仕事

今日はあまり天気がよくないようで雲の空がどんよりしています。もうすぐ梅雨も終わるかな、なんてボケっとしてたら後ろからタックルされた。痛い、めちゃくちゃ痛いですがな。後ろを振り返ればいい笑顔をした総悟がいた。このドS王子め。

「何マヌケな顔してんでィ。まぁ、こうジメジメしてると皆やる気がねぇーでさァ。山崎は別だけど。うざって。」

『それってどういう意味?』

「山崎の事なんか気にすんな。そうだ、着替えて稽古場にきなせェ。俺が直々に稽古つけてやらァ。」

『わぁ、嬉くない。着替えって動きやすければなんでもいいの?』

「そうですねィ。破れてもいいような服できたほうがいいですぜィ。じゃあ、待ってまさー。」

『破くほど私をしごく気ですか。あ、聞いてないし了解ですー…。』

こんなジメジメした日に稽古かよ、なんて考えながら着替えて稽古場に向かう。まぁ、私は腕っぷしには自信がないし今や奴は先輩。NOとも言えず大人しく従う。嫌がったところでドSの火を点けるだけだしね。

『(でも一番隊隊長直々指導って案外凄いかも、)』

「ふんっ!!ふんっ!!」

『退君?』

「あぁ。名前ちゃん。おはよう。」

『おはよう。バトミントン?』

「ミントンだよ。一緒にやる?」

『今から総悟に稽古を、え。なにその顔…。なんで手を合わせてんの!!?』

「じゃあ俺はこれで…。」

『ジミー!!ちょっと!!見捨てんなよっ。』

「山崎ィィ!!またミントンしてんのか!」

「ギャアー!!副長ォォ!!」

あ、ザキがトシにやられた…。へへ、ざまーみろ。しかしさっさと逃げればよかったのにザキに気を取られ総悟が向こうから来てしまった。内心舌打ちの思いだが逃げられないので覚悟を決める。一緒に道場へ行き、木刀を持とうとしたら止められた。

「名前は普段刀持ってねぇでしょう。あんたが腰にさしてるとこ見たことねぇし。」

『まぁ、潜入がメインだから。廃刀の時代に刀さしてたら捕まるじゃん。しかも女。』

「だろうねィ。旦那と一緒にいたわけだしたしなんでるかと。だけど普段使ってねぇからいらないでさァ。」

『え、素手ですか?』

「とりあえず防御方ね。普段やらないもん今から稽古つけてもしょうがねぇし。体術の方をと思ったんでさァ。」

『なるほど。剣術しごかれるよりよかったわ。ん、体術の方が打ち身とか酷くなりそうだな…。まぁ、仕方ないか。』

「でも少しくらいできんだろ?今までどうしてたんでさァ。」

袖に隠していたナイフで綺麗な顔を狙う。小型ナイフねィ、と余裕の顔であっさり総悟に腕を取られてしまった。結構本気でいったのにやはり敵わないか。わかっていたが若干悔しい。まぁ、綺麗な顔に傷がつかなくてよかったが。

「よくそれで生きてこれましたねィ。」

『上からの命令の時は始末屋とかがついてたし。あくまで私は情報を聞き出すだけ。やばい時は自分が死なない程度に時間稼ぎすれば誰かが助けに入ってたから。』

「まぁ、山崎も聞き込みの時に怪我したことはあんまりねぇーでさァ。変装がバレたらどうしてやした?」

『バレた事ない。だからってのもあると思う。疑われたことあまりないから危ないこともない。』

「…まぁ、誇れる所はそこだけだからねィ。」

『おい。サラリと失礼な事言ったぞ。腕っぷしいいより潜入捜査バレない方が凄くないかなっ!』

「まぁ、バレないならいいや。名前は危なくなったら絶対逃げる。これは約束ですぜィ。助けにいくのは俺たちがやりますが無理はしない事。」

珍しく仕事の顔なのでこくりと頷く。それに満足したのか私の力を知れたのでもういいのか稽古場を出て行くので付いていく。まぁ、今更稽古つけても無駄だと思われたのかもしれないが。バレなきゃいいと言われたし大丈夫だろう。

