【よかれと思って】ベクターが、してあげるっ!【ドルベ編】


 ドルベは生真面目で、勤勉な性格だ。
 人間世界での生活に慣れ始めてから、彼はスポンジのようにこの世界の知識を吸収した。他の人間達よりも遅れた勉強を取り戻すため勉強に励み、今では彼は元からこの学園に通い中学3年となった生徒よりも成績が良い。その勤勉さと頭の良さには七皇も大いにお世話になっている。
 元々地頭が良いというのもあるが、何より彼は「自主学習」ができる優秀な生徒だった。

「ふ、ん…っ……あぁん…」

「気持ちいいかよ」

「ん、…うんっ…!いい……」

 彼の勤勉さは、こういうところにも現れている。ベクターに「オナニー知らねぇとかありえねぇ!」と一喝された次の日、彼はオナニーというものを自ら学習し、その仕組みを理解した上で的確に自慰で快感を得ることを覚えてきたのだ。
 アナルの方も、あのあと自分で指を入れてみたのか、最初にベクターが指を入れた時よりも比較的すんなりと入るようになった。力を抜くことも覚えたようで、指が折れそうなほどに締め付けられることも少なくなった。

「あっ、あ……あぁっ!そこ、そこ気持ちいい…!」

「コイツもすっかり馴染んじまったなあ」

 彼のアナル開発は順調に進み、数日後にはあまり太くないバイブを入れる所まで可能になった。今まさにドルベはアナルにバイブを入れ、それをベクターに出し入れされながら自分の陰茎を扱き、身を捩って悶えている。確実に、彼は前立腺で感じるようになっていた。

「あぁ、ああ!あ、イく…イくっ!イきそう…!」

「我慢せずイけよ」

「あっ!ああん!あああーっっ!」

 彼が陰茎を擦るのに合わせ、ベクターもバイブの動きを早めた。身体をピンと張って、腰を浮かしながらドルベは射精した。
 目尻に涙を湛え、薄く口を開いて浅く息をしている彼を見ながら、ベクターはバイブを抜いて電源を切る。

「は、はふ……はぁ…」

「ここまで来りゃあ、あと一歩だな」

「ほ、本当か?」

 ドルベの顔がパアッと輝いた。純粋に嬉しい、という顔だ。確実に、自分はナッシュを受け入れることができる身体にランクアップしている。……そんな感情が見て取れる顔だった。
 しかしそんな彼に対し、ベクターもまた、己の身体に異変を感じていた。

「どーする?今日はもうやめとくか?」

「いいや、やる。最後までやる」

 ドルベはきっぱりと言いきった。一回射精したのに、その元気はどこからくるのか。ベクターは頭を抱えたくなった。いっそのこと、「続きはまた明日」と彼が言ってくれればよかったのだ。


 そう

 ベクターは勃起していた。


(嘘だあり得ねぇぇ!!俺はホモじゃねぇんだぞ!!しかもコイツはあの…ドルベだぞ!!?コイツのバリアン態思い出してみろ!!ほら、萎え……あああもう、尻柔らかそうとか尻尾付きのバイブ似合いそうとか考えんじゃねぇよ俺えぇ!!)

 ベクターは困惑した。思考が乱れ、股間は痛くなるばかり。自問自答したところで、張り詰めた股間を隠しようがなかった。先程までのドルベの悶える姿や喘ぎ声を聞いて図らずともベクターが興奮してしまったという事実が、そこにあったのだ。
 「ベクター?」と彼に呼ばれ、思わず視線を逸らした。

「く……最後はな…男のチンコを模して作ったディルドを入れるんだけどよ……」

「ああ、そうか、わかった。なら、それを入れてほしい」

 言っていることは卑猥な筈なのに、彼はどうしてこうも清々しいのだろうか。彼が最初の時のように照れたり恥ずかしがったりすれば、雰囲気に乗じて、といけたのだろうが、こうも清々しいと逆にこちらが恥ずかしくなる。
 ベクターは性欲を持て余したまま、柄にもなく顔を赤らめた。

