traveling!


「この格好…なんだか歩きづらいな」

「こういうものだ…なかなか、似合ってるんじゃないか」

 風呂から出て、二人は旅館の浴衣に身を包んでいた。ミザエルの浴衣はカイトが着せてやったものだ。彼女の浴衣姿を見てみたいと思っていたものの、祭りなどの行事を逃していたカイトには都合が良かった。市販のもののように洒落たものではないが、風流のある絵柄だ。動きが制限されるためミザエルは余り好んでいる様子ではなかったのだが。
 風呂から上がると部屋には既に、二人分の夕食が用意されていた。天城家でもこういう食事はそうそうでない。ミザエルを見ると予想通り、眼を輝かせていた。

「すごい…魚がたくさん並んでいるな」

「海辺近くの旅館だからな、海の幸を中心とした食事のようだ。鍋は熱いから気をつけろ」

「早く食べようカイト。お腹が空いたぞ!」

 ミザエルに手を引かれて共に食卓につく。彼女は一口刺身を口に入れるや否や、美味い、と顔を綻ばせた。その様子に思わずカイトも笑みを零し、刺身に箸を伸ばした。
 赤身を一切れ口に運んで噛み締める。美味い。滑らかな身が舌に心地良く、それでいて新鮮らしい弾力がある。醤油との相性も良く、身を噛む毎に旨みが口の中に広がる。カイトはあまり多く食べない方であったが、新鮮な海の幸は留まることを知らず箸を進ませた。

「カイト、ほら」

 突如呼ばれてカイトは顔を上げる。ミザエルを見ると、刺身を一切れ挟んだ箸をこちらの方に差し出していた。彼女が差し出しているものはカイトの膳にあるものと同じものだ。同じものを食べているだろう、と言おうとしたがつと、言葉が出る前にカイトは口を噤んだ。
 挟まれている刺身が、食事の内容が同じであることはこの場においては関係ない。彼女が差し出している箸を受ける、その行為に意味があるのだ。

「ああ」

 カイトは口で、その刺身を受け取った。その様子にミザエルは嬉しそうにふふっ、と声を漏らして笑う。先に自分の膳から食べたものと全く同じものだったが、何となくそれよりも美味いと思うのは気のせいだろうか。

「ほら、お前も」

 今度はカイトのほうから彼女と同じように天ぷらを差し出した。その行為の意味を悟った彼女は頬を僅かに染めながらもあ、と口を開いてぱくりとそれを受け取る。勿論この天ぷらも、彼女の膳にあるものと同じものだ。それでもミザエルはこっちの方が美味いな、とはにかんだ。

 食事が終わった後、先程までは気づかなかったが、ふと膳の傍らに徳利と猪口が乗った盆が置かれているのが目に入った。もしや、と思い盆を引き寄せて徳利を嗅いでみると、カイトの予想違わず中身は酒のようであった。果たしてどうするか、と苦笑する。年齢を伝えていなかったためどうやらカイトが成人しているものと思われていたらしい。

「カイト、それは何だ?」

 徳利片手に思案をしていると食事を終えて隣に来ていたミザエルがそれに興味を向けてきた。

「酒だ」

「酒?」

「大人の飲み物、と言ったところだな。お前には少し早い」

「むっ、お前が一人で飲むのか?狡いぞ」

 案の定、ミザエルはむっと頬を膨らませた。彼女は多分、酒がどういうものかというのを知らない。カイトが持っている、自分の知らないものだから興味を示しているのだ。

「さあ、どうするかな」

 カイト自身も、これをどうするかは考えあぐねていた。まだ成人していないという自戒に対し、背徳への興味がカイトを甘く誘惑する。カイトは全く酒が飲めないというわけではなかった。父やクリスに付き合わされて少しばかり飲んだことはある。そんなに飲むこともないが、付け合わせ程度に置かれているこれくらいの量ならば飲めないこともないかも知れない。
 今は折角の休みだしな、というふと脳裏に浮かんだ考えが結論を後押しした。