「真選組に入った事なんかすぐ知られる。そしたら人質にもとられやすい。潜入ってのは顔がわれてちゃおしまいだろ?これからは前よりやり辛くなるし危険が増えまさァ。」

『私どんな脅しにも屈しないぜ。』

「…それが怖いんでさァ。」

『総悟?』

「時には引くことも大切だ。侍なら仲間のために自分を犠牲にしても戦い抜く。それがそいつの武士道なら俺は文句はありやせん。」

『私は武士じゃないから引けって?』

「戦うのは俺らの仕事でィ。…無茶しねーでくだせィ。あんたが死んだら守りたくても守れねーや。」

そう言った総悟の顔は大切なものを亡くした顔だった。女だからと置いてかれた昔の出来事が思い出される。どうやったって彼らと並べない私。それが悔しくて私も男になりたかったのはもう可愛い昔の話だ。今は私に出来ることで彼らの隣に並びたい。私は総悟の手を取って言った。

『わかった。でも総悟も無茶しないでよ。』

「当たり前でさァ。」

『それから私は侍じゃないから武士道なんかないけど、仲間だから。女とか侍とかそんな理由で仲間のために引く引かない、ってのは嫌。本当にまずい時は逃げるけどやすやすと仲間は見捨てないから。』

「…へぇ。」

『へぇ、ってなにっ。生意気言った?いや、あのでも皆が怪我するのは嫌だし負けるのも嫌だからあまり不利になる情報は漏らしたくないし。そんな情報もってないけどこれから疑われるって事だよね?バレない自信あるけど万が一の時は引きたくないから。でも引けっていうし、ん?なに言ってんだ自分。』

「よくわかりやした。死なない程度の安全で俺たちも守ってくだせぇよ。仲間の事。」

グシャグシャと頭を撫でられた。あれ、私年上だよね?でも言いたいことは伝わったみたいでよかった。それに仲間と言ってもらえた。嬉しくて微笑む私により頭をぐりぐりと撫でる総悟。若干痛いっす。

『で、急になんでこんな事を?』

「初仕事だからでィ。土方さーん、連れてきやしたぜィ。」

「あぁ、入れ。」

『あぁ、仕事か…。…まじでか!!』

「あぁ、まじだから座れ。」

『キャッホーイ。で、なんですか!トッシー。初仕事ってなんですかっ。は、や、く。』

「うぜーよ。こいつのテンションうぜーよ。」

「いいからさっさと話せよ、土方。」

「なんでてめーさぇは偉そうなんだよ!!…名前。お前がどんな仕事をしてきたか知らねーが今回は危険だ。」

『…危険ってどれくらい危険?例えば宇宙船から飛び降りたり解体されそうになったり。ジャスタウェイがいきなり爆発したり?それとも巨大エイリアンに丸呑みされそうになったり?」

「…よく生きてたな。」

「生命の神秘でさァ。あれ、さっきバレたことないって言いませんでした?」

『解体されそうになったのは私じゃないよ。私はその状況でもバレない変装をしていたよ。あと巻き込み事故だから。絶対ザキより使えるよ。』

「情報網も広いからな。」

『うん。様々なパーティーで食い倒れツアー開催してるからね。』

「ツアーかよ!!」

「今度俺も連れてってくだせェ。」

『いいよ。美味しいし食費が浮いて助かってるんだ。それにそういうとこの方がお偉いさんが集まってて情報が集まるしね。』

「連れてってもいいのかよ…。あーで、今度上が集まる会議があるんだけどよ。それを狙う動きがある。」

『まぁ、上が固まってたら殺すチャンスじゃん。いつも潜入してて馬鹿だなぁ、と思うよ。そりゃ狙うよね。』

「お前はどっちの味方なんだよっ。」

『で、その動きを調べて欲しいの?』

「あぁ。どこで待機するのか、何人なのか。まぁ場所と人数が分かれば俺らが行って切りかかれるからよ。」

『なる程。で、私1人?』

「山崎も連れてくか?」

その提案に悩む。真選組としての仕事は初めてだ。潜入は私のが上手くても仲間と動いて情報を流すことはザキが上だ。私は個人行動派だからな。これからの事を考えて組むのもありだ。きっとこういう機会が増えるだろうし。