「どうした?ベクター。早く入れてほしい」

「その、なあ、ドルベ……」

「何だ?」

「俺じゃだめか?」

 場が凍りついた。痛い、痛い沈黙だった。
 ベクターはますます居たたまれなくなった。ドルベが困ったような、疑問を問うような顔で見詰めて来るから余計だ。

「ああ、もう!まどろっこしいから言うよ!勃起してんだよ俺はよ!!てめぇのせいだ!!てめぇがアンアンよがってんの見て興奮しちゃってんの俺は!ホモじゃねぇのに!情けねぇけど、開発したてめぇのケツ穴に入れてみたいと思っちまったんだよ!!」

「そうか、そう言うことか」

 声を荒らげて捲し立てるベクターに対し、ドルベは冷静に言った。そして、少し頬を赤らめた。「脈アリか?」と思ったが、彼から発せられた言葉はベクターの欲望を打ち砕くものだった。

「そうか、君が私を見て興奮してくれるというなら……ナッシュも興奮してくれるかもしれないな。ありがとう、ベクター。お礼に、と言いたい所だが、やっぱり私の初めては、彼にあげたいんだ…」

 そうだ、ドルベは基本的に思考がナッシュに結びついている。そしてナッシュに対しては、驚くほどに乙女思考なのだ。ここまでベクターに開発されておいて、ファーストキスも処女も、ナッシュに捧げたいと思っているのだ。
 ベクターは、苦労して見た目も味付けも最高傑作にできた料理の試食をさせてもらえないまま取り上げられたような、そんな苦しさを覚えた。

 欲望に忠実にいくならば、ここでドルベを押さえてでも開発したアナルに自身の猛った陰茎を突き入れ、蹂躙したいというのが本音だ。
 しかし、ベクターの目的はそこではない。ドルベのアナル開発だ。今ベクターが無理に犯せば、ドルベはセックスに対して恐怖心を植え付けられ、折角開いたアナルはまた元のセックスに使えない排泄器官へと逆戻りだ。ベクターの日々積み上げてきた苦労がパーだ。それこそベクターにとっては痛手だった。
 それに、ドルベの純粋な微笑みを見ているとなんとなく罪悪感に駆られる。昔ならそれすらも嘲笑っていたのに、いつから自分は、こんなに人に対して遠慮してしまう奴になってしまったのだろうか。

「チッ……わかったよ…。ほら、ディルド入れてやるから脚開け」

 舌打ちしかできない自分を情けなく思いながらも、ベクターはバッグから太めのディルドを取り出した。ドルベはすまない、と謝ってマットに倒れた。「そんなに謝るなら断るんじゃねぇよ」と、ベクターは内心毒づく。

「入れんのはディルドだけどよ、俺も気持ちよくならせろ」

「ああ、構わない。私が口でしてやろうか?」

「やだ。ぜってぇやだ!お前フェラ下手そうだし。絶対痛ぇわ。お前の身体借りて勝手にやるから大人しくしてろ」

 ベクターはディルドにローションを塗り込み、ドルベのアナルに当てた。期待からか緊張からか、彼のアナルはヒクヒクと収縮している。ドルベは、異物を入れられる時いつもするように、眼を閉じてはぁー、と深く息を吐いた。
 緊張が緩んだのを見て、ベクターはズルリとアナルにディルドを入れた。流石にバイブよりも大きいらしく、一瞬ドルベの顔が凍りつく。

「コイツでいけりゃ、普通のチンコは入るようになる。耐えろ」

「ん、平気……へいき、だっ……!」

 太い部分が入れば、あとは導かれるように入っていった。ゆっくりと中を突くようにベクターはディルドを擦りながら、ドルベの陰茎を扱く。

「はぁ、ん……おっきぃ…!」

「だろうな。バイブとは全然違ぇし、コイツは一般的な男のイチモツよりデカめに作られてある。段々速くしていくぞ」

「ふっ、は、…あっ、あっ、ああっ!」

 ベクターが中を擦るのに合わせるように、ドルベも喘ぎ始めた。切なく眉を寄せて首を振り、息を吐きながら喘ぐ。AV女優よりも女優の素質がありそうな気がした。その姿に、落ち着いていたベクターの股間も再び熱を持ち始めていた。

「クソッ!貸しだぞてめぇ!」

 ベクターは吼えるとドルベを刺激していた手を止めて自身の前を寛げ、勃起した陰茎を取り出した。まさか、こんなところで自分の愚息と相間見えることになるとは。涙が出そうな程情けないが、 嘆いた所で仕方がない。

