ…もう…がっつきすぎだよ……」
「っふ…ははっ……久しぶりだから、ついがっついちゃったね……でも、ユーリもとっても良さそうな顔してたよ……どうだった?」
「ん……よかった…」
 クスリと顔を見合わせて笑い、二人は互いの頬や唇に軽いキスを贈り合った。
 激しい熱に包まれていた空間は、二人の動悸が収まるにつれ穏やかな暖かさに変わる。解放感と満足感、そして目の前の存在への確かな愛情が心を満たして幸せな気持ちにさせた。絶頂を迎えた後のこの穏やかさが、デニスは好きだった。きっとユーリも同じ気持ちだろう。キスをする彼の表情は緩んでいる。
 デニスは彼の中から陰茎を抜き、寝台から降りた。オイルやら汗やらそのほかの体液やらで、シーツはぐっしょり濡れてしまっている。寝台の周りもだった。明日が休みだから幸いだが、この後の掃除のことを考えて額を手で押さえる。
「はぁ、掃除は明日にしようか…。ユーリ、今日は泊まるかい?」
「当たり前でしょ。明日授業は昼からだし、朝ゆっくりできるからね。雨も降ってるし。それに…」
「ん…?」
「今日はこれだけで終わる、なんて言わないよねぇ?」
 ユーリが身を起こして、ペロリと唇を舐め上げる。彼の紅い眼は再び情欲の炎が灯ってギラついていた。それを感じ取ってデニスもにっこりと笑みを作る。
「勿論さ。今日はたくさん愛してあげる予定だからね。恋人限定メニューはまだまだこれからだよ。じゃあ続きは、僕の部屋へ行こうか……」
 裸のユーリにブランケットを羽織らせ、横抱きに抱えあげた。そうするのが自然のことのように彼の腕が回る。そのまま部屋を出てパチリと電気を消し、扉を閉めた。
 時間はまだ充分にある。彼が心満たされるまで、何度でも最高の癒しと快楽をあげよう。
 恋人限定メニューに時間制限はないのだから。

 

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