「折角だから飲むことにするか。お前も少し飲んでみるか」

 徳利を少し振って見せてやればミザエルはいいのか?と眼を輝かせてきた。彼女がもしも犬の類いの動物であれば尻尾を狂うほどに振っていることであろう。とりあえず徳利を差し出し、匂いを嗅がせてみる。

「?何だ…変な匂い……」

「とりあえず飲んで見ればわかるだろう。まずは俺が飲む」

 カイトは猪口に酒を注ぎ、くいっと一口飲み干した。口内に広がる甘味と共に、喉につんと熱く焼けるようなアルコールを感じる。
 酒の良し悪しがわかるほど肥えた舌ではないが、単純に甘くて美味いと感じた。これならばミザエルも飲めるだろう。もう一杯注ぎ、今度はミザエルに差し出す。

「なかなか、だな。お前も飲んでみろ。ただ一気に飲むと悪酔いするからゆっくり飲め」

「ん」

 ミザエルは猪口を受け取り、口元で傾けた。アルコールで舌が痺れるのか、顔を少し顰めながら少しずつ舐めるように飲んでいく。

「どうだ」

「甘い、けどなんだか鼻がつんとするような…舌が痺れるような……」

「それが酒というものだ。美味いか?」

「わからない」

「もう一杯飲むか?」

「ああ……」

 猪口に酒を注ぎ、二人で飲んでしまえばあっという間に徳利の中は空になってしまった。カイトは身体が火照り、心地のよい気分を味わっていた。普段気難しく考えている頭から諸々のことが抜けていくような、そんな浮わついた思考だ。
 なんとなく傍らのミザエルを抱き締めたいと思い手を伸ばして腰に回すと彼女は驚いたように首をこちらに向けた。カイト自身でさえ普段とらないような行動に内心驚いているのだから無理もない。どうやら久しぶりの休日で常に引き締まっていた気が大分緩まっているようだ。

「カイト、どうしたんだ?今日はやけに…甘えてくるな」

「今は気分がいいんだ。お前とはしばらくこういうことが出来なかった。……寂しかったんだ」

「カイト」

「すまなかったな、ミザエル」

「っ……」

 くしゃりと表情が歪んだかと思うとミザエルはカイトの首に腕を伸ばして抱きついた。表情は見えないが泣いているのだろうということは微かに耳元で聞こえる息を殺したような嗚咽から想像できた。カイトはただ、しっとりと流れるような金糸をすくように頭を撫でる。
 暫くの静寂の後、小さくくぐもった声がカイトの耳元に届いた。

「寂しかった……」

「ああ。すまない」

「ずっと会いたかった」

「すまなかった」

「でももう、いい。お前は今日、私に最高の時間をくれたから。許してやる」

「それはよかった。だがまだ旅は始まったばかりだぞ」

「…そうだったな」

 パッと抱擁が解かれて目に飛び込んできたのは、頬をほんのりと染めたミザエルの得意気な笑みだった。自信に満ち、躍動する彼女の心をそのまま表したような笑顔。カイトが好きな顔の一つだ。
 その頬を愛おし気に撫でながらカイトはふと気になっていたことを彼女に尋ねた。

「…月を見ながら、何を考えていた?」

「……お前と出会った時のことだ。それから、月で戦った時のこと」

「懐かしいな。もう1年前の話か」

「お前と出会ったから、私は今ここにいるのだと思う。お前があの時、救ってくれたから。過去を含めて私のことを理解してくれたから。感謝している。……だが時々、お前のあの時の顔を思い出す。再び眼を開けることのない、冷たい表情。それを、私がーー」

「ミザエル」

 語るにつれ、ミザエルの顔が曇り視線は徐々にカイトから外れていった。美しい空の色をした瞳はゆらゆらと揺れている。ミザエルはまだ拭いきれていないのだ。月での彼女との激闘の末にカイトが命を落としたことを。カイトを死に追いやったことへの罪悪感と後ろめたさを。
 頬に添えた手に少し力を入れ、カイトは彼女を自分の方へと向かせてその瞳を覗き込んだ。