「お前も手伝え」

 ドルベの腰に馬乗りになり、二人の陰茎を束ねてドルベの両手をそこに導いた。ディルドでアナルを穿つのを再開しながら、二人分の陰茎を扱く。ドルベもベクターの所作で理解し、共に陰茎を擦った。

「あぁ、あっ!ぅあ…あんっ!ああん…はあっ!」

「くっ…!気持ちよさそーな顔しやがってよぉっ…!」

 ベクターは手を動かしながら、自分の陰茎をドルベの陰茎に擦り付けるように腰を動かした。なかなか無理な体勢を取っており手が釣りそうだが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
 陰茎を擦り、ドルベのアナルにディルドを穿ちながらただ高みに上ることに集中した。

「はう、あぁっ!あっ、あ…、ああん!イく…!ベクター…、あぁん!」

「っく、うっ……」

 先に、ドルベのビクンと震えた陰茎から白濁が飛び出した。その後しばらく擦り続けてベクターが達した。二人分の精液が、ドルベの腹と二人の手を白く汚した。

「はぁ…はぁ……クソ、情けねぇ!男のイチモツで擦ってイくなんて!俺はホモじゃねぇのに!!」

「ベクター」

「何だよ!?」

 ぶわっと身体中を駆け巡る情けなさと悔しさに嘆くベクターに、声がかけられた。振り向くとドルベは先程までの痴態をどこへやってしまったのか、何事もなかったような顔で精液の後始末をしていた。彼は賢者タイムに突入するのが早いようだ。

「さっきの……あんな大きいものを入れられても全く痛くなかった。むしろ、いいところが当たりやすくて、気持ちがよかった…。君のおかげだ。礼を言う。本当にありがとう」

「そうかよ……どういたしまして」

 ドルベは心底嬉しそうにベクターに礼を言った。これで、ベクターの目的は達成だ。ただひとつ、ドルベの尻穴に欲情さえしなければベクターは達成感に包まれていたことだろう。男の尻なんかに欲情してしまったことが悔しく、何とも言えない気持ちになった。
 それでも、これも自分の努力の成果かと思うとなんとなく悪い気はしなかった。



 翌日、朝は家を出る時間が違ったため会わなかったが、偶然ドルベを学校内で見かけた。いつも周りが見えておらずひたすらナッシュの姿を追っている彼だが、今日は殊更ぼーっとしている。脳内お花畑とは、こういう状態を言うのだろう。ベクターは何があったのかを瞬時に察した。なんとまあ、行動力のある奴だ。

「おい」

「っひ!?」

 ベクターが肩を掴んでドルベを振り向かせた。突然のことに彼は変な悲鳴を上げる。これでは、優等生の先輩に絡む怖い後輩のようではないか。
 しかしドルベはベクターの姿を確認してほっと息を吐くといつもの調子に戻った。

「なんだ、ベクターか。…驚かすんじゃない」

「勝手にお前が驚いただけだろ。……で?昨日はお楽しみだったようだなあ?」

 ニヤニヤと聞いてやると、ドルベは目に見えてわかるほどに真っ赤になった。しかもその中で微かに幸せそうな笑みを浮かべるものだから、思わず廊下の壁にその頭をぶつけてやりたい衝動に駆られた。しかし、なんとか堪える。

「昨日は……とても、良かった…。人生で、一番幸せな時間だった…」

「お前の惚気はどーでもいいんだよ。で?尻は?痛くなかったのかよ」

「ああ、全然大丈夫だった。ナッシュが驚いていたよ」

「はっ、そうかよ」

 フン、とベクターは興味なさげに鼻を鳴らした。ドルベの尻の具合を確かめ、開発できていることが確認できればいいのだ。ベクターは他人の情事に、ましてや男同士とあれば尚更興味はない。

「ところでベクター」

「あん?何だよ」

「ナッシュが、だな…。その、アナル、に興味を持ったようなんだ。もしよかったら、彼も開発してやってくれないか」

「はぁ!?」

 ドルベのアナル開発は、ベクターが思った以上に成功してしまったようだ。男の尻穴はもうこりごりだと思う半面、まあ気が向けば暇潰しに相手してやってもいいか、などとベクターは一人ごちた。
 彼の「よかれと思って」なお節介は続くようだ。



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道具の名称間違ってました。恥ずかしい……

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