マーメイド・シャーク/後



 初めて身体を重ねたあの時よりも、ドルべは丁寧だった。指で、舌で、言葉で、ナッシュの身体を愛撫していく。性感帯も、そうでない所も、髪の毛一本一本から爪先までくまなく愛撫が行き渡る。ナッシュもそれに感じて身体を捩り、彼の愛撫を求めた。
 ナッシュが人として居られない以上、身体を重ねることももうないだろう。これが最後かもしれない。そう思うと、この行為と時間を無駄にできなかった。

「君のその美しい心に触れて、私の心も浄化されてゆくようだ。初めて会った時から君は綺麗だと思っていたが、今日は殊更綺麗に思える。こんな綺麗な君を愛して触れられるなんて、私は幸せだ」

 指を口に含んで舐めながら、ドルベは感嘆したように言った。彼の瞳はうっとりと素晴らしい芸術品を見るようにナッシュを熱っぽく見つめている。その眼に心まで抱かれているような気がして、ふるりと震えた。恥ずかしさから紅く染まる顔を腕で隠しながら、腰を揺らす。

「はぁ…はぁ、…っ…ふぅ……」

「ナッシュ……ああ、綺麗だ。君は、こんなにも綺麗だ…」

 彼はナッシュの耳に囁きながら、性器の下の孔へと指を伸ばした。そこは、まだ傷が残っている。入口付近を撫でられる感覚に、無意識に身体を強張らせた。

「まだ痛いか?」

 尋ねられて首を振ったが、強がりに過ぎない。それが伝わってしまったようで、彼は辛そうに顔を歪め、ナッシュを抱き締めた。散々慣らされた所であるといえど、きっと異物が入ると再び切れてしまうだろう。

「すまない。気持ちを落ち着かせてくれ。今の私は君を抱きたくて気が狂いそうなんだ。君を傷つけると、わかっていながら…」

(それでもいい)

 ナッシュは腕を上げた。鎖で繋がれた腕を首に通すようにして彼の背中に回し、ぎゅっと力を込めて胸をくっつける。首を上げて、近くなった唇に一つ口付けた。

 だ い て く れ

 ナッシュはゆっくりと口を開いて、息を震わせて音が伴わない言葉を紡いだ。

「…いいのか?」

 言葉が伝わったようで、彼は少し驚いた顔をしながらナッシュに尋ねた。
 痛みなど、どうでもいい。気にしない。いや、痛みごと、受け入れる……。その思いを秘めて伝えるように彼の言葉に頷いてすり、と頬擦りをする。欲しいのだ、彼の熱が。それが痛みを伴おうとも、苦しくても。欲しくて欲しくて、仕方がなかった。

「ありがとう。では一度慣らすから…解いてくれないか?」

 瞼と唇に口付けられて腕を退かすと、ドルベはナッシュの脚を開いて指を唾液で湿らし、再び孔を撫でた。人差し指が、中へと侵入する。

「っ……!」

 ズキン、と痛みが疾り、ナッシュは歯を食い縛った。指が入口を擦れる度に、鋭い痛覚が頭に刺さる。眼を閉じて、ドルベの腕を掴む。

「ナッシュ…!すまない…」

 謝りながら、彼もナッシュと同じように苦しそうな顔をして中を解していった。醜い感情を持ちながらも、やっぱりドルベは誠実で綺麗な人間だ。自分を気遣ってくれる彼が嬉しくて、気丈に微笑む。トントン、と彼の肩を叩いて呼び、口付けを強請った。

「ん、……」

 音を立てて唇と舌を吸い合う。口付けながらドルベはナッシュの孔を解し、ナッシュは二人分性器を重ねて両手で扱いた。

「っ、あ……ナッシュ……入れていいか…」

(いい……入れてくれ)

