【よかれと思って】ベクターが、してあげるっ!【ドルベ編】
ドルベは人気のない体育館倉庫でベクターを待った。七皇は今、皆して神代家に住んでいる。人気のない場所で、となるとここの他なかった。
少しして、ベクターが現れた。黒いバッグを引っ提げている。
「待たせちまって悪ぃなあ。準備してたら遅くなった」
「構わない」
ベクターは埃っぽい床にマットを敷き、ドルベを寝かせた。彼は緊張している。肩が張っており、身体はガチガチだ。今の彼では、アナル開発どころではない。とりあえず、肩や腕の辺りを撫でてやる。
「お前、キスは」
「は?」
「ナッシュとキスしたのか?」
「い…いや……」
ドルベはあからさまに顔を赤らめた。この状態だと、キスですらまだらしい。はあ!?と、ベクターは素頓狂な声を上げた。
「おまっ…それもまだなのかよ!?あんだけストーカーとか盗撮とか犯罪染みたことしといて、いざ本人を前にすると何も手出しできねぇとかどんだけ奥手なんだよ!お前ナッシュのパンツ何枚持ってんの!?」
「何故それをお前が…?その情報元もギラグか……?」
「いや、普通にモロバレだから!!」
やはり恋は怖い。本当にドルベは盲目だったらしい。あの、ドルベに謎の絶対的な信頼を置いているミザエルですらも知っていて、尚且つドン引きだったというのに。
キスでもしてやれば気持ちが和らぐだろうと思っての発言だったが、これは予想外だった。
「あー…俺がファーストキス奪っちゃうのはなし?」
「当たり前だ!!」
キスくらいで何をムキになっているのだろう。ドルベは初恋をした乙女のように、キスに対して幻想を抱いているらしかった。恐らく、初めてはナッシュにあげたいのだろう。
「そもそも、なぜ、キ…キスなんか…。その、私の…肛門を作り変えるという過程には必要ないだろう」
「あ?お前何もわかっちゃいねーな。キスってのはなあ、身体を解すためにやるんだよ。今のお前じゃ尻穴に辿り着く以前の問題だ」
ドルベに覆い被さるようにして、ベクターは彼の耳元に息を吹き掛けながらなるべく低い声で囁いた。
「顔以外ならいいだろ?…気持ち良くしてやるから、大人しくしてろよ…」
顔を茹で蛸のようにして、ぎゅっと瞳を閉じて頷く彼を一言で表すならまさに「処女」だった。ナッシュならいざ知らず、ベクターはそんなもの見せられても全く興奮しないが。
「まあ盛り上がって、ぶちゅっていっちまうかもなー」
「ベクター!!」
「うそうそ、冗談だって」
仮にもふざけてやろうものなら、ドルベの場合この後電車に轢かれるか屋上から飛び降りるようなこともやりかねない。彼のジト目を躱しながら、ベクターはドルベのネクタイを緩め、シャツのボタンを外した。
ドルベの耳の下や顎のラインを吸いながら、二の腕を撫でる。気持ち良いのか耐えているのかはわからないが、彼は熱い息を吐いた。
「気持ち良いか?」
「わ……わからない…」
キスする合間に聞いてやれば、戸惑うような返事が返ってきた。興奮を誘う為に、わざとらしく大きく音を立てながら、皮膚を吸ってやる。痕が残らない程度の力加減がなかなか難しい。
「ふ、ん……んっ……」
顔中にキスをしてやると、次第に彼の眉が緊張を無くして下がり始めた。それを見てベクターは、今度は首筋へと降りる。首筋から鎖骨にかけて吸ったり舐めたりしていると、色を含んだ吐息が彼の口から漏れた。このあたりは性感帯らしい。
筋肉の少ない華奢な体つき故か、性感帯への愛撫には結構反応するようだった。身体が強張って快感を怖れているだけで、緊張を解してやればちゃんと感じるのだ。
更に下に行き、はだけたシャツの合間から乳首に触れる。ピクリと腹筋が微かに動いた。
「そ、そんなとこ…!」
「ここも開発してやれば感じるようになるぜ?乳首弱い奴は結構ポイント高いんだよな。ここ触られてお前が感じてんの見たらナッシュは興奮するだろうなぁ?」
ナッシュが、という言葉に反応し、ドルベはゴクリと喉を鳴らした。単純だな、と内心鼻で笑いながら、貧乳な女子よりも肉がない乳首の周りの肉を掴んで揉むように触る。固い。
