マーメイド・シャーク/中(下)



 ドルベはまず、いつものように彼の性器を高めようとそれに手を伸ばした。しかしその手は性器に辿り着くことなく掴まれ、遮られる。
 驚いて彼を見た瞬間、後頭部に手が回され顔を引き寄せられた。そのまま、ベクターの唇がドルベの唇を塞ぐ。

「ん……」

 ベクターとの行為において、ドルベは彼と口づけをしたことはなかった。好きなように身体を弄り回され、彼の性器を高め、それをそのまま挿入されることの繰り返し。
 しかし今日は勝手が違った。ドルベの身体を弄くるのが目的ではなく、求めるような口づけと触り方に困惑した。舌が入り込んでドルベの舌と絡み、撫でるように動き回った。
 唇が離れると、今度は首筋や鎖骨をちゅ、ちゅ、と音を立てて吸われていった。それは段々下へ降りて行き、胸に辿り着く。ベクターはドルベの乳首を弾き、柔く吸った。

「はぁっ……ん、……ああ……」

 鼻にかかったような声が、息と共に出ていく。ドルベは困惑したまま、いつもと違う愛撫に段々と息が上がっていた。

「ドルベ……舐めろ」

 彼は胸から顔を離し、寝台に再び横たわった。
 ドルベは彼の身体の横に手を着き、まだ反応していない性器を手に取る。

「自分で慣らせ」

 ベクターの声と共に、何かが投げて寄越された。それは気紛れに彼がドルベに使う男性器を模した道具。もう片方の手でそれを取り、自分の孔に埋めた。
 片手で器用に性器の根元を擦り、顔を前後に動かしながら先端を口内で扱いていく。逆の手では埋め込んだ模型を良いところに当たるように動かして孔を拓いていった。

「んう…ん、……っは、…んん……」

「はぁ、…あ……いいぜ……」

 ベクターは気持ち良さそうに眼を閉じて、上を向きながら息を吐いている。その様子を上目遣いに見ながら段々と性器を扱く動きを早めた。

「ふん、いきたそうだな」

「っは、はぁ……もう……」

「我慢しろ」

「っ……ふ……うぅ…」

「耐え性のない奴だ」

 彼はドルベの髪を掴んで性器から顔を離し、後ろに向くよう命令した。膝立ちになったまま後ろから抱き込まれるように、ベクターが孔に挿入をしてきた。
 動きながら彼はドルベの顔を自分の方へ向けさせ、口づけた。舌を絡めながら、両手でドルベの身体を撫でていく。
 普段と違う愛撫で知らず知らずのうちに興奮していた身体は堪らずゾクゾクと震えた。

「あああ……!はぁ、あ…ん……あぁっ、あ…!」

「いつもより感じているようだな?」

「うぅんっ…ん、はぁ…あ、ああっ!陛下っ……!」

 唇を離すと唾液が糸を引いた。そのまま小刻みに身体を揺さぶられながら、性器を扱かれる。
 性器への直接の愛撫、そして内側から小刻みに前立腺を擦られる感触がドルベを快感に染め上げていき、頭が真っ白になった。

 だから彼は、気づかなかったのだ。
 二人以外に誰もいるはずのない部屋の扉が開いたことに。



(何故お前が……ドルベ……)

 ベクターの部屋に連れて来られたナッシュは茫然と立ち尽くした。信じられないものを見ている気分だ。
 ドルベが王に犯されている。
 彼の爽やかで精悍な顔は快感に歪められ、涙やら汗やら唾液やらに塗れていた。ナッシュの名前を呼ぶ優しい声は今、切ない喘ぎ声になって口から迸っている。
 彼の甘い声に、ナッシュの背筋がじんと痺れた。

「フフ、来たか」

 ドルベはベクターの声にハッと眼を開いた。扉の前に立つナッシュと眼が合うと、彼は愕然としたような表情を見せた。
 そしてみるみるうちにその顔は今にも泣きそうに歪められてゆき、しまいには両手で顔を覆ってしまった。

「やっ!やあァ!」

「おいおい、ナッシュに見られて興奮してんのか?孔が締まったぞ」

「や……!みないで……見ない、でぇっ……!」

「もうこっちも張ってるな。そのまま見られながら果てろ」

 そう言って彼の肩を掴み、ベクターは後ろから思い切り突き上げた。速く激しい動きに、顔を覆ったままドルベは仰け反って悲鳴を上げる。
 嫌々と首を横に振るが、動きが休まることはなかった。

「あっ!あ、ア、あァ、やぁあ!っぁ、…ああっ!」

 やがてドルベはナッシュの見ている前で身体を脈打たせて果てた。彼の内股が震え、性器から白濁が飛び散る様をナッシュの瞳は映していた。
 ベクターが性器を抜き、肩から手を離すとドルベの身体は前のめりに崩れ落ちた。
 しかしベクターはまだ達しておらず、性器は昂ったままだ。

