迷子

目線の低い位置で知らない子供が泣いている。人間ってこんなにも涙と大声がでるのか、というくらいの大泣きで。どう対処していいかわからない私たちは子供を見ながら立ち尽くしていた。総悟が土方さんのせいでィ、とあからさまな溜息をつく。それに明らかにお前だろう!とトシが切れて更に泣く子供。こんな瞳孔開いた人とドエスに挟まれたら泣きたいよね、私も泣きたい。なんでこんな事になったんだっけ?それは少し前に遡る。

「名前ー。」

『なんだい、サボリ魔。』

「うわっ、人聞きの悪ィ。俺は今から見回りでィ。俺が汗癖と働いてるのに掃き掃除とは、楽でいいですねィ。」

『掃き掃除舐めるなよ。門の前は車も通るし、集めた葉っぱが風に浚われるんだから。で、何回か吹き飛ばされたので今は箒を動かすフリだけしてる。』

「あんたこそサボりじゃねぇですか。」

『女中のフリ、なんだから仕事もフリでいいでしょ。対して汚れてないしね。」

「昼まではき掃除と俺と見回り行くのどっちがいい?」

『…はき掃除。』

「はい、行くぜー。」

強制的に捕まれた腕に結局行くんかい!とつっこめばドエスな笑顔が返ってきた。名前は俺の奴隷ですよねィ、と言われてしまえば何も言えない。即効謝って嫌がっていた足を素早く動かし総悟の隣に並ぶ。よろしい、とか言って笑っても私には悪魔の笑顔にしか見えないのはなぜかしら…。それからパトカーに乗って止めた先は団子屋。駐車だけして歩いて見回るのかな。

『…総悟。見回りですよね?』

「あぁ、ちゃんと見てますぜィ?」

『回ってはいないね。一角しか見れないね。なんで団子屋で団子食ってんだろ?パトロールじゃなかったっけ。』

「そりゃここが団子屋で団子しか出せねーからでィ。」

『団子屋さんに失礼だからやめなさい。いつもこんな感じなの?』

「違いまさァ!!」

『うん、だよね。ちゃんと仕事もしてるよね。これはたんなる休憩で…、対して働いてないだろうけど。普段はもっと、』

「普段はもっと、昼寝して土方のヤローをバズーカで打って泣いてる子供苛めて…。屯所帰ってもどう土方の野郎を痛めつけるか考えてまさァ。」

最悪だな、まったくこのS王子が。仕事しなよね、といえば団子を追加する。人の話聞いてないな。というかそもそもこれ私いらなくないか。サボりの片棒担がされるだけだよね。先に帰ろうと立ち上がれば総悟も立ち上がる。泣いてる子供がいる、と楽しそうに近づいていく。はたから見れば優しいおまわりさんだがさっき子供苛めて、とか言ってたよね。あの子危なくね!?

「なんでィ。どーした?迷子か?」

「ぐずっ…うん…。」

『あ、なんだちゃんとやってんじゃん。心配しちゃったよ。』

「馬鹿だなー。お母さんもう他の男とあんな事や、」

『わぁ!!お姉さんが一緒に探してあげるから!少しだけ待っててくれるかなー。ちょっとなんて事をいうのっ。追い討ちかけてどうすんだよ、しかも子供になに吹き込もうとしてんの!』

「そうやって大人になっていくんでさァ。それなに言ってんのはこっちの台詞でィ。俺とのデートはどうするんですか。」

『…これデート?』

「前もんな話しやせんでしたか?」

『…さぁ。したよーな気もするが。デートかなぁ。団子しか食べてないけど。しかも私見回りに連れだされてんだよ。仕事するつもりで来たんだけど。』

「なんでィ、色気のない人ですね。なんだったらここから一気にデートっぽくしてもいいんですぜ。そうと決まれば裏道にいってホテルとしゃれこみますか。」

『真昼間から何言ってんの。今は奴隷といえどそこまでする義理ないから。もう総悟は見回りしててよ、私迷子の方やるから。』

「それじゃあ一緒に来た意味がないでさァ。待たせたな坊主、親子3人で出かけやしょう。」

『は!?』

「はたから見たら男女二人はデート。子供がいたら親子でさァ。で、なんて名前でィ。」

「ぐずっ…け、健太…。」

「健太。母ちゃんが見つかるまで遊びやしょう、な。ちゃんとその間も探すけどよ。」

「…うん!!」

「なに呆けてんでさァ。こんな小さな子をほっとくんですかィ?うわー…。」

うわー…、ってさ。あんたはさっきもっと酷い事をしてたよね。しかも、私が言いたい親子ってとこであって遊ぶ事ではない。まぁ、怪しい裏道に連れてかれるのもサボるのも嫌だし。仕事をしてるだけましか、と了承すれば意味深に笑う。俺の嫁って認めやしたね、なんて耳元で囁くから距離をとる。絶対からかわれてる…。私年上だよね?危険を察知して健太くんを真ん中に手を繋ぐ。