「悔いるな。お前はお前の意志で道を歩んだからここにいる。俺が一度でもそれを恨んだりしたことがあったか?」

 あれは二人とも命もプライドも全てを懸けた戦いだったのだ。あの時カイトは確かに何も、思い残すことはなかった。銀河眼使いとしての雌雄を決し、何よりも…ミザエルを運命の呪縛から救うことが出来たのだ。
 今彼女とこうしていられるのは、あの戦いがあったからこそ。それに感謝こそすれ、恨む心などカイトには微塵もなかった。

「忘れろとは言わない。だが、余計な心配はするな。再び生を受けた時、俺は決めた。言っただろう。これから先、お前と共に生きると。俺はもう、そう簡単には死にはしないさ」

「ったく…そう言うなら、少しは自分の身体を労ってやれ。お前は無理をしがちだから……」

「心配してくれているのか、ありがとう」

「っ……私が、困るからな。私を置いて勝手に死ぬことなど、許さない」

 珍しく神妙な顔でカイトの身体を心配したかと思えば、すぐさまプイッと顔を逸らした。しかし先程の不安の色は消え、代わりに頬に赤みが差している。まったく、可愛いげのない物言いではあるがそこも彼女の可愛いところだ。

「ミザエル」

 緩みっぱなしの口元はそのままに彼女を呼ぶ。ミザエルは期待通りに頬を紅潮させ口元を結んだまま振り向いた。薄いけれど程よく潤って艶のあるその唇を親指でなぞる。擽ったそうに、しかし満更でもないようにミザエルはふっと息を吐いて笑った。
 そのまま唇を撫でていた指を顎へと運んで少し持ち上げればこれからの行動を察し、また期待するかのように彼女の眼が閉じられる。顔が近づくにつれ鼻を擽るのは湯の残り香と少しばかりの酒の匂い。それはひどくカイトを酔わせた。

「っ、ん…」

 今日はこれで何度目の口づけになるだろうか。ふと浮かんだ思考は彼女の唇を貪るうち、脳の外へと追いやられる。何度重ねても、何度吸っても飽きることのない唇。むしろ重ねる程にもっと欲しくなる。口づけだけではなく、もっと奥深くまで。

「ミザエル…いいか」

「ん、うんっ…して、くれ…カイト……身体、熱い…」

 酒で体温が上がっているのか、とろりと蕩けた表情でミザエルが訴えてきた。その表情にぞくりと背中に何かが走るのを感じ、カイトは再び深く口づけた。身体をまさぐり、布越しに感じる肌の柔らかな感触を堪能しながら口づけを深めてゆく。時折唇の隙間からミザエルの息が漏れ、それがまたカイトの雄を刺激していった。
 浴衣の裾を割り、カイトの手が股へと忍び込む。何も纏っていないうっすらと柔らかい茂みに隠れたそこは既に濡れていて、ゆっくりとなぞる指に雫を零してゆく。

「もう濡れているな…?」

「っ、だって……んっ…!カイトが、さ、触るからっ…!」

「期待しているんだろう。この先、どうされたい」

「んぅっ…あぁっ…あ、ん…」

「ミザエル」

「さ、触って…ちゃんと触って…」

「それから?」

 カイトは意地悪く息を吹きかけながら耳の裏を舐め、布越しに小さな胸に手を這わせた。布の上からでもわかる程に固く立ち、指が引っ掛かるそれにわざと軽く爪を立てる。緩やかな刺激に悶え、ミザエルは息を詰めながら身体を揺らした。
 この期に及んで問答など意味もないこと。それでもミザエルの恥じらう姿が可愛らしく、なんとも形容しがたい嗜虐めいた心が言葉となって彼女を煽る。しかし同じように彼女が身を捩り息と啼き声を漏らす様もまたカイトを煽るのだった。

