序章
月が綺麗な夜。月明かりは海を照らしキラキラと輝いていた。船の甲板の上には2つの影。周りは誰もいない。あまり変わらない姿、しかし確実に時はたっていて。少し大人びた互いの姿に懐かしさを感じ目を細める。
「いやー、久しぶりじゃのう。」
『そうだね、3年くらい?』
「もっとたっとるきに。大人っぽくなったのう。」
『辰馬もね。』
「そうかのぅ、あはは。」
『うん、老けた。』
「あはは…、泣いていい?そういえば金時達が探しとったぜよ。どこにもいないから死んだかもとか。色々な噂がたっとるが真相は誰も知らんまま。」
『この通りぴんぴんしてるわ。』
「まさか先に会うのが俺とは。あいつらから反感をかいそうじゃ。」
『辰馬とは仕事の用があったから。用がなきゃあったりしないよ。』
「おまんさん、わしが嫌いか。泣くぞ。とにかく金時達にも会ったらどうじゃ?まぁ、何年も姿を見せんかったって事は嫌かも知れんが。」
別に会いたくなかった訳じゃないけど。それなりに私も忙しく、それぞれの道に進んだのだと思っていた。だが懐かしくも思う。なにも変わらない辰馬を見ていたらあいつらにも会いたくなった。金時ね、クスリと笑った。まだ直ってないんだ、その言い方。何もかもが懐かしい。
『会いにいこうかな。』
「お、珍しいのぅ。お前さんがやる気になるなんて。なんかあったのか?」
『退屈なんだもん。』
「変わっとらんのぅ。大人びてるが、子供っぽく残酷な面も持ち合わせとる。人を退屈しのぎにするなって昔言われたじゃろ。」
『人生は一回、楽しまなきゃ損。退屈は敵、気楽に行こうじゃない。それに私が一番年下よ?一番下は何をやっても許されるの。なんか面白い事起きそうだし。』
「まぁ、会うというだけましか。この機会を逃したら名前はまた行方不明になりそうじゃし。よし、わしが江戸まで送ってやる!!」
『え、いいよ。』
「なんでじゃ!!」
『冗談だよ。ねぇ、江戸には小太郎もいるんでしょ?』
「あぁ、あと真選組がいるきに。おいおい、その顔。また何か企んどるな…。にやけてるぜよ。」
怖い、という辰馬に蹴りをひとつ。ここまで遊びという遊びをしてこなかった。だからこそ私は仕事に楽しさを求める。退屈は敵、楽しめる素材があるのに生かさないなんて馬鹿みたいだ。せっかく江戸に行くのだ、大いに楽しめたらいい。