「来い、ナッシュ」

 鞭を手にした近臣が後ろから小突くが、ナッシュは何も考えられないまま、まるで足に根が生えたように動けなかった。唯、寝台の上に倒れているドルベを見ていた。
 すると突然、後ろから布を口に当てられた。気づいたが遅く、咄嗟にナッシュはそれを吸ってしまう。
 それは媚薬を染み込ませたものだった。食事に手を着けず空腹だったナッシュに、薬はすぐに浸透した。布が外された頃には既に、頭がぼんやりと霞みがかり、脚がふらついた。
 ナッシュは近臣に身体を支えて連れて行かれ、寝台の上に投げ出された。

「薬が回ってるようだな。気持ちよくなりたいだろう?なら俺の言う通りにしろ」

 ナッシュは頭がふらつきながらも、愉しそうに笑う彼をキッと睨む。
 睨み続けていると、ベクターに頬を打たれた。身体が支えられず、ドサリと寝台に倒れる。ベクターはナッシュの頭を掴み上げて自らの性器をくわえさせた。頭を押さえつけ、腰を動かす。涙を浮かべえづきながら、ナッシュは口でベクターのモノを扱く。

「お前の眼、嫌いじゃないぜ。どこまでも俺に反抗してくる…そうでなくては、俺も愉しめない」

 ナッシュはただ苦しみに耐え、加速する腰の動きに耐えた。涙を流し続ける眼はベクターを憎しみで捉えていた。
 程なくして、彼はナッシュの口の中に射精した。精液を残らず舐めさせて、頭を離す。咳き込むナッシュの頭を再び掴んで、白濁で汚れ萎えているドルベの性器の前に屈させた。

「コイツのモノを抜け」

 思わず、ナッシュはゴクリと喉を鳴らした。癪ではあるが、ベクターの言う通り薬で火照らされた身体は快感を求めている。
 ナッシュの中を愛し、極上の快感をくれる彼の分身。見て触っただけで、腰がズクリと疼いた。まず竿や亀頭に残る精液をぐるりと舐めて、清めていく。
 精液を綺麗に舐めとると、竿の根元から食むように口づけ、薄い皮膚を吸っていく。ドルベのそれ自体を愛するように、殊更丁寧に愛撫を施した。

「ふ、ぐっ……!?」

 突然、後孔を開かれる感覚を感じて振り向いた。
 見るとベクターが、先程ドルベに使っていた男性器の模型をナッシュの尻に入れているところだった。捏ね繰り回されるように中を犯され、ナッシュは堪らず腰を揺らした。

「お前は声が出ないから面白くない。身体は淫乱で具合がいいんだがな。今も中を少し擦られただけで、腰が揺れている」

「ふぅっ…ふんっ……」

(くそっ…覚えてろ…!)

 甘さを含んだ息が鼻から抜けていく。尻を犯されながらベクターを見つめるナッシュの眼に呪いが込められる。しかし自由と力のない今のナッシュではそれも虚しいだけにすぎない。そう悟り、ナッシュは再びドルベのモノを口に含んだ。段々それはナッシュの口の中で大きく、そして硬くなっていった。
 彼は意識はなくとも快感はしっかり感じているようで、身体が震え、薄く空いた唇から小さな喘ぎ声と息を漏らしている。
 しばらく続けていると、ドルベの眼が薄く開いた。

「はぁ……は……あ……っ、ナッシュ……?」

 ぼんやりとした眼と、眼が合った。
 そのままふと眼を細め、じゅるじゅると音を立てながら性器を吸うとドルベはナッシュを呼び、腰を浮かせながら喘いだ。
 彼の名前を呼ぶ声を聞いて背中に快感が駆け上がり、模型を入れられている尻が締まった。

 不意に、尻にあったものが抜かれ、代わりに、熱いモノがナッシュのすっかり解れてしまった孔に宛がわれた。それはそのまま、ゆっくりと濡れた中を貫いてゆく。

「っふぅ!……ふ、っはぁ、はあ、っ…ふ……」

「っ…ああ、いいぜ。いつも通り、いい具合だな」

 ベクターにずんずんと勢いよく突かれ、ナッシュはぎゅっと眼を閉じて目尻に涙を浮かべた。中から全身に走る快感に耐えながら、ドルベの性器を舐め回していく。
 ナッシュの二つの口を犯している性器はどちらもパンパンに張り詰めていた。