「で、健太の母ちゃんは?」

『どうしてはぐれたの?』

「買い物に来たの。…ママ、ぐずっ。」

「男が泣くんじゃねぇーやい。」

『とりあえず真選組には連絡したから。今皆で探してるからね、大丈夫だよ。』

「うん!!」

「じゃあまずゲーセン行こうか。」

『…あれ、総悟くん。親探しは?』

「そんなの山崎とか暇してる奴にまかせればいいんでさァ。遊ぶ、って言っただろ。」

「ゲーセン!」

「ほれ。健太も楽しんでまさァ。ブラブラしてたらそのうち見つかりまさァ。」

『こういう時って同じところにいた方が。…まぁ、いっか。遊びながらも探してよ。健太君もママっぽい人がいたら言ってね。』

はーい、と元気に返事する2人だが信用ならない。さっきまでぐずっていたというのにこの変わり身の早さ。子供は謎だ。そして総悟の真意もわからない。ただ遊びたいだけなのか。奴隷という言葉にびくついていたが平和ならなにより。気を紛らわせておくに越したことはないしな、とうるさい店内に入った。総悟と健太君の後をついて見ているだけだったが、

【凄い!!凄い!!】

「名前…、ガキですかィ?健太と一緒になってそんな喜ぶなんて。ただFUキャッチャーでぬいぐるみ取っただけですぜ。」

『だってゲーセンなんて来たことないし!わぁ、総悟って本当に器用だよね。』

「…1回はあるんじゃないですかィ?」

『いや、仕事してたし。暇もないし追われてることも多かったからさ。同じ年代の友達いなかったしね。1人で来る勇気もないし、必要もなかったというか。』

「…ふーん。(なんでそんな働いてるんだと思ったら遊ぶってことを知らないのか)健太。ウサギさんがいるから遊んできなせェ。迷子にはなるなよ。」

「うん!!」

『あはは、着ぐるみに抱き着きに行ったねぇ。泣き止んでよかったよ。』

「…俺もでさァ。」

『ん?』

「ゲーセンとか名前みたいに全然遊んだ事がないって訳じゃないけど…、同い年の友達がいなくてねェ。」
 
『そういえば総悟の周りは年上ばかりだね。全然臆してないというか、年上の人達がひれ伏してるというか。』

「まぁ、強ぇからな俺は。まぁ、だから名前が真選組に来てくれてよかったと思いまさァ。」

『総悟…。』

「あ、夏休みもらったら、ゲーセンいって映画みやしょう。海も行って、名前のやった事ないことやりやしょう。せっかく江戸に来たってのにあんた遊んでないですし。どんどん年取るんですから今のうちでさァ。」

『最後は余計だけど、ありがとう…。』

照れたようにいつものドエスっぽい顔じゃなく年相応に笑う。その顔が凄くかっこよくて、ドキドキした。眺めているとなに見てるんでィ、と頬をつねられる。ときめいちゃって、と素直に口からでてしまい恥ずかしいのを誤魔化すようにはにかむ。総悟にそれが伝染したのか頬をうっすら染める。お前黙ってたら本当可愛いな。口が裂けても言えないが。

「…名前といるといつもの俺じゃないみたいでさァ。こんな事言ったの初めてでィ。」

『総悟って…普通にカッコイイね。』

「おい、普通ってなんでィ。」

『いや、本当に。まじで今ドキドキしてる。』

「惚れやした?」

『ははっ。あ、健太ー。おかえりー。』

「あり、呼び捨てだ。お、名前ー。親が見つかったみたいなんで一回屯所に行きやしょう。山崎から連絡入りやした。」

『健太、よかったねー。見つかったって早く行こっか。』

「うん。お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう。」

「礼を言うのは母ちゃんにあってからでィ。あと俺はぐらかされたんですがね。」

じっ、と私の顔を見る。惚れたか、ってやつか。今の総悟はいつものからかったり、冗談の感じがなくて困る。仕事ではいくらでも男性と嘘で愛を言えるのに。言葉に詰まってると頭にチョップを食らわされた。早く帰るぞ、と歩き出す後ろを慌ててついていく。

