2
時間が経つごとに混んでいく、3Sメイド喫茶。
限られた人数で客を捌くのも限界があり、
「結局こうなるんですね……」
「何で俺まで……」
非常勤(?)だった凛電の他、裏方に徹していたリゲルを始めとする男子生徒がメイド服を着て(強制的に)参戦するという切り札も発動された。
「…………」
「リゲル君、元気出して下さい……見た目的にも男にしか見えない分良いじゃないですか……」
「というと……、……ああ、そうっすね。残りはアイツらか……」
リゲルが視線を送る先には、
「はいは〜い! お待たせしました〜! ご注文の品で御座いま〜す!」
「シューさんも働くぞー!」
ノリノリでメイド服を着こなしてバリバリ働く、レムダとシューの姿があった。
そしてそれを、仕事をしつつカメラで激写しまくるフォルクの姿もあったが、
「ふふふふ……SJTの時代到来ねこれは……後はそうね、誰かセクハラ受けないかしら……」
不吉な発言から逃れるためにスルーする。
「……まあ、私達もいつまでもこうしてる訳にはいきませんよね。仕方ありませんが、働きましょうか」
「へーい…………つーかウィルアの奴、さっさと後輩の元行きやがって……絶対、コレから逃げるためだったろ」
スカートの裾を摘むリゲルに苦笑いを返しつつ、凛電は伝票代わりのメモ帳を手に取った。
「(……いなくなったといえば、私がメイド服を着る羽目になった原因を作った方はどこ行ったんでしょうね……)」
◆◇◆◇
「…………………………………………………………………な」
凛電はうっかりメモ帳を握り潰してしまわないように気を付けながら、目の前に立つ人物へのリアクションに困りつつ固まった。
「や。来ちゃった」
そんな凛電の動揺を知ってか知らずか、フランクに手を上げて会釈をする――
「…………な、何で、貴方が、客として来店して来るんですかぁ!
うるし先生!!」
「いやあ、店もあらかた回り終わったことだし、冷やかし半分に遊びに来たんだよ」
「冷やかし半分に来ないで下さい! 相手するほど暇じゃないのは(主に男性陣を)見れば分かるでしょう!?」
「じゃあ純粋に客として来ました」
「……」
悪びれなくサラッと言い放ったうるしに、凛電は何かを言うことを諦め、頭を垂れた。
「ん? どーしたの、落ち込んじゃって」
「誰のせいでしょうね……。……では、空いてる席にお掛け下さい。ご注文がお決まりになったら店員を呼んでください」
「あれ、何で普通の対応なの。無理矢理にでも作り笑いして『お帰りなさいませ、ご主人様♪』とか言ってみてよ」
「そういうのは、生徒の、女性の方々に、申し付け下さい、お客様」
「不誠実なメイドさんだなぁ」
口の減らないうるしに完全に遊ばれている感を感じながら、凛電は本日何度目か分からない溜め息をついた。
◆◇◆◇
――数分後。
「…………すみません。私が言ったこと、もう忘れたんですか?」
何故だか凛電は、先程別れた筈のうるしのいるテーブル脇に立っていた。
うるしはメニュー表を眺めていた視線はそのままに、
「生徒の女性陣をおすすめされた覚えはあるけど、凛電先生をこき使うなと言われた記憶はないなあ。それより凛子さん」
「あだ名付けないで下さい」
「これやってみない?」
凛電を華麗にスルーし、うるしはメニュー表のとある項目を指で指し示した。
「……【メイドとじゃんけん】? 何ですか? これ」
「客とじゃんけんして、買ったら客の要望を一つ聞くっていう定番のシステムだよ。一種のサービスだね。しかも客が負けても被害はない嬉しい特典付き」
「…………私に、それを貴方とやれと?」
「流石センセ。察しがいいね」
「いや、遠慮しますよ! 貴方に負けたら何言われるか分かったものじゃありませんし」
「え〜? 僕、お客様なんだけどなあ? ここの店員さんは冷たいなあ。先生がそんなんじゃあ評判も下がっちゃうよ?」
うるしの正論に返す言葉が無い。凛電はしばらくうんうん唸って考え込んでいたが、
「………………出来る範囲のものでお願いします」
「さすがに出来ないことをしろとは言わないさ」
てゆうか、命令されること前提?
カラカラと笑いながら、うるしはメニュー表を畳んでテーブルの上に置く。
「じゃ、せーの」
「じゃんけん、」
「「ホイ」」
[ 2/5 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]