くるくると乳輪をなぞっていると、ドルベが切なげな声を漏らした。
「何だよ?」
「い、や…何でも、ない……」
「触ってほしいか?ここに」
ツンと指で乳首の先端をつつくと、最初に触れた時よりも大きく反応した。今度は腰が揺れた。
そのまま、指先でプルプルと弾く。ドルベは、短く声を出しながら震えるように息を吐いた。
「あふっ、んんっ…!」
「へぇー、感じてんのかよ」
「ベ、ベクター!」
「気持ち良さそうな顔してるぜ?乳首弱いんだなお前。純情そうなのにウケるぜ」
初めて触るのに、少し焦らして触るとそれだけで身体がビクビクと跳ねた。もっとも、それを快感として、というよりはドルベの中では「変な感じ」として受け取られているようだった。
「乳首立ってきたなあ。わかる?これ気持ち良いって証拠」
ベクターは意地悪く笑うと、片方の乳首を口に含んだ。コリコリと舌で転がしながら、ちゅうっと吸ってやる。強い刺激を感じたらしく、ガクンと腰が跳ねる。息を詰めて、いじらしく快感を逃そうとしているようだった。
「コラ、身体に力入れんな。緊張したら俺の頑張りが無駄になっちまうだろぉ?」
「だってっ……くぁっ!」
ウブな割に感じやすく、意外にも彼の身体は開発しやすそうだ。もっとも、彼の頭が「変な感じ」を「気持ち良い」と思うようになるまでには時間がかかりそうだが。そこに至るには頭にこれが快感だと教え込ませなければならない。
ベクターはそんな病気の過程を観察する医師のようなことを考えながらドルベのズボンに手をかけ、カチャカチャとベルトを外した。ズルリとズボンと下着を脱がされ、ドルベはぎょっとした顔をする。
「おやおやぁ?勃ってんなあ」
「はぁ、はぁっ……?」
ドルベは眼を見開いて、姿の変わった陰茎を自分のモノでないものを見るように見入っていた。
「しっかしお前上半身弄られてただけでもうこんなかよ。お前受ける側に回って正解かもしれねぇな」
「ああっ!っく…、アッ!」
先端をピンと弾くと、ドルベは顔をしかめて呻き、陰茎がビクンと反応した。自分の陰茎の変わり果てた姿にか、それとも普段他人に見せないところを見られているせいか、ドルベは恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。
「や、っ……恥ずかしい…」
「恥ずかしいも何もねーだろ。俺だって同じモン生えてんだから何とも思わねぇよ」
しかし、ベクターの目的はいきり勃った陰茎の方ではない。その更に奥、すぼまった尻穴のほうだ。
ベクターは黒いバッグからローションを取り出して指先に垂らし、ドルベのアナルを円を描くように撫でた。
「べッ…ベクター…!」
「何だよ、開発すんだろ?ここをよ。それとも今さら怖じ気づいたかよ?」
「いや……そんなことは、ない…」
「だったら大人しくしてろ」
ベクターはつぷりとドルベのアナルに小指を差し込んだ。どこも触らず、ただ出し入れをして異物感に慣れさせようと試みる。ドルベは、違和感からか、低く呻いた。
「うぐっ……つっ…」
「はぁ…狭ぇなあ。おい、力抜けって」
「はっ、…ふう……」
眼を閉じて、ゆっくり震えながらドルベは深呼吸をする。ベクターは様子を見ながら、恥骨や会陰を撫でたり、内股にキスをして気を紛らしてやる。
「辛かったら抜けよ」
「ぬ…ぬく……?なにを…」
「オナニーだよオナニー!お前そんなんも知らねぇの?」
確かに彼は、人間世界に来たのは一番遅かった。その生真面目な性格ゆえアリトやギラグのように人間世界の文化に触れることなく(彼らは堪能しすぎだが)、ここまで来てしまったのだ。オナニーの文化を知らないのも仕方ないかもしれない。
しかしいくら元がバリアンでそういうものと無縁だったとしても、その前は人間だったのだから、記憶を思い出しているなら自慰くらいしたことあるだろう。そう思って聞いたが、彼は眼をぱちくりさせるばかり。
(おいおい、こいつもしかして……前世童貞だったのか…?)