「こっちでーす。あ、君が健太くん?お母さんもう少しでくるからね。あとはこっちでやっておきます。」

『さすが退くん。私疲れたりー。』

「俺も疲れたりー。」

「ははっ、お疲れ様です。2人共なんか仲良くなりましたね。」

『…友達だから。今日は総悟がドエスだけじゃないってわかって惚れ直したんだよ。』

「そうでさァ。俺はダチに優しいんでね。」

「いやがったっ。総悟、てめぇまたサボって団子でも食ってたんだろ。」

『トシ、ただいまー。』

「おぅ。一緒だったのか、あらかた連れまわされたんだろうけどな。玄関に箒が置きっぱなしだったぞ。」

『よくお分かりで。』

「失礼な、ちゃんと仕事してまさァ。この通り迷子を連れてきたんでィ。」

「迷子?」

「健太ですっ!!」

「…迷子のわりには元気だな。」

『ビービー泣いてたくせにー。』

「何言ってるんでィ。男は泣かないよなー。」

「なー。」

「…総悟と息ぴったりとか、将来ロクな大人になんねーな。」

「なんでィ。土方、崖から落ちて死ね。」

「てめーが死ね。」

「殺るんですかィ?」

「上等だ、表でろやァ。」

ちょっと、2人とも。今は子供がいるんです。しかもここもう表だしな。けど今日はほのぼのしてて止める気にはならないな、と思っていたが総悟のバズーカで目が覚めた。そんな悠長こといってられないっ。そして健太が泣き始め、って事で最初に戻ります…。

「土方さんのせいでィ。」

「明らかにお前のせいだろォォ!!」

「瞳孔開いてて怖かったんでさァ。」

「一理あるかも…。」

「山崎ィィ!!」

「ギャーァァ!!」

「あの…。」

「ママ!!」
 
「もう勝手にいなくなるんだからっ。本当にお世話がせしました。ありがとうございます。」

『いえいえ。あの2人揉めてるんで今の内に帰っちゃってください。巻き込まれたら大変ですから。バイバイ健太。』

「バイバーイ。」

『ふぅ、一件落着だね。あ、そういえばトシのマヨネーズがきれてたんだ。ちょっと買い物に、うーん。皆聞いてないね。」

他の隊員をも巻き込んで皆さん鬼ごっこになっている。ほっといて買い物に行こうとスーパーに向かい、重いマヨネーズをぶら下げた帰り道。まさかね、まはか迷うなんて。私も迷子かよ…。まぁ、私は江戸にきたばっかだし観光いった時も結局銀時の家にいたし。身についたスキルで道を覚えるのは得意だけど。

『(皆との会話が楽しくて道なんて見てなかったな。迷うのも当然か)気が緩み過ぎだな、』

「まじでー。」

「ね、カラオケいかない?」

「いくいくー。」

『(同世代くらいか。私もああいう道もあったのかな)』

甲高い笑い声をあげながら去っていく女の子を見る。ゲーセンいってファーストフード食べて、化粧して服に悩んで。カラオケいって女友達と愚痴こぼして。なんで私には何1つないんだろう、って時々思う。けど、私は、

「おい、名前じゃんか。何やってんだ、そんな大量にマヨネーズ持って。お使いの帰りか?あ、もしかして迷子?」

『そうなんだよ、銀時…。いいとこに来たね。』

「パチンコ帰りでな。すったけどお前に会えたからいいわ。なに、辛気臭い顔してんだよ。銀さんがいれば安心だぜ、どこでも連れて行ってやるよ。」

『(私は今のままで充分幸せだな)それは心強いけど、銀時が嫌いな真選組ですよ。』

「あ、そうだった…。名前のためなら行ってやらァ!!」

『ははは、頼んだよ。』
 
スクーターの後ろに乗って少し寄り道する。あそこはなにで、あっちはなにがうまい。そんな下らない会話をしながら笑い合う。私は皆より多分珍しい道を歩んでる。知人には犯罪者もいるし自分もぎりぎりのラインに立っている。だけど後悔はしていない。自分の道をしっかり持っているから。もし迷子になっても手を引っ張ってくれる頼れる人がいるから。幸せだな、と夕日を見ながら思った。


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