「ここ…どうされたい。そのまま言うといい」

「ひっ…うぅ、カイト、が……欲しいっ…カイトの、ここに…入れて……お願いっ…」
 
 ミザエルは自ら浴衣の裾を捲くり上げ、カイトが撫でていた秘処を指で開いた。中から現れた膣口にそっと指を宛がうとヒクヒクと収縮しているのがわかる。カイトの回帰を待つミザエルの心中が現れているかのようだ。否、そこだけではない。彼女は全身でそれを望んでいる。羞恥と期待に潤んだ瞳がカイトを見上げていた。

「ミザエル…」

 堪らずカイトは並べた座布団の上にミザエルを押し倒した。風呂で愛撫したときと同じように、濡れた秘処にしゃぶりつく。吐く息も荒く、秘処をしとどに濡らして尚溢れ続ける愛液を、音を立てて吸い上げる。カイトはこの瞬間だけ知能を無くした獣のようになっていた。
 何度この眼に、彼女の姿に理性を奪われれば気が済むのか。ミザエルの望みはカイトの望みでもあった。ようやく、再び彼女と一つになれる。痴態を存分に見せ付けられそんな望みを前にすれば、いかにカイトの強固な理性といえども塵にも等しいものであった。
 カイトは一通り秘処を愛撫して中を弄るのもそこそこに、すっかり勃起してしまった自分自身の陰茎を浴衣の裾から取り出して軽く扱いた。ミザエルの身体を気遣い挿入時は必ずコンドームを着用するのが常であったが、今はそんな余裕すらもない。

「っ、ミザエル……いいか、このまま…。もう、我慢できない」

「構わない…構わない、っからぁ…はやく…!」

 ミザエルの潤んだ瞳が更に細められ、一筋涙が頬を伝った。
 脈打つ陰茎を、自分と同じように脈動する彼女の秘処に押し当ててカイトは熱い息を吐いた。そのまま覆い被さって鼓動が一つになるようにぴったりと身体を重ね、腰を押し進めていく。

「あぅっ、あぁっ…あぁーっ!!」

 耳元で高い声が聞こえたかと思うと、抱き締めた身体が大きく跳ねた。声が途切れた後短い息と共にビクビクと震えている様子から、どうやら達したようであった。

「大丈夫か」

 身体を少し離し、紅潮した頬を撫でながらカイトはミザエルに声を掛けた。彼女は眼を閉じて苦しそうに肩で息をしていたが、カイトの声を聞くとそのままコクコクと首を縦に振った。

「大丈夫…っはぁ、…はあ…うごいて、くれ……」 

 だが…と、言いかけた言葉は彼女の口の中で途切れた。顔を引き寄せられ、そのまま口付けられたのだ。それに煽られ、雄の本能と彼女を気遣う理性との間で揺れていたカイトは一気に振り切れた。
 隔てるものが何もない生々しい交わりはひどく熱い熱をもってカイトを包んだ。柔らかい肉壁が一番敏感な部分を刺激し、搾り取ろうと蠢く。入り口近くの腹側、一番弱い部分を押し上げるように擦ってやるとミザエルは泣きながら嫌々と首を振った。

「いやっ…そこ、あああっ!!!そこ、だめ、だめっ…!んぁ、あっ!カイトっ、あぁっ…!」

「嫌、じゃないだろう…?」

「だめ、だって……本当にっ…また、イッちゃう、からぁ…!あ、あっ…イく…いっ…」

「ミザエル…ミザエルっ…すき、だ…」

「っ…カイト……!」

 カイトが絶頂に追い立てられる間に、ミザエルは何度も達し身体を震わせた。その度にカイトの腕に爪を立てては膣をきゅうきゅうと締め付ける。幸せな痛みだった。途方もなく、幸せだった。
 何度も何かを失いそうになってきたからこそわかる。愛する人と言葉を紡ぎ、この手に抱き締められることがどれほど幸せであるかということが。
 そっと、ミザエルの手がカイトの頬に伸びた。それに気づいてはたと動きを止める。彼女の名を呼ぶ前に目元を指で拭われ、ピッと僅かな雫が飛んだ。

「っ、泣くな、カイト…私は、こんなにも……幸せだというのに…」

「…幸せだからこそ、涙が出るんだ」

「そういう、ものなのか…?人間とは…面倒だな……」

「そういうお前も、さっきから泣いてるじゃないか…」

「これはっ…何故だか知らんが勝手に出るんだ…!」

 瞳は潤んだままぷくっと頬を膨らませるのが可愛らしい。カイトが堪えきれずにぷっと吹き出すとミザエルもつられて笑った。一頻り笑い、少し疲れたところで再び唇を重ねる。軽く唇を吸い合っていたものから徐々に舌を絡ませ、深めてゆく。
 再びカイトは動き始めた。今度は奥をめがけて根元まで入れ、大きく膣内を引き摺る。くぐもった断続的な声と甘い吐息がカイトの口の中に響く。情熱を高められ、カイトは更にミザエルの脚を大きく広げて律動を速めていった。

「っは、ミザエル…はあ…そろそろっ…イきそうだ…」

「んんっ!う、あっ…はぁ、はあっ…私も…あぁっ…!」

 一瞬、このままミザエルの中に出したいと、そんな考えが頭によぎった。
 大量の精子が今カイトの中で解放を待ち、ぐるぐると動いて脈動しているのがわかる。このまま中へ出せばほぼ確実に、ミザエルはその身にカイトの子供を孕むだろう。そうすればミザエルは確実にカイトのものになる。彼女の人生は、カイトのものになる。

(これから先、もっと苦労するだろう。特に、家庭を持った時にな)

 クリスの言葉が頭によぎる。

「っ、はぁ…はあっ…う、カイトっ…」

「っ……」

 カイトは眼を閉じて、一心に腰を振った。ミザエルの高い嬌声が聴覚の外で聞こえる。腕に爪が立てられる。構わず、痛みに眉を顰めながら強く中を穿つ。何も考えず、ただ譫言のように彼女の名前を呼んだ。
 そしてついに限界まで上り詰めた。小さく呻いて動きを止めると共に、カイトはミザエルの身体から腰を引いた。

「はぁ、はぁ、…はぁ…」

 射精の余韻に浸り、徐々に呼吸を落ち着かせていく。うっすらと眼を開けると白く霞掛かった視界に彼女の身体が映し出された。
 そして直後、視界に入ってきたのは浴衣のはだけた胸に残る、白濁の痕。それに一つ息を吐き、カイトは傍らのティッシュを数枚取って汗と共に拭き取っていく。

「痛くなかったか」

「平気だ…気持ちよかったぞ」

「ん、そうか…よかった」

「浴衣、せっかく着たのにぐちゃぐちゃだな。私もお前も」

「そうだな…。もう一回風呂に入るか」

「うん。なあ、カイト」

「ん?」

「ありがとう…私も好き…」

 消えるような声だったがそれはしっかりと耳に届き、小さな疼きをカイトの胸に走らせた。少しだけ、先程の選択肢を…彼女を孕ませる考えを捨てたことを後悔している自分に気づき、一人苦笑する。どうした?と彼女が不思議そうな顔をするのを、カイトは唇で塞いで気を逸らせた。
 今はまだ彼女を守り尽くし生命を育むには、カイトでは役不足だ。しかしいつかきっと、そんな時が来れば。そんな未来を思い描きながらカイトは眼を閉じた。
 ミザエルは嬉しそうにころころと笑いながらカイトの唇を受けていた。


 二人して風呂に入り直した後、敷かれた一つの布団で横になった。様々な体液で汚れてしまった浴衣はもう使い物にならず、二人共揃って裸のままだ。しかし少し冷え始めた身体には互いの肌の温もりが心地よく感じた。
 なんとなく投げ出されているミザエルの手にカイトは自分のそれを重ねる。これといって会話はなく、静かな時間が穏やかに流れていく。この時がずっと続けばいいのにと、カイトと同じことを彼女もきっと思っているのだろう。握られた手の柔らかな温もりと感触がそれを物語っていた。

「明日はどこへ行きたい」

「そうだな……」

 二人の旅は、まだ始まったばかりだ。

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