ベクターは驚いたというより、呆れた。よくこの無知さでナッシュを受け入れるなどと豪語できたものだ。
「手でチンコ擦ってみろよ」
「はっ…?」
「いいから擦れよ。気持ちいいぜ」
ドルベは恐る恐る手を伸ばして、自分の勃起したそれに触れた。形を確かめるように、両手で包む。
指先が先端の鈴口に触れるとビクッと彼の身体が跳ねた。
「あっ…!ふあ、ぁ…」
「そうやって自分で気持ち良いとこ触ってチンコ擦るのをオナニーっていうんだよ。ったく、常識だぜ、じょ・う・し・き!猿でも知ってるぜ」
最初はぎこちない動きだったが、気持ち良いところを見つけたのか彼は眼を閉じて感じ入ったように擦り始めた。ハア、ハア、と荒い息遣いをしながら、無心で擦っている。アナルに入れた指の存在も頭から抜けているらしく、尻の力が抜けていた。ベクターはその隙を狙って、小指を抜いて薬指を入れた。大きくなった指の存在を感じて、ドルベは呻く。
「ううっ…!」
「この辺か…?だぁかぁらぁ、ケツ締めんな!!」
若干額に汗をかきながら、ベクターは指を動かす作業を続ける。指が中を擦る度に尻に力が入り、アナルが締まった。重圧で指が折れてしまいそうだ。
目的とする場所がなかなか見つからず、自分から言い出したとはいえ面倒なことになった、とベクターが後悔しかけた、その時だった。
「うっ……ああ、…ああっ!」
「お」
ふいにドルベの身体が大きく跳ねた。陰茎に反応したのか、それともベクターが探していた一点に触れたのか。もう一度その周辺を触ってやると、控え目だがまた身体が揺れた。
ドルベの前立腺を見つけた。ベクターは汗を浮かばせながら、今日一番の笑顔を浮かべた。妙な達成感を感じる。
「見つけたぜぇーお前の前立腺!ったくシャイなんだからよぉ。散々人を焦らしやがって」
「あっ、あ…」
ベクターがそこを擦ったり軽く叩いたりするたび、ドルベはビクリビクリと身体を震わせた。しかし、まだ明確な快感とは言い難いようだ。恐らく乳首よりもまだ感じていないのだろう。
今日はここまでか、とベクターは指を抜き、ドルベの陰茎に触れた。
「あっ…?」
「あとは俺様が抜いてやるから力抜いてろ」
「あうっ、あっ!」
弱々しく陰茎を握っていたドルベの手を払いのけ、ベクターはそれをリズムよく扱いてやった。人の手で擦られると自分で擦るよりも刺激が強いらしく、ドルベはあまり時間がかからずに喘ぎ声のような呻き声のような声を出して射精した。少なくとも、人間になって初めての射精だろう。
「はぁーい終わりましたぁ。ドルベくぅーん、大丈夫ですかぁー?」
先程までの低めな声とは打って変わりベクターは陽気な声を上げた。バッグの中からティッシュを取り出して飛び散ったドルベの精液を拭く。
「はぁ、はぁ…おわ、り…?」
ドルベはクタリとマットに横たわり荒い息を整えながら、ベクターを見上げた。
「今日はな。アナル開発ってのはなあ、一朝一夕で出来るようなモンじゃねぇんだ。感じるようになるまでに時間がかかる。その前に!」
ビシッと、ベクターはドルベに人差し指を向けた。ドルベの無知さに、言い晴らしたい鬱憤が嫌というほどたまっている。
「てめーは知らなすぎだ!アナルセックスとか乳首性感帯とかは知らなくてもしょうがねぇけどよ。オナニー知らねぇって何だよ!?何お前男なめてるの?いや、お前よくそんなんでバリアン七皇なんかになれたなあ?」
「私を侮辱しているのか?それとこれとは関係ないだろう!」
「関係あるよ!カオスがあればなあ、普通性欲たまってオナニーくらいするだろ!それが人間なんだよ!男の嗜みだろ!性欲ないとか、アストラル人かっての……」
言いながら、ベクターはふとあることに気づいた。ドルベが行っていた、犯罪まがいの行動の数々……。彼は異常なまでのそれを見せながら、プラトニックラブを貫いている。彼の性欲はもしかしたら、そちらに昇華されてしまっているのかもしれない。
「ああもう、とにかく。間抜けな格好で凄まれても怖くねぇっつーの。服着ろよ」
ポリポリと頭をかくベクターに言われて、彼はハッと自分の下半身を見た。非常に間抜けな格好だ。股間を隠しつつ顔を赤らめながら、いそいそと服を着始めた。
「とにかくな、アナルセックスが出来るようになるまでには時間がかかる。いつできるようになるのかはお前次第だ。開発すんのも、ここで止めんのもお前次第だな」
「いや、やる。ナッシュの為に。ベクター…私に新しい可能性を教えてくれてありがとう。もう少しだけ、付き合ってほしい」
今度はちゃんと服を身につけ、ドルベは真面目にベクターを見つめた。彼はひとえにナッシュのためなら、どうでもいいことにまで熱心になる。
ベクターは、どんなくだらないことでも目標達成に向けて時間と労力を有意義に使うのが大好きだ。ドルベの眼を見ながら、いい暇潰しになる、とその口角を上げた。
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