『うーん…。ザキ仕事できんの?』

「おいィィ!!人を使えないみたいに言うなァ!!」

「パシリぐらいには使えまさァ。」

『なる程。』

「嫌な上司だなっ。」

『あ、そういえば私の地位ってどこ?』

【俺の下。】

『…4番目ってこと?』

「まぁ、名前は俺の補佐だからな。」

「いつ決まったんでィ、んな事。やめなせぇ、ヤニ臭くなりやすぜ。」

「てめぇがやらねぇ仕事が俺に回ってくるんだから仕方ねぇだろ。始末書さえかかねぇくせに。」

『あ、私地味な作業好きだよ。書類整理したーい。』

「じゃあ俺のお願いしま、」

「自分でやれ。」

「土方さんには聞いてねぇーでさァ。」

「名前は忙しいぞ。真選組に入ってるのがバレちゃあヤバいからな。いつもは女中みたいな仕事をしてもらう。」

『…雑用かよ。』

「いや、見かけだけでいい。書類の整理はやってもらうが。」

『なる程。見かけだけ女中で隊士じゃねーよ、オーラをだすんですか。』

「あぁ。で、山崎は?」

『いらない。』

「なんでェェ!!」

『いや、1人のがやりやすくない?慣れた方がいいかとも思ったけどとりあえず初だし1人でやってみるよ。』

「わかった、とりあえず無線機だ。何かあったら連絡しろ。」

『了解でーす。』

「土方さん。心配なんで俺外で待機しててもいいですか?団子屋あたりで。」

「サボる気満々じゃねぇーかァ!!ってかお前見回りは?」

「…あたた。急に腹がー。」

私にもたれかかるように倒れた総悟を容赦なく叩くトシ。朝の卵腐ってたらしいよ、とつい便乗して冗談をいうと廊下を通りかかった人が勢いよく部屋に入ってきた。いや、待てこれ人じゃないし。

「まじでぇ!!俺卵がけご飯にしちゃったよっ。」

『うわぁあああ!ここにゴリラが!総悟、動物園に電話っ。』

「了解でさァ。」

「ちょっと待ってェェ!!俺だから俺ェェ!!」

『俺俺詐欺か!!警察に電話!!ってここ警察じゃん。トシ、あれ。手錠だよ、手錠っ。』

「ここにありまさァ。」

「いや、待て待て!!それ近藤さんだから。顔が腫れまくってて誰かよくわからないが近藤さんだ。」

「ああ、これはなぁ。お妙さんからの愛のムチさ。」

『で、いつ潜入すれば。』

「あぁ、そうだな。まずこれが資料だ。こっちは地図で避難経路には印が、」

「ちょっと、シカトしないでっ。勲泣いちゃ、がっ!」

「んなとこいてー。邪魔だからおじさん踏んじゃったじゃねぇーか。このヤロー。」

【とっつあん!!】

「名前ちゃんが初仕事ってー、聞いておじさん飛んで来ちゃったよ。」

『ありがとうございます、松平様。全力を尽くして頑張ります。』

「健気で可愛いねぇ。そんないい子にはお土産だよ、って事ではい。いざとなったらこれで相手の頭に風穴あけちゃって。おじさん全然気にしないかぁら。」

『おー、ありがとうございます。かっけー。あ、軽い。使いやすさそう。あ、いいね。』

「いいね、じゃねーよ!銃口をこっちに向けんじゃねぇっ。危ねぇーだろうが!」

「いいですぜ!そのまま撃ちなせェ!」

「とっつあん。やっぱり名前ちゃんには無理じゃないか?」

「何いってんだよぅ。おじさんは信頼してるんだよ、このゴリラ。おまえら男どもより使えるし可愛いんだよ。」

「ゴリラ関係ないよね!」

「でも俺も危険だと思います…。」

「そうでさァ。銃なんかお守り程度にしかならねぇ。いざってときに戦えるわけないしな。」

なんで皆さんんな真剣な訳?大丈夫なのになぁ。私侵入なんて何百とやってるし。バレたこともないって言ってるのに。もう一度説得すれば渋々頷いてくれた。

「…まぁ、危なくなったら逃げて連絡よこせよ。まず変装するのは新しく攘夷になった役だ。」

『なる程。それでそいつらのボスのグループに入れてください、っていうのか。』

「そうでさァ。それで、なんやかんやでお近づきになってくだせィ。」

「なんやかんやでってなんだよ…。まぁ、あくまでも情報収集だ。ある程度分かったらすぐ帰ってこい。上の奴に近づくなよ、危険だ。奇襲をかける下っ端の奴らにだけでいいからな!」

『わかった、わかった。地味に目立たないでザキみたいにしてればいいんでしょ。』

「俺みたいってなんだよォォ!!」

「じゃあ、早速いけ。」

『早いなー。』

「いいか、高杉晋助には気をつけろ。できれば奴の居所を掴みたいが新しく入った下っ端に教えるわけないしな。とりあえず奇襲を仕掛ける詳細が聞ければいい。」

『はーい、ってえ?高杉っていいました?もしかして私が行くのって高杉率いる鬼兵隊だったりー、』

「ああ、よく知ってるな。」

嘘だろ。色々な意味でやばい。私は無事に帰って来れるのかな?いや、でも晋助に会う確率なんてそう無いはずだ。下っ端連中に話を聞くだけだし、うん…。雲の空はいつの間にか大雨になっていた。


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