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バトルサブウェイスクール――通称BSS。
只今絶賛文化祭シーズンなこの学校では、クラスごとに独自の催し物をする。
3Sクラスも、オーソドックスなメイド喫茶を改装した教室で開き、順調な盛り上がりを見せていた。
のだが、
「4番テーブルにお客……じゃなかった、ご主人様の御案内お願いしますー!」
店員としてメイドに扮した弥生が、新しく入ってきた客の対応をしていたが、不都合でもあるのか、困ったように周りを見回していた。
しかし、なんとか目線の先に手の空いている店員を見つけたのか、
「あっ……と、ちょうどいいとこに! ちょっとお願い出来ます?」
「えっ!? 私ですか!?」
指名されたメイドは、店員であろうにも関わらず何故か戸惑う。
「うち、これから用事があって抜けるんです……これだけでいいんで、お願いします!」
「ううっ……わ、分かりましたよ……」
どこか切羽詰まるように懇願する弥生に、さすがに店員も折れると、目に見えて弥生の顔がパッと明るくなった。
「おおきに〜! じゃあ、うち行きますんで! 頑張ってください、【先生】!」
「は、はい……。じ、じゃあ、おきゃ……御主人様……こ、此方へどうぞー……」
入り口から出て行った弥生を見送り、店員こと3S担任である凛電(♂)は、引きつった笑いを浮かべて客に向き直るのだった。
◆◇◆◇
「凛電先生、顔メッチャ引きつってんなー……やっぱ別の人に頼んだが良かったとちゃうかいな……」
やはり気になるのか、窓からチラチラと凛電の様子を伺う弥生。
その隣に、休憩中なのかメイドの格好をしつつ店を見学したフォルクが立つ。
「まあ、しょうがないわよ。まだまだ忙しくなりそうだし、この様子じゃ、まだ余裕な男性陣がメイドになっちゃうのも時間の問題かしらね」
「それはそれで、男子があんな風になるのは見えてるやろうけど……」
「それはそれでアタシにとっては無問題だけどね! むしろ早く来いSJT!!」
「え、SJT?」
クラスメート(男子)の女装の話になった瞬間テンションの上がったフォルクに戸惑いつつ、飛び出た単語に弥生は首を傾げる。
すると、フォルクは自信満々に親指をグッと立てて、
「スーパー(S)女装(J)タイム(T)!」
「…………さいですか……」
「あ、大丈夫よ! 女の子のメイド姿にもちゃーんと興奮してるから!」
「聞いてないんやけど!?」
「お、よく見ればメイド服のお陰で弥生たんの胸が普段よひまた違った趣で強調されてるじゃない! ちょっと揉ませて!!」
言うや否や、弥生にガバッと抱きつくフォルク。
「へ? っひゃあ!? どこ触ってんねん!?」
「どこって? 勿論弥生たんの……」
「いいい言わんでいいから! ハッ! てかウチ、こんな事してる場合じゃあらへんやん!」
今更ながら、弥生は自分が教室を抜けてきた理由を思い出した。
「フ、フォルクさん! ウチそういえば用事があるんよ!」
フォルクの手から逃れようと奮闘しつつ、声を張り上げ、
「ちょっと待ち合わせに間に合わんくなるから――」
「えーナニナニ? 愛しの彼氏とデート??」
「なっ――!? 何で分かったんや!?」
「え、正解? 弥生たん分かりやすーい! 赤くなっちゃって可愛いわね! このリア充め〜!!」
「ちょ、だから、胸離してって……、っ〜〜!!」
「何、この果てしなく介入しづらいアダルティな雰囲気……」
この後、ようやくフォルクから解放された弥生が、実は迎えに来ていてバッチリ一部始終を見ていた冬次に、慌てふためきながら言い訳をするのは、別の話である。
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