「ああっ、いく…!いくっ…ナッシュ……!」

「くっ…ああ……」

 二人は同時に果て、ナッシュの口と尻を白く汚した。
 ナッシュは腹の中が溢れ返るような心地を感じながら、ビュッビュッと口の中に断続的に出される精液を飲んだ。

「ああっ!は…ナッシュ……」

 ドルベはナッシュを呼んで、労るように頬を撫でた。その感触が心地よく、その手に応えるようにぺろりと性器を舐めると、彼はビクリと腰を跳ねさせた。

「目ぇ覚めたかよ」

 ベクターはズルリとナッシュの中から性器を抜きながらドルベに声をかけた。ドルベはその声に、ここが彼の部屋だったことに気付き慌てて起き上がった。

「申し訳ありません……不覚を……」

「気絶するほどよかったか?……まあいい。俺は気が済んだ。だが、まだ何か物足りないんだよなあ」

 ベクターは言いながら、ニヤリと笑った。彼の笑みにあまり良くない予感が胸によぎる。

「そうだな。ドルベ、俺の前でコイツを犯せ」

「なっ……」

「俺を愉しませろ」

 ナッシュを犯す……ここで……。
 ふとナッシュの方を見ると、彼はまだ達していなかった。熱を解放してほしいのか、彼は自分の性器を勃たせ、ドルベのモノを握ったまま懇願するような眼でドルベを見詰めていた。
 ドルベは目を伏せた。ナッシュをここで犯すことなど、できるはずがない。ナッシュを抱くのは性欲処理のためではない、愛しているから……。
 だが、それは王の所有物に手を出しているということ。気づかれては、ならないこと。奴隷を犯すように抱くことができない彼にとってそれを晒すことは、ドルベが王の奴隷を愛していることを見せつけるようなものだった。

「何を戸惑っている?コイツは解放していた奴隷だ、お前も犯したことはあるだろう。俺自らコイツを使うことを許可しているのだぞ。何を困惑することがある」

「……」

 ベクターのせせら笑うような声に思わず彼から眼を逸らした。
 すると突然、身体が掴まれ再び寝台に倒された。見ると、ナッシュだった。彼の身体を掴むより早く性器を扱かれ、腰から力が抜ける。

「あっ…あっあ、ナッシュ!っふ……だ、め…だっ…!」

 再び勃起したそれに乗り掛かるように、ナッシュは自分の尻に擦り付ける。孔に焦点を当て、腰を下ろした。
 重力に従ってより深く中を犯され、彼は入れた衝撃で射精した。しかしそれに構わず腰を浮かし、動き始めた。

「ふ、っはぁ、……はあ…っは…」

 ナッシュはドルベの腹に手を付き、自分の萎えたモノを擦りながら腰を振った。眼を閉じ眉を寄せた切ない顔のその口からは唾液が零れている。
 ドルベの眼に彼の姿が扇情的に映り、思考とは無関係に彼の中に埋めたモノが硬度を増した。

「奴隷の方はお盛んだな?こいつはイイ恰好だ」

 ナッシュの痴態を愉しむベクターの笑い声がどこか遠くで聞こえる。
 愛する人の痴態はどんな強固な理性も確実に削いでゆき、快感と支配欲を煽る。ドルベも人間である以上、それには到底逆らえそうになかった。
 愛して、壊して、全てを奪い取りたい……そんな衝動が頭をもたげる。
 しかし、ドルベは眼を閉じて、腰を振るナッシュを視界から遮断した。最後に残った糸のような細さの理性が、彼を犯してはならないと戒めていた。

「……ナッシュ……」

 名前を呼ぶと、閉じた眼から涙が一筋流れた。ナッシュはそれをペロリと舐めとった。
 目尻に感じた感触でドルベは再び眼を開けた。すぐ目の前に、ナッシュのうっとりとした表情があった。濡れた瞳を歪めながら、彼の顔を両手で包む。
 すると突然、彼の顔が引きつった。その驚愕と恐怖を混ぜた表情にドルベも驚く。

「どうした?ナッシュ……」

 彼を呼ぶや否や、自分が挿入している孔に何か違和感と熱を感じた。
 自分のと違う熱。もう一つの硬い性器。
 まさか…………

「フフ……コイツ結構緩くなってきてるからイケるだろ」

「陛、下……」

「王の奴隷を犯させて貰って、気分はどうだ?王のものを摘まみ食いした感想はよお」

「陛下っ…私はっ……!」

「俺がもっといいものを見せてやる」

 ベクターは口角を上げ、ナッシュの尻に向かって腰を進めた。

「ーーーーーッ!!!」

 ずるりともう一つの性器がナッシュの中へ挿入され、ナッシュは眼を見開き、叫んだ。声が出ない代わりに多量の息を吐く。顔は蒼白になり、ガクガクと震える口から唾液が零れた。
 性器を抜こうとするも、先に奥深く入っているドルベのモノは二つの性器がひしめきあっているせいで抜くことが叶わない。ぐち、ぐち、と嫌な音がする。恐らく、血が出ているのだろう。
 ベクターは構わず、性器をドルベのモノと擦るように小刻みに動かした。硬いものが擦れる感触とあまりのきつさに、ドルベも息をあげていく。まるでベクターのモノに愛撫されているようだった。

 程なくしてドルベはナッシュの中で達した。ベクターもしばらく腰を動かした後、遅れて彼の中へと射精する。
 二人の精液とナッシュの血が中で混ざり合い、どろりと内股を伝った。



 ナッシュの身柄を任されたドルベは彼を抱えて浴場に直行した。ナッシュは気を失っている。恐らく、二本目の性器を入れられてそう時間が経たないうちに痛みで意識を飛ばしていたのだろう。

 中の精液を掻き出すと、指に血が付いた。そこまで深い傷ではないが、入口付近が切れているようだ。ドルベはなるべく痛みを感じさせないように気を遣い、彼の身体を清めていった。

 ナッシュが眼を覚ましたのは浴室から部屋に戻ってからだった。

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