 コクコクと頷くとドルベは少し性急な動きで指を抜き、性器を孔に宛がった。 少しずつ性器が埋め込まれていく感覚に、思わず眼を閉じて息を詰める。

「っ……!」

 そこに感じたのは熱と鋭い痛み。そして、歓喜だった。今度こそ、彼に抱かれている。独り善がりではなく、愛し合っている。ナッシュの目尻から涙が零れ落ちた。

「大丈夫かっ…?」

 全て入り、再び眼を開けると彼の心配そうな顔が目に入った。先程と同じように口を動かして動いて、と強請る。それを見て彼は頷き、腰を動かし始めた。

「っ……!はぁ…はぁ、はっ…」

「はぁ、……ナッシュ……うっ…」

 痛い。彼が動く度に傷が擦れて痛みがナッシュを刺す。もしかするとまた、血が出ているかもしれない。それでも懸命に耐え、脂汗を浮かしながら気丈に微笑んだ。彼を受け入れるなら痛みすら宝だ。こうして痛みを感じながら抱かれれば、きっとこの最後の交わりを忘れることはないだろうから。
 しかし身体は正直で、ナッシュの性器は痛みで萎えてしまっている。ドルベはそれに気づいて手を伸ばし、ナッシュの気を紛らわすように擦ってくれた。甘い息が唇か零れる。中の良いところと前を擦られる快感に痛みが包まれてゆく。

「はぁ、はぁ……ナッシュ、……中に出してもいいかい…?」

 ナッシュはそれに応えるように頷き、ドルベの腰に脚を回した。頭上で両手を押さえつけられ、性器と中を擦る動きが速くなる。

「うあ、っく……あぁっ…」

 彼が呻いて動きが止まった。ドクドクとナッシュの中にあるモノが脈打ち、精液が注がれる感覚がする。腹の中で熱が広がるのをぼんやりと感じた。
 中に出し尽くした性器がズルリと抜けて居なくなった。しかしまだナッシュは射精をしていない。腰を揺らすと、彼が股に入り込んで勃起した亀頭に口付けた。

「ありがとう、ナッシュ。こっちで、いかせてあげよう」

 ナッシュの昂りが、彼に呑み込まれてゆく。根元を擦りながら口全体で扱かれ、腰がビクビクと揺れた。ふと彼の方に眼を向けると亀頭を吸う彼と目が合った。そのまま微笑みながら見せつけられるように舌を出して舐められ、快感と共に羞恥が募っていく。

「はあ、はっ……っ、…っはぁ…」

「ナッシュ、気持ちいい?」

 根元と袋を食まれながら言葉を投げ掛けられる。その唇の振動がまた気持ちいい。ナッシュは眉を顰めながら頷いた。
 ただ舌や口の粘膜で擦るのではなく、浮き出た血管一筋一筋まで丁寧に愛撫してくれる。良いところもちゃんと解ってくれて、緩急を付けながら愛撫してくれた。じわりと広がる心地を感じると次はきゅっと強い刺激が走り、ナッシュは彼の愛撫に翻弄されながら段々射精感を募らせる。先程尻に感じた痛みはすっかり快感に包まれてもう感じなくなってしまっていた。

(ん、気持ちいい……っ、そんな風に…されたら……あ、イく…!)

 眉を寄せ、歯を食い縛るようにしてナッシュは彼の口内で果てた。ビクッビクッと腹筋を微かに揺らして、白濁を飛ばす。ドルベは根元を擦りながら白濁を出し尽くし、まるで甘い密を味わうかのようにして飲み込んだ。

(そんな顔で、こんなの飲むな…!ただでさえ恥ずかしいのに…)

「恥ずかしがることはない。これも君の一部だ。今の君は全て私のものなんだから」

 顔を赤らめたナッシュの頭を読んだように応え、彼が抱き締めてきた。そのまま、寝台に横たわる。愛おし気にナッシュの頬や首筋に口付けて来る彼の肩を叩いて、ナッシュは文字を綴った。

『今日はここに居てくれ』

「ナッシュ…」

『お前と寝たい。駄目か?』

「……日が昇るまでなら、私もここに居られる。私も、君の温もりを抱き締めて眠りたいと、ずっと思っていた…。ありがとう、ナッシュ。愛している」

 ナッシュを抱き締める腕に力が籠った。唇に口付けられて、瞳を閉じる。啄むような口付けを繰り返され頭の中に甘い痺れと心地よさが広がっていく。口付けが終わるとそのまま彼の胸に顔を寄せた。心臓の音が耳に届き、焦るナッシュの心を幾分か落ち着かせてくれた。

 やがてナッシュから規則正しい寝息が聞こえてきた。そのあどけない寝顔に再びそっと口付けを贈り、ドルベもまた眼